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中小企業の事業承継に対する新たなリスクファイナンス ― 地域金融機関とYSKによる株式永久保有型事業承継の事例 ―    林 昭信

前置き 中小企業の重要性

 2022年版中小企業白書によると、日本企業の企業数(2016年)は、約359万社 であり、中小企業基本法第2条第1項の規定に基づく中小企業は、約 358万社と日本企業全体の約99.7%を占めている。そのうち、小規模事業者は、約304.8万社で中小企業の約84.9%を占めている。このように、日本経済が成長するか低迷するか否かは中小企業の業績に左右されると言っても過言ではない現実が存在している。

 中小企業の重要性を企業の生産活動によって新たに生み出された付加価値額からも見てみる。
2015年のデータによると、中小企業で生み出した付加価値額は約135兆円で全体の約53%を占めている。また小規模事業者のみに焦点を当てると、約35.7兆円の14%を占めている。

雇用についても、中小企業の従業者数は約3,220万人と日本全体の約70%を占めており、そのうち、小規模事業者は約1,044万人で日本全体の約22.3%を占めている。
中小企業の存在は、日本経済にとって影響力があり、かつ重要な存在であるということがこの点からも理解できる。
以下の図は今回の調べにおいて用いた「中小企業の定義」を説明したグラフとなっており、業種によって資本金と従業員の数が変化することが分かる。

要約

10年ほど前から騒がれている中小企業の事業承継の最大の問題は、「事業が継続できなくなる」という最大のリスクである。
経済社会の基盤を支えているのは中小企業であることからして、このリスクは日本社会全体にとってのソーシャル・リスクでもある。中小企業が事業継続できなくなり廃業すれば、固定資産税・消費税・法人税・従業員の所得税など納めている納税者を国や自治体は失うことになるのである。
更に廃業が増加すれば失業者が増加し、その結果として社会保障費の支出が増加するため、自治体にとっては非常に厳しい状況になる。財源がなくなれば、当然公共インフラの更新投資が削られる可能性が考えられる。

この先「YSK」について言及することから、以下はその説明。
「YSKは、YSK自らが承継者になるという事業を行っている企業である。
中小企業の事業承継について、従来のようにM&Aの仲介や事業承継を行うファンドのように、外側からの支援をするものではない。『10年で中小企業5000社の承継者になる』がYSKのビジョンである。」

YSKは中小企業が多く存在する地方都市では生活ができなくなるというようなリスクを想定しており、株式永久保有型事業承継を提供することで、課題を解決する一助となるように取り組んでいる。
YSKと株式永久保有型事業承継に取り組んでいる「地域金融機関」の取り組みにも触れておきたい。(両者は非常に近い考え方を持っている)

地域金融機関は、①地方の人口減少に歯止めをかけ、地域の活性化を目指している。②地方都市で生活ができなくなるというリスク回避のため、地域経済の中心となる中小企業を永久に残し地方創生を目指すとしている。③地域に必要な中小企業を株式永久保有によって永続的に承継していくとしている。
③に関して、この事業承継の手法に対応できる中小企業について、雇用を生み出し納税等ができる中小企業を最低ラインに設定している。

YSKでは、この仕組みで事業承継を行う中小企業の基準を、退任する経営者の役員報酬を含め、原則経常利益30百万円以上が必要としており、対象企業が限定されるという課題がある。
この基準は、中小企業にとってハードルが高く感じられると思う。しかし、景気によって事業の存続が左右される可能性が高い中小企業経営においては、永久的に持続可能な企業とするために、ある程度の収益力が必要であるという根底がある。また、この仕組みを共同で推進する地域金融機関を増やしていくための課題は、 YSKが提供する経営シェアリングについて、それが中小企業経営を永久的に事業継続できる仕組みであると判断できるかどうかにある。更に、事業承継やM&A に必要な財務デューデリジェンスなどM&Aを行うスキルや、リスクマネーの供給等についても、内製化できていることが必要となる。
地方都市での情報量や地方都市における中心的存在である地域金融機関において、リスクマネーの供給やYSKが提供している経営シェアリングなどによる経営の効率化の手法を用いて、地域に必要な中小企業を地域に残すことができれば、地方都市で暮らす人々のリスクはもちろんのこと、日本で暮らす人々のリスクを解決する一助となるであろう。

概要

本論文を読んで、中小企業が世の中に占める割合と影響力が非常に無視できない存在であることを改めて理解した。また、今後私に必要な調べ学習として、世界における中小企業の割合を調べることで、日本における現在のバランス感が正当なものなのかを確認する必要があると思った。

今回の論文ではM&Aではなく、YSKと地域金融機関にフォーカスした内容となっており、強固な基盤を持った小企業を今よりも多く育てあげる必要性を感じた。というのも本論文を読んで、経営の効率化を用いるにあたり、競争力を持った会社でなければすくい上げは不可能だと感じたからだ。

現在まではびこる日本の終身雇用体制を基盤にした会社のあり方を継続していては、少子高齢化まっただ中の日本にとって終焉を迎えるだけに過ぎない。優秀な人材を採用して優秀な会社を構築することができない会社は社会で生き残ることができないといった、アメリカをロールモデルとする本来の資本主義のあり方を日本でも体現する必要があるだろう。
M&A、YSKと地方金融機関のどちらに触れるにしても、中小企業を強固なものとするための事例・事案・方法を今後は調べる必要がある。

最後のまとめの一文に、
「本論文で残された課題は、金融機関とYSKの取り組み事例を、1事例だけしか取り上げられなかったこと、インタビューについてもYSK担当者1名と金融機関担当者2名からだけのものであるため、結論の蓋然性を考察するには事例とインタビューが少ないことである。また、事業承継の内容や金融機関の情報は、機密性が高く情報開示がされないため、今後の事例研究の蓄積についても課題と言える。」
とある。

YSKと金融機関がどのように中小企業の承継に向けて取り組んでいるのかどうかは、事例の少なさと不透明さから、通常のM&A事業にフォーカスして調べるよりも困難な作業になることが予想される。このことから、中小企業の承継に関して調べていく際にYSKと地方金融機関に触れる場合は、十分なデータがあるかどうかを確認する必要がある。

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