偶然の必然



汚い街角のゴミバケツで寒さをしのいでたオレに差し伸べられたのは、意外な程優しい掌だった。


オレが六つのとき、空っ風を遮るにはうってつけのゴミバケツの底で丸まってた。そん時ゃまだ名前なんかねぇ、ただのイキモノ。しかも汚ぇし臭ぇし痩せっぽちで、役になんざ立たねぇ。同じスラムの連中からも、汚ぇから寄るなだことのクズだグズだことの言われて。
負けじと吠え立てて、牙を剥きながら、どこか寂しかった。

そんなとき、ゴミバケツの蓋を開けたのが兄貴だった。…勿論兄弟なんかじゃねぇ。…や、実際兄弟かもしんねぇけどな。んなこた関係ねぇ

『そこ、暖けェか?』

第一声はそれだった。兄貴はゴミにまみれたオレに、臭ぇとも汚ぇとも言わずに手を差し出した。

『出てこいチビ、んなとこより暖けェとこ行こうャ』


連れられたのは繁華街の裏。開け放された調理場の裏戸のせいか、表の活気のせいか、はたまた差し伸べられた手のせいか、そこは今までに無い程暖かかった。

あん時兄貴は16で、其れなのに、その背は遥かに遠く、けど…頼もしかった。
今、オレぁ17。兄貴にゃその時からくっついてる。あん時さし伸べられた手は、子供の気紛れだったのかも知んねえけど、オレにゃ紛れもない救いだった。

『ハク、ボーっとしねェ、気色悪ィったらねェヨ』

…ハク、名無しのケモノだったオレの名前。チビだったオレにゃ勿体無ぇ名前。兄貴がくれた唯一無二。
呼ばれる度に、柄じゃねぇが確かに思う。あん時差し伸べられた手は、気紛れじゃねぇ。…運命ってヤツだってな。




ハク+ゴクエン

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