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心霊スポットで今からYouTuberたかしを襲撃する 12 たかしとマサル2

 一抹の不安に苛まれていると、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえる。
 「こっちだよ。おいで、連れてってあげる」
 マサルの声だ。
 俺は安堵し声のする方へ向かった。もしかしたら元の時代に戻れるかもしれないと思っていたのでついていくことにした。

 「マサル、お前無事なのか」
 「こっちだよ」
 俺は、マサルの小さな背中が見えたのでそのまま山の奥へと進む。
 マサルと久しぶりに会話出来てうれしくなり、さっきまでヤバいYouTuberに追い回されていたことを忘れかけていた。
 奥へ奥へと進むごとに空がだんだん薄暗くなっていき、辺りが不気味に感じた。
 そんなとき、俺は何かに躓いて危うく転びそうになった。
 その時に振り返ってみると、たかしが当時使っていた神社のお守りのついた四角い子供向けのアニメキャラの筆記用具が落ちていた。

 「なんで、こんなところにあるんだろう」

 俺は何気にその筆記用具を拾い上げてみると、表面のプラスチックが少しヒビが入っていて土が若干ついていた。
 懐かしいな。もう20年くらい経ったのだろうか、このアニメキャラの筆記用具流行っていたっけ。
 今はめっきり見なくなっていたが、昔はこのアニメを見ていないとクラスで話題についてこれなくなって大変になるから必死で観ていたなって。

 「あれ?そういえば……」
 
 
マサルって誰だ?

 俺はこの筆記用具にぶら下がっているお守りに触れた瞬間に思い出した。

 俺は確か、たかしと優夫、テツヤ、テツヤの兄たち、そしてマサルと一緒に20年前の夏休みににこの旧日暮村跡地へ行ったはずだ。

 でもなぜかマサルがどんな奴なのかがわからない。

 さっきまで会話していた相手なのに、顔もどんな容姿なのかも、どんなことで遊んでいたのかが思い出せない。
 すると、俺の中にある20年前の小学校時代の記憶が走馬灯のように駆け巡っていく。
 夏休み前にテツヤの家で遊んだ『閉鎖村』の記憶。
 閉鎖村の舞台になった旧日暮村へ行こうと言い始めたやんちゃでお調子者の悪ガキだったテツヤ。今は、大人気YouTuberのマジオをひき逃げした罪で捕まっていたっけ。
 当時大学生でガタイの良いタンクトップ姿のテツヤの兄とオカルト研究会のメンバー3人でそのうちの1人はミチルって名前のお姉さんだっけ。
 3人とも確か、クーラーボックスを常に持っていて、途中で1つどこかへ落としていたんだっけ。
 怖い怖いといっても結局怖いもの見たさで行くと言ったおとなしめで誰よりも優しい眼鏡をかけた優夫。
 ガチガチにビビってお札やら、家や学校からくすねた虫除けスプレーや殺虫剤に100均で買った花火の導火線を巻き付けて作った爆弾を作ってフル装備していたちょっと変わった感じの子だったたかし。

 ついさっきまでの出来事のように当時の旧日暮村跡地へ行く前に計画していた頃の記憶が鮮明に蘇っていたが、その中にマサルはいなかった。
 一生懸命にマサルの事を思い出そうとして、学校内や帰り道の記憶を隅から隅まで思い出せる範囲まで探しても探しても、やっぱり見つからない。
 そもそも、今日ハロウィンイベントで出会ったときのサトルの顔、服装、どのくらいの身長で、どんな趣味していてどんな話し方をしているのかがぼんやりとしていて、思い出せない。
 マサルって子がいるのは認識できるけど、なんかこう、黒い靄がかかって思い出せないような感じの子供の姿をしていたと思う。

 じゃあ、目の前にいるマサルの正体は何なんだ?

 俺は思わず目の前にいるマサルをみて後ずさる。

 「あと少しだったのに…」

 顔に黒い靄がかかって見えない小さな子供のマサルがそうつぶやくと同時に俺の背筋が凍った。

 動きたいのに、さっきまでの疲れがたまっているか、金縛りにあっているのか、目の前の異形の怪異から逃げたいのに一歩も動けない。
 頭痛と腹痛が同時にやってきて、呼吸が荒くて気分が気持ち悪い。
 この感覚は吐きそうだけど、喉奥のところまで吐き気が寸止めされているかのような、不快な感覚が襲って動けない。
 マサルが近づくとさっきまで聞こえていたひぐらしとミンミンゼミの合唱がだんだんと小さくなっていき、蒸し暑い空気がだんだんと重く寒くなっていく。

 「ふふ、動けないんでしょ?こっちにおいでよ。遊ぼうよ」

 マサルがそうつぶやきあと50メートルまで迫っているが、体が思うように動かない。
  あと少しで吐きそうだけど吐けないようなもどかしさが襲ってくるのに加えて、心臓の鼓動がバクバクと上がっていき体を動かすのを拒んでいる感じがする。
 俺はここでマサルに殺されるか、それとも閉鎖村のゲームの中のように異空間へ飛ばされて閉じ込められてしまうのか……。

 そう思った矢先、俺とマサルの間に何か缶ジュースのようなものが横切った。
 思わず、その物体が向かった方へ振り向いた瞬間、パン!!!!!と何かが破裂したような、爆弾が爆発した音がして思わず腕で顔を覆ってよろめいた。

 そして、虫除けスプレーの臭いと焼けたようなガスが混ざったような臭いが鼻にツンと襲い掛かってきてむせた。
 この焼けたようなガスのにおいは、小学校低学年の時の課外授業で消防署に言ったときに嗅いだことのある刺激臭だ。
 確か、ガスのスプレーに火をつけると爆発して危ないことを教えるために、消防士の職員が重そうな装備を来て実際にガスボンベに火をつける実験をしていた時に嗅いだ臭いと似ていた。
 その辺の記憶はもう20年以上経過しているので曖昧で今まですっかり忘れていたが、あの実験室で嗅いだ時の臭いだけは強烈に頭の中に刻まれていた。
 い、息がしたいのに、息を吸うと虫除けスプレーとガスのにおいを吸い込んでむせてしまうので息がしづらい。

 「み、みたか!おいらのスーパーデラックスハイパーボンバーグレネードボンバー弾だ!!」
 声のする方向へ顔を向けると、当時小学生のたかしが山の上で俺を見下ろして叫んでいる。
 手には、100円ライターと100均の殺虫スプレーに安っぽい花火を巻き付けた手作り爆弾を構えていてこれから火をつける準備をしているのが見える。
 そういえば俺、小学校低学年の頃にたかしと一緒に当時オープンしたばかりの100均ショップへ行って大量の花火を買いに行っていたっけ。
 俺がその時、たかしに花火や爆竹を改造して爆弾作ったらすげーの作れるんじゃね?と提案していたような。
 たかしはそのアイデアを元に、缶スプレーに花火を巻き付けて爆弾を作っていたっけ。
 もう20年前の記憶なのに、この部分だけ鮮明に覚えていた。 
 ……まさか、こんな形でしっぺ返しが来るなんて思ってもみなかった。

 「お、おい!そこの悪の殺人鬼!!おいらの文房具と大切なお守りを返せ!!」
 小学生のたかしはそう叫び、100均の花火の導火線に火をつけて投げる準備を始める。
 「喰らえ!!ゴムゴムのハイパーデラックススーパーミラクルサンダーブレイクボンバー!!」
 たかしはいかにも小学校低学年が思いつく必殺技を叫んでお手製の爆弾をぶん投げたが、方向は明後日の方向へ飛んでいき俺の近くにある木の枝の間に挟まった。

 俺はあっけにとられていると、花火独特のバチバチとした音が森の中に響き渡ったかと思ったら爆発。
 破片が飛び散っていき、そのうちの一つが俺の左頬に突き刺さり激痛が走る。
 「いったぁあああああ!!!」
 俺の情けない悲鳴が森の中で反響し、さっきまで持っていた骨切り鉈やたかしの文房具を手放して倒れ込む。
 あまりの激痛で涙が出始めていき、このままではまずいと思い左頬に突き刺さった破片を引き抜く。

 よくみると破片はスプレー缶ではなく、先の尖った小さな小石と釘の破片で、おそらく殺傷性を高めるためにテープか何かで引っ付けたんだろう。
 くそ、ガキの頃のたかしってこういう時に余計な知恵を使ってくる。
 
 くっそいてぇよ。左頬にできた傷口からたらーっと血が下へ下へと伝っていくのを感じ、ほんの少し風が頬に当たるだけで痛覚が刺激する。

 呼吸がしづらい。とりあえず、身体を動かしてさっさとマサルや小学生の頃のたかしから逃げておこうと思って振り向くと、マサルの姿が見えない。

 
 

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