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(23) ニッチの技術と市場からみた 承継なき承継 ― ―2 社のケースとその比較―― 明海大学 嶋 根 政 充

本研究の目的は,日本における中小ファミリービジネスにおいて、しばしば安定的な承継の移行(承継なき承継)が行われるケースを取り上げる。
もちろん、日本において、典型的にファミリー企業がそのまま円滑に事業承継をしたとしても環境に適応できずに撤退する、近年は後継者不足でそのまま廃業に追い込まれる中小ファミリー企業も少なくない。
しかしながら、特異な技術を維持し、その技術が公開されずにそのまま中小企業の独自の強みとして維持され続けていれば、ものづくり日本の中小企業の強みはまだまだ維持されるということになる。

その特徴は「先代が築いてきた経営基盤を維持した事業承継」であり、円滑な事業承継に向けた後継者の養成や資産・負債の引き継ぎ等、中長期にわたる準備に早期から取り組むことになる。
基本的には実際に経営者になる前に、経営者となる準備としての見習い的要素を社員として経験する。それはファミリーの輪のなかで完結されている。

他方で技術を中心にみると、極めて数の少ないレアな技術で成功している企業は、きめ細かいところまで明らかになっていない。基本的にはそれをどのように活かすかに尽きる問題であり、「承継なき承継」という表現で、強力な技術とニッチ市場が存在していて、それを活かす能力(経営面や組織面)が問われることになる。

要約

今回の論文は「現有技術や資源を活かした販路の開拓とニッチ市場の創造」に焦点を当てたものとなっている。

上場して株式を公開し、多数の資金調達を得て会社を維持することをよしとする「公開型経営」は果たして中小の町工場にとっての生き残りに有効なのかということを突き付けている。
逆に大手企業の傘下に入れば、下請・孫請的な従来型の二重構造体制か、大手企業のグループの関連企業として取り込まれていくことになる。それが中小企業の生き残りにつながったとしても、正解なのかどうかは疑問符が残る。

特許戦略に焦点を当てても、公開して20 年で特許が切れれば技術がオープンになってしまう現状がある。
ジェネリック医薬品のような人命に直接影響するもののように、社会貢献や企業の社会的責任 CSR)となるならまだしも、中小企業の生命線といわれる特殊な技術が、わずか 20 年で切れるということならば、長寿企業を目指すという面でも、寧ろマイナスになるのかもしれない。

概要

ファミリー企業は公開性を有しないがためにネガティブなイメージを形成されやすいが、むしろこの「ネガティブな非公開性」こそ、大企業や競争企業と対等に渡り合うための強力な武器になるのであって、それを軸にしたニッチ的な技術をどのような新しいかたちで付加価値をつけて、新たな市場を切り開いていくかが重要だと筆者は考えている。

要は「小さいがゆえに、特殊な技能に特化した技術を、ファミリーが自社の遺産としてどのように継承し、発展していくのか」が「ファミリー企業が長く生き続けるための条件」だと言うこと。

もし技術が陳腐化してしまったりして、外圧によって変更を余儀なくする必要に迫られた場合は、事業や材料を転換しながら市場との協調を図っていく必要があるとも言っている。すなわち「その時代に市場で求められている価値を向上させるタイプの持続的イノベーションをもたらす企業」が成功する。

他方で、大廃業時代には「共同体経営」が成り立たないケースも出てきている。
廃業する会社の 5 割が経常黒字という状況のなかで、廃業の背景にある後継未定 127 万社にみられるように、「後継者がいない」ファミリーの解体という現実が突き付けられている。(私が取り組む研究テーマに触れている)

優良技術が伝承されないまま、国内の産業が衰退する危機がすぐ前にあるのであり、ファミリー共同体の解体の流れは今後止まらないと考えている。
その時には、ある程度国や自治体を含め“日本の中小企業の独自技術は公共財である”という視点で喫緊に政策を打っていく必要があると思われる。

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