永遠の記憶 ※グロ注意

12のとき、
死んだツレの肉を喰った。


喰うもんに困ったわけじゃねぇ。
ただ…俺を庇って死んだヤツが、酷く愛おしかった。

死の瞬間は、酷く長かったように感じた。俺は動かないヤツを抱えて逃げた。国境の岩場の塒まで逃げた。

一心地ついてから、ヤツをまじまじと見た。目の前に横たわったそいつは赤黒い血にまみれ、生前の輝きを失った瞳は暗く濁り俺を映さない。移動中の失血で肌の色も人に有らざるものになっていた。こびりついた血の色だけが、ヤツの生きていた証のようだった。
膝を付いてそっと近づき、髪に触れる。クシャクシャとした癖のある髪は、やはり血に濡れてべっとりと固まっていた。
ヤツの頭を抱きかかえて座り込み、血や泥を拭うように、その頬に舌を這わせた。
嫌悪感はなかった。
冷たい。固い。モノになっちまったヤツ。気付いたら傷口を抉るように舌を動かし、ヤツの体内に残った僅かな血を無心に啜っていた。
ヤツの体の冷たさに反して、俺は熱の籠もった激しさで血を貪り、傷口に歯を立てた。

そこからはもうなし崩し。
固くなった肉を喰い千切り、咀嚼して飲み下す。もともと1つずつしかなかった腕と脚を喰い尽くし、骨に僅かばかりの筋と軟骨が残った。
モノと化したヤツの躰は脆い。
手足を引きちぎって、塒の隅に放る。
胴体に首だけ付いた奇妙な姿。
幾重にも傷付き傷跡が重なった腹部に爪を立て力任せに割腹すると、ドロリと濁った冷たい血が溢れる。
構わず裂け目に手首まで突っ込む。グチャグチャと嫌な音を立てながら躰の中に沈む手首。柔らかな内腑に触れる。
腸と思しき臓器を掴み、ズリズリと引きずり出す。
皮膚は失血により汚く変色していたが、内腑はまだ鮮やかな桜色を失わず、あまりの感動に恍惚の表情でその臓器に頬摺りをした。
口から滴るヤツの血と体液でベトベトだったが、生きていた中でこんなにも幸せなことはなかった。


それから4日かけて、ヤツの躰を喰らった。
三日目に喰った心臓の味はきっと死ぬまで忘れない。命そのものを喰った気がした。愛しかった。
五日目、ついにヤツは首だけになった。
首以外の骨は、ひとところに纏めて積んである。干からびた血が、筋が、髄液が腐臭を放つが、それすらも神聖なようだった。

立ち込める異臭の中、ヤツの首を胸に抱いて、初めて俺は涙を流した。
ヤツの死に対するものか、助けられなかった自分に対するものか、この背徳的と言える行為に対するものか…いや、全て違う。
満足感…否、幸福感だった。
俺の為に死んだヤツが、今俺の一部になっている。死ぬまで離れることはない。
醜く汚い自分の躰まで、愛おしく神聖なモノのように感じた。

俺は生きる。
フュームの為に。
哀れな魔人の為に。


抱き締めていた首を視線の高さに掲げると、固く冷たい唇に自分のそれを重ねる。
乾きつつあるヤツの口内に自分の唾液を流し込み、舌を絡め、吸い上げる。
拙いながらも愛を込めて。

一生忘れない。
俺の血肉になったお前を。



カホリ×亡き友フューム

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