夜襲

高級住宅街の一角、広大な敷地の隅に佇む三つの影。長身痩躯の男、白く浮かび上がる影、そしてふんわりと鯨骨の傘の浮かぶスカート姿。

『良いな、確認でィ。あの通路に通じる排気孔から入る。俺が超音波放ったらハク、おまィは思い切り吠えろィ。それで人数がだいぶ減らァ。したらコク、おまィは正面入り口に向かって火焔を撒き散らせ、それで一掃だ。息のある奴らァ俺とハクで喰い千切る』

『了解』

『ん、OK』

長い影が本日与えられたミッションを述べる。若干小さな二つの影が、それに諾と答えるや否や走り出す。

――――

細細い通気孔をスルリと抜けて繋がる天井から音もなく廊下に降り立った長い影。ニィと笑った薄い唇から音にならない高周波が広がる。唱うように楽しげに超音波を放ち続ける。
屋敷の主の眠る建物の最深部へと通じる廊下を守る、数に頼った警備の大半が混乱をきたし壁にぶつかるやら同士討ちやらを始める。入り乱れる警備兵をクツクツ笑いながら見やり、一歩引く。

『行けハク、おまィの番でィ』

『アォォオオオオン!!!!!』

天井から首だけ出した白い影が吼える。逆さになり結った髪が下へと下がり、その怒号に揺らめく。
突然の大音声に逃げ惑う警備兵。窓から飛び出す者、慌てふためきぶつかり合う者。戦意を失い散り散りになって逃げてゆく。

『仕上げだコク』

混乱状態に陥っていた残等に意識が戻るが、そこは既に阿鼻叫喚の地獄絵図。動物性タンパク質の焼ける嫌な臭いが立ち込めるなか、光を吸い込む黒い炎に包まれて崩れ落ちる。縋るように手を延ばしながら。ジュゥゥ…と鈍い音を立て、廊下に焼け跡と焼死体が転がる。

爛れた壁紙に、チリチリと音を立ててくすぶる木炭の窓枠。
侵入当初の三分の一にまで減った警備兵たちも、物言わぬ肉塊になり異臭を放つ。

『こりゃオレらにもう用はねぇかな。なぁカホリの兄貴』

焼死体の一つをブーツの先で蹴飛ばして、敵の完全沈黙を確認する白い影。

『そォさな、ククッ…エグいなィ。さァてこっちの仕事は終いでィ、カミッツァンのとこに繋ぎを取ンねェ、後は頭を刈るだけってな』

――――

道は作った。後はエグゼクショナーがクライアントの依頼を果たすのみ。

ミッションコンプリート

カホリ+ハク+コク

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