見出し画像

地方中小企業の中核人材不足解消に向けて ─人材の還流とシェアを軸にした事業承継支援─ 調査部 副主任研究員 星 貴子

要約

地方中小企業における中核人材不足を解消させるには、人材環流に焦点を当てて今一度考え直す必要がある。

人材環流→地域や国の間で人材が移動する現象のことを指す。例として、出身地や地域に戻って働くことを希望する人々の移動を指すUターンや、外国での経験や習得した技術を携えて出身国・地域に戻る流れのことを指す環流人材が挙げられる。
地域における雇用創出の実践や、Uターン希望者への情報提供などの取り組みを通じて、人材環流が地域社会の活性化に寄与する。

①    中小企業庁によると、後継者不在を理由に休廃業する中小企業が急増し、2025年までに累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると試算している。
中小企業のプレゼンスが大きい地方圏は特に大ダメージを受け、95万社が休廃業に至るおそれがある。
地方経済にとって、後継者難にある中小企業の事業存続は喫緊の課題である。

②    2010年以前は使い勝手の悪い中小企業に対する事業承継支援しか存在せず、利用は低調だった。
2010年代の半ば以降は、中小企業の人材ニーズの掘り起こし・明確化・相談受付・人材確保・採用後のフォローアップまでのシームレスな支援を特徴とする新たな事業として、①内閣府のプロフェッショナル人材戦略事業、②公的企業である日本人材機構による経営幹部人材紹介事業が、相次いでスタートした。

③    人生100年時代といわれる昨今、働き方や人生に対する考え方の変化を受け、地方で就労したいとする東京圏の幹部人材が目立ってきた背景がある。それを考慮して、大手人材紹介事業者の一部が、東京圏の幹部人材を対象とする地方転職のサイトを立ち上げるなど動きを見せている。
大手企業でも人材の多様化や企業ネットワークの拡大などを目的に、従業員の地方就労に関心を寄せる企業が相次いでいる。東京圏の幹部人材と地方圏の中小企業の利害が一致し、地方圏に向けた人材還流の素地が整いつつあるといえる。

なぜ人材環流に焦点を当てる必要があるのか?→
中小企業の割合が多い地方では多くの企業が休廃業に陥るリスクがあり、この問題を解決しなければ日本経済の崩壊に近づくからである。

①    から③までを踏まえても、これまでに地方へ還流した幹部人材の人数は千人に満たず、95万社とみられる後継者難の中小企業が休廃業のリスクに晒されている状況に変わりはない。
支援にあたる人員が限られているにもかかわらず、多くのマンパワーと時間を要する支援の在り方が主な要因だ。
人材ニーズの掘り起こし・明確化に重点を置いたシームレスで丁寧な支援を目指す一方で、その恩恵に与る中小企業は限定されている現状がある。

以上を踏まえると、人材還流を促進するために現行の支援体制を早急に見直す必要がある。

人材環流を促進する上でわかりやすい課題は2点挙げられる。

①    支援プロセスの効率化
支援プロセスの効率化を行う上で、今後必要になってくるのはAI技術の活用だ。
AIシステムを利用することで、マンパワーや時間の節減を図ることができるうえ、人材ニーズの明確化やマッチングの精度の向上も期待できる。
AIによる採用選定はすでに実用化されているほか、マッチングついても実証中で近い将来実用化される見通しとなっている。
こうしたシステムの開発はビジネスベースで進められることが多く、民間が得意とする分野の一つである。しかし、開発には多様かつ多くの実績データが必要になることから、官民が連携することが望ましい。

②    企業とのチャネルの増設
日本人材機構と全国45カ所のプロフェッショナル人材戦略拠点の総勢250人弱の体制では、支援を必要とする中小企業に対応しきれない現状が存在している。
これを解決する為に、中小企業との接点(チャネル)をもう一段増やしていくことが必要である。
接点を増やすと言うことは、これまで中小企業とのチャネルとして連携していた地方銀行(地銀)が、今後より重要な役割を果たすことが求められる。すでに、2018年の規制緩和を受け、地銀の人材紹介業への参入が相次いでいる。
加えて、一般の人材紹介業に比べより多くの収益が期待できるため、大手人材紹介事業者も地銀と連携し、人材還流支援事業に参入してきた。
他の可能性としては、地元のコンサルティング事業者などが、地域金融機関や人材紹介事業者との連携を軸に参入することが考えられる。

上記で挙げた二点以外の補足
今後も継続的に人材を還流させるには、終身雇用にみられるような企業による人材の抱え込みから、企業、さらには地域の枠を超えて、必要な人材をシェアするという発想に転換する必要がある。
労働や雇用に対する国民の考え方の転換を促し、限られた労働力を効率的に活用することは、人口減少に向かうわが国にとって不可欠な取り組みである。
多様な働き方の普及と雇用市場の一段の流動化のみならず、転職が不利にならない社会制度の構築に向け、早急な対応が求められる。

総括
現在の中小企業の立ち位置を考えると、人材環流を改善させる問題に真剣に取り組む必要がある。
支援プロセスの効率化・企業との接点を増やす政策を軸に改善させる事が必要。
その為には現在よりも、より明瞭で分かりやすい支援プロセスの形作りと、地銀・コンサルティング業者を中心に連携していくことが必要になってくる。
上記を達成するために重要な価値観に、重要な人材を独り占めするのでは無く、必要な場所に広くシェアする考え方に変える事が挙げられ、これには効率化を図る目的がある。

地方中小企業の中核人材不足解消に向けて-人材の還流とシェアを軸にした事業承継支援 (jri.co.jp)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?