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映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」における楽曲引用の選定意図を推察する。

6月19日から109シネマズを始めとした全国の映画館で「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が再上映される。
この映画はスペースオペラ作品だが、地球生まれの主人公ピーター・クイルがウォークマンを肌身離さず持ち歩くため作中でポップソングが流れ続けるという特徴を持っている。
これらの選曲には明確な意思が感じられ、この機会にその意図を推察してみよう!と思った。

個人的には棺に入れて一緒に燃やしてくれというぐらいに好きな作品なので、この機会にぜひ見に行って欲しい。前情報は何一つ必要ない。

さて 映画の内容にどうしても触れなくてはならないため、ここからはネタバレ注意だ。見てから読んでほしい。

歌詞に触れたりもするが、英語力は中学生以下なので許容しつつミスがあれば指摘してもらえると助かります。。。。。

「オープニングシーン」  I’m Not In Love - 10cc

1988年 クイルが病院の待合室で聴いている。多彩な作品を抱えるシリーズの中でも異質と言える作品にふさわしく、MCUお決まりのMARVELロゴの前から本編が始まっている。ガーディアンズ以前だとアイアンマン3ぐらいだろうか?

I'm not in love
So don't forget it
It's just a silly phase I'm going through

死が迫る母親を前にヘッドホンで耳を塞いでいる男の子がこんな曲を聞いているのは、あまりに…

Be quiet, big boys don't cry

愛から耳を塞いだまま、過酷な非日常に襲われ 意志に関係なく"大人"にならなくてはいけなかった、彼のその後を示唆しているようにも見える。

「タイトルバック」 Come And Get Your Love - Redbone

モラグでのダンスシーン。人間はバカデカイタイトルロゴを見せられるとそれだけで興奮してしまう。

Hail (Hail), what's the matter with your head, yeah

久々に会った友人の髪型をからかうような歌い出しから始まる。
弱々しかったあの少年がこんなに立派に成長しました!というような内容にも聞こえるが…?

Hail, with it, baby, 'cause you're fine

「ありのままで」と語りかけてくる。Redboneというグループのルーツがネイティブ・アメリカンにあるところを考えると、この「ありのまま」の言葉は計り知れないほどに重い。
銀河に揉まれてすっかりアウトローとなってしまった彼が自分らしさをギリギリ保っていられるのは、地球での思い出と一本のカセットテープのおかげだと思うと涙が出てくる。

「モラグを脱出」 Go All The Way - The Raspberries

ロナンの部下からの追跡を振り切り、ベリートとの会話の直後から流れ始める。
ヨンドゥからの通信が入ると自動的に再生が停止されている。車のハンズフリー通話なんかにもそういう機能があるが、クイルも意外と通話マナーを気にしているのか…?
「Go all the way」には「行けるとこまで行こう」ぐらいの意味があるらしく、映画の出発(誘拐はノーカンで…)にふさわしく ラストシーンとも呼応した選曲。

「収監」 Hooked On A Feeling - Blue Swede

キルン刑務所に収監され、押収されたプレイヤーを看守が確認しているシーン。
この映画で数少ない字幕で歌詞和訳が出る楽曲。「もっと君の虜にさせて」「この気持ち 止められないよ」が囚人たちに”大人気”なガモーラとかかっていると思われる。
一見場面に合わないラブソングを曲解し状況に合わせるのは映画「ベイビー・ドライバー」でも見たが、やはり気持ちがいい。

「脱獄」 Escape(The Piña Colada song) - Rupert Holmes

『重大な忘れ物』を奪還するシーン。
脱獄と曲名のEscapeがかかっている。楽曲の内容としては「嫁に飽きた男とピニャ・コラーダ好きの女との不倫」みたいな感じ?奪われた音楽を取り戻しに向かう姿は、愛しの誰かを間男から取り戻そうとする流れとも見えなくもない。(そう?)

Like a worn-out recording of a favorite song.

この一節が気になる。「大好きな曲でもいつか飽きるだろ?」みたいなとこだろうか。この26年間飽きることなく聴き続けていた一曲にこんな歌詞があるのは皮肉だ。
看守が最強ミックスを気に入っているのが愛おしく、音楽の前には誰もが平等だなあとも思う。(殴るけど)

「ノーウェア」 Moonage Daydream - David Bowie

オーブを売るためコレクターのいるノーウェアへ。

I’m a mama-papa comin’ for you
I’m the space invader
I’ll be a rock n rollin’ bitch for you

地球で最も有名な『宇宙人』の一人であるデヴィッド・ボウイの一曲。

Press your space face close to mine, love

ステレオの音響から挿入歌としての音響に移った瞬間にこの歌詞が流れるため、”space face”と天界人の頭であるノーウェアの特殊な環境を重ねているのだと思われる。
この映画全編に言えることだが、既存曲が流れる時は必ずカセットテープによる再生が条件になっていて、所謂劇伴とは別の役割になっている。
作劇に与えられる最大の快感とは共感であると思う。現実味が無く地球とは関係のない遠い宇宙の物語でも、ウォークマンを一つの舞台装置にするだけで通常の物語とは違い観客が登場人物と同じ音楽を共有することができ、一気に作品との距離を縮めてくれる。これは………発明では?

「ガモーラとのダンス」 Fooled Around And Feel In Love - Elvin Bishop

踊らないと言うガモーラに映画「フットルース」の話を神話として語る。
遊び人だった男が恋に落ちるラブソング。Hooked On A Feelingのときとは違い、今度は真っ直ぐ状況に合わせた使い方になっている。
イヤホンをした時の声量を掴めてないガモーラが最高にキュート。

「I have a plan.」「You’ve got a plan!?」 Cherry Bomb - The Runaways

ザンダー星防衛作戦のブリーフィング。
ノバ軍への通信時に表示されたクイルの顔写真が明らかにマヌケ面なのがたまらない。

Hello daddy, hello mom
I'm your ch-ch-cherry bomb
Hello world, I'm your wild girl
I'm your ch-ch-cherry bomb

これもまたある種の「出撃」ではあるけど、悪い遊びを覚え始めた10代の女の子の楽曲。
作品全体に流れているこの意識的な"ズレ"が映画全体のオフビートな雰囲気を作っていると同時に、広い銀河の中で拠り所を持たない彼らが持つ"ズレ"とも大きく重なり、ただ笑えたり気が利いた選曲とだけでは言い表せないほどに作品に深みを与えている。
でも最高にアガる「戦士が横並びでゆっくり歩く」シーンに「Runaway(逃げる)」なんてグループの曲を流すな!!!

「壊れたステレオから」 O-o-h Child - The Five Stairsteps

銀河一偉大な「ダンスバトル」でクイルが口ずさむ楽曲でもある。

Ooh child
Things are gonna get easier
Ooh child
Things'll get brighter

今後訪れる"明るい未来"を子供に語りかけるような曲。彼の母のことを思い出させる一曲であり、直後の再会を予感させてくるような効果もあるように思う。

「“Awesome Mix Vol.2”」 Ain’t No Mountain High Enough - Marvin Gaye & Tammi Terrell

ねえベイビー高すぎる山も 深すぎる谷も 広すぎる川もない
必要なときは呼んで どんなに遠くにいても
名前を呼んでくれたら 飛んでいくわ
そうさ 高すぎる山なんてない 深すぎる谷もない 広すぎる川もない
僕らを引き裂くほどの どんな風も どんな雨も
冬の寒さも私を止められない
私のすべてだから
すぐに飛んでいくよ
この愛は生きている 遠く離れていても
手助けが必要な時は すぐに駆けつけるよ
高すぎる山なんてない 深すぎる谷もない 広すぎる川もない

最強ミックスVol.2の一曲目にこの曲を据える意味をもう一度考えてほしくて書きだしてしまった。字幕で歌詞和訳が出る数少ない一曲。メインテーマのように扱われているHooked On A Feelingと同列で、この作品で本当に大事な楽曲だと作り手にも思ってもらえてるのが本当にうれしい。
メレディス・クイルからの手紙の“I’m always be with you.”という一節、スターウォーズの"The force be with you,always. "というセリフを明らかに意識しており、訪れる死からまだ幼いクイルを勇気付けるために70年代カルチャーの中心から引用したのだと思うと色んな意味で涙が出てしまう。

「エンディングシーン」 I Want To Back - The Jackson 5

言わずと知れたジャクソン5の名曲。誰もが知ってる一曲を最後に持ってくるところにジェームズ・ガン監督の「わかってる」感が出ている選曲。

Oh baby, give me one more chance
(To show you that I love you)
Won't you please let me back in your heart
Oh darlin', I was blind to let you go
(Let you go, baby)
But now since I see you in his arms
(I want you back)

明るく聞こえるが、恋人との別れを惜しんだ失恋ソング。(と言っていいのか?)
ここでの文脈はおそらく「THE GUARDIANS OF THE GALLAXY WILL RETURN」であり、母の死から長い間目を逸らし 耳をふさいでいたクイルがようやく「戻ってきてよ」と歌えるようになったということなのかもしれないね。
芽グルートのダンシングフラワーパロディが本当に愛おしい。



暗転の引き際も完璧な映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」。続編執筆中のジェームズ・ガン監督から1つのプレイリストが公開された。
その名も「Meredith Quill`s Complete Awesome Mix」。

劇中流れることもなく サントラにも収録されていないが、設定上あのカセットテープに入っていた楽曲のまとめだ。
作り手がこれだけ考えて、あの世界の あのたった二枚のカセットテープにこれだけの愛を込めて作っていたという事実が明らかになり、よりこの映画が好きになった。

どこを見ても傷ついてしまうような今の世界だからこそ、手を繋いで、痛みを共有しながら、健やかに生きていける様にしたい。

マスクをつけて映画館に、行け!

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