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中小企業における後継者人材 マネジメントに関する一考察  熊本学園大学  堀越 昌和

本論文の中心的課題は、日本企業の大半を占める中小企業の後継者人材マネジメントについての現状と課題の解明に向けた予備的な考察を行うこととしている。
本論文を記載するにあたっての背景が大きく3点ある。
第一の点は「経済社会的な背景」だ。
日本の中小企業に関して、後継者不在による廃業リスクに関する点はずいぶん昔から言われており、日本の経済のあるべき形をもう一度見直す必要がある事が言える。
第二の点は「中小企業における経営者の重み」だ。
規模と人材の非対称性によって、中小企業の経営者ほど、ずっと大きな融通性と能力が要求される。
第三の点は「中小企業ならではの後継者人材マネジメントを明らかにすること」だ。
第二の点を踏まえた上で、経営者を重要視しなければならない現状の中、次期経営者となる人材の選抜やリーダーシップ開発といった後継者人材マネジメントが具体的にどのように行われているのかが、中小企業ではほとんど明らかにされていない。
中小企業ならではの後継者人材マネジメントを明らかにすることこそ、規模的な制約条件を克服し、後継者不在による廃業リスクに適切に対処するためにも求められるのではないだろうか。

「経済社会的な背景」「中小企業における経営者の重み」「中小企業ならではの後継者人材マネジメントを明らかにすること」の三点。ここから言えるのは、日本経済が成長していないからこそ、後継者不足の問題は起きるし、日本経済の大多数を支える中小企業の経営者を中心とした人材育成に問題があるからこそ、米国のような企業競争が生まれないのだと私は考える。

今回の検証の為に、中小企業14社に調査をした。
複数の管理階級を有している・後継者がトップとして経営の舵取りを握っているこの二つの条件を踏まえている点が共通点だ。

・従業員規模が大きいほど人事規定を有する割合は高く,従業員規模が小さい場合,ミドルに相当する管理階層が少ないか、もしくは存在しないことが示唆された。
・サービス業を中心とした第三次産業は、製造業など他の業種と比べても、圧倒的に取締役などの役職があるポジションに進むスピードが早かった。このことから、業種によるキャリアの進度に違いがあることがわかった。

「結論」
第一の点「経済社会的な背景」
中小企業における後継者人材マネジメントの現状と課題の解明に向けた最も重要な視点は、「同族性」であることがわかった。
ちなみに、結論の前のまとめの部分でも、三つの共通視点から見た最も重要な視点として、同族性の重要性を挙げていた。

ここで言う同族性とは、創業者一族による支配の現状は何かということ。
所有経営とも後継者に移した(完全移転)、経営を後継者に移転(所有のみ)、後継者もしくは経営者を中心とした創業者一族で双方支配(所有と経営)の3パターン
同族性によるエリート選抜の明白な存在は,後継者人材マネジメント全般に違いをもたらしていた。

所有と経営の一体型の場合→
血統重視の後継者選抜がなされ、その始期は遅くとも入社時。
特に経営者の子の場合、子供の頃から後継の気概をもって入社後のあらゆる経験をリーダーとしての学習と成長の機会としていた。

所有のみor完全移転の場合→
後継者の選抜は能力重視であり、その始期は早くて取締役昇進時。また,エリート選抜の始 期の違いは,リーダーシップ開発に着手するタイミングにも顕著な影響を及ぼしていた。また、リーダーシップ開発の機会は、取締役に昇進した頃から付与されるようになるが、誰が後継者となるのかが自他ともに判然としない不可視的な人事が、後継者の主体的なリーダーとしての学習と成長への制約要因となっていることが示唆された。

第二の点「中小企業における経営者の重み」
同族性に関する点を第一の点として述べたが、経営者によるマネジメントの属人性は、こうした同族性の影響を凌駕する可能性がある(影響が顕著に見られた)。経営者の属人性は、同族性をも凌駕し、中小企業の後継者人材マネジメントに決定的な影響を及ぼす可能性が示唆された。

属人性=身分や能力などの人に属する性質

要は経営者のマネジメント能力の有無・レベルの高低差が、中小企業の後継者人材マネジメントに決定的な影響を及ぼす可能性がある。

第三の点「中小企業ならではの後継者人材マネジメントを明らかにすること」

組織制度の属人的な運用が未熟であれば、後継者のリーダーとしての主体的な学習と成長に向けた制約要因となる。またこのような制約要因は、リーダーシップ開発のタイミングを遅らせ、その遅れがさらに世代交代のタイミングの遅れや満足のいく後継者の不在につながるリスクがある。

ja (jst.go.jp)


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