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128)5-アミノレブリン酸はミトコンドリアのエネルギー産生を高める

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術128

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【生命はATPを使ってエネルギーのやり取りを行う】

生物は、細胞が活動するエネルギーとしてATPという物質を使います。ATPはAdenosine Triphosphate(アデノシン3リン酸)の略です。ATPはアデニンという物質にリボースという糖がついたアデノシンに、化学エネルギー物質のリン酸が3個結合したものです。
 
ATPは分子内に2個の高エネルギーリン酸結合を持ち、ATPがエネルギーとして使用されるとADP(アデノシン2リン酸)とAMP(アデノシン1リン酸)が増えます。リン酸1分子を放出する過程でエネルギーが産生されます。このようにリン酸分子が離れたり、結合したりすることで、エネルギーの放出や貯蔵を行うことができます。(図)。


図:ATP(アデノシン3リン酸)は塩基のアデニンにリボースが結合し、そのリボースに3つのリン酸基が並んで結合している分子。ATPから加水分解によってリン酸基が外れるときにエネルギーが放出される。細胞は化学的な仕事を行うために必要なエネルギーの獲得と移動に関してATPを使用しており、ATPは生体内のエネルギー通貨として機能している。



【食物を分解してエネルギー(ATP)を作っている】

全ての食品は、水分、炭水化物(糖質と食物繊維)、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルといった栄養素から成り立っています。
 
炭水化物は穀物やイモ類や砂糖などに含まれ、タンパク質は肉や魚介類や乳製品や卵に多く含まれ、ビタミンとミネラルは野菜や果物に多く含まれます。脂質は肉や魚や乳製品や植物の種子など多くの食品に含まれています。
 
これらの食物は唾液や胃腸の消化酵素によって個々の栄養素に分解されてから小腸粘膜から体内に吸収され、体内でエネルギー源や、体を構成する成分の材料や、体の機能を調節する成分として働きます。


体を動かすエネルギーであるATP(アデノシン3リン酸)は食事中の糖質や脂肪を燃焼させて生成しています。自動車がガソリンを燃焼させてエネルギーを作りだしているのと同様に、人間を含めて動物は、食物から摂取した糖質や脂肪を体内で燃焼させてエネルギーを作り出しています。


米や小麦などの穀物にはデンプンという糖質が含まれ、これが消化管で消化されてグルコース(ブドウ糖)になって吸収され、細胞内で水と二酸化炭素まで分解されてATPが産生されます。脂肪もグリセロールと脂肪酸に分解され、脂肪酸が細胞内で分解されてATPが産生されます。この反応はミトコンドリアで行われます。
 
グルコースも脂肪酸も不足したときはタンパク質が分解されてできるアミノ酸がエネルギー産生の経路に入ってエネルギー源となります。長期間の飢餓状態でグリコーゲンや体脂肪が枯渇すると、筋肉組織のタンパク質が分解されてエネルギー産生に使用されるようになります。
 
すなわち、食物からの栄養素のうち、グルコースと脂肪酸とアミノ酸の3つがエネルギー源として利用されるのです(図)。


図:細胞を動かすエネルギーであるATP(アデノシン3リン酸)はグルコースだけでなく、脂肪酸やアミノ酸からも作られる。グルコースは細胞質の解糖系でピルビン酸になりミトコンドリアでアセチルCoAに変換されてTCA回路と電子伝達系の酸化的リン酸化によってATPが産生される。脂肪酸やアミノ酸もアセチルCoAやTCA回路の代謝系に入ってATP産生に利用される。



【1日に自分の体重以上のATPを再合成している】

ATPの貯蔵量は少なく数秒程度で使い切ってしまうため、体内ではエネルギーを使って絶えずATP合成が行われています。ATPの産生が止まると、心臓は止まり、数分で死にます。青酸カリ(シアン化カリウム)はミトコンドリアでの酸素呼吸を阻害してATP産生をできなくするので、数分で死に至るのです。

1日に産生されるATPの総量は体重に匹敵する(あるいはそれ以上)と考えられています。
グルコース(ブドウ糖)の分子量は180で、ATPの分子量は507です。1分子のグルコースがミトコンドリアで酸素を使って完全に分解されると、32〜38分子のATPが産生されます。

グルコース1gは約4キロカロリーの熱量を産生しています。2000キロカロリーを全てグルコースで賄うと500gのグルコースになります。
500グラムのグルコースは2.8モルになり、1モルのグルコースから32モルのATPが作られるとすると約90モルのATPが作られ、これは507g x 90モル=約45kgになります。つまり、この計算だと1日に45kgのATPを産生していることになります。


ATPの加水分解で得られるエネルギーは、ATP1モル当たり7.3キロカロリーです。

ATP → ADP + リン酸 + 7.3キロカロリー/mol
です。
1日の消費カロリーを2000キロカロリーとすると、274モルのATPが必要になり、274モルのATPは約140kgになります。


いずれにしても、人間は1日に自分の体重に相当する量のATPを産生していることになります。
 
しかしこれは、ATPをゼロから1日に数十kgを生成しているのではなく、ADPを使い回して、ADPにエネルギーとリン酸を使ってATPを再合成しているだけです。
 
実際に体内に常時存在するATPは約100グラム程度です。つまり、ATP ⇆ ADP + りん酸という回路反応を繰り返し、ADPは1日に1000回以上使い回されていてATPに再合成されています。


図:食物の分解(異化)によって生成されるエネルギーを使ってADPにリン酸を結合させてATPが合成される。ATPが加水分解されてリン酸を放出する過程でエネルギーが産生され、生命活動に使用される。細胞はADPを再利用してATPを再合成している。ATPは瞬時に使用され、1日に再合成されるATP量は数十kgになる。



【老化に伴ってミトコンドリアのATP産生能は低下する】

私たちの体は加齢に伴って老化します。体の老化を最初に自覚するのは、体力や持久力や俊敏性など運動能力の衰えです。人によっては、物忘れなど脳機能の低下を自覚するようになって老化を意識する場合もあります。
 
このような老化に伴う運動能力や脳機能(認知機能や記憶力)の低下の原因としてミトコンドリア機能の低下が重要です。

体の老化に伴って細胞のミトコンドリア機能が低下し、これが、心臓や骨格筋や神経系やその他の臓器の機能低下の主な原因になっています。心臓や骨格筋や神経系は組織の酸素消費量が多い臓器です。これらの臓器ではミトコンドリアで酸素呼吸(酸化的リン酸化)によってエネルギー(ATP)を産生しています。


老化に伴って、これらの臓器の酸素消費量が減っていきます。ミトコンドリアの働きが低下し、酸素消費が減り、ATP産生量が低下するからです。その結果、運動機能や脳機能が低下します。
 
したがって、体の老化に伴う生理機能の低下を予防するには、ミトコンドリアの量と機能を高めることが重要と考えられます。


運動中に体内に取り込まれる酸素の最大量を「最大酸素摂取量(VO2MAX)」と言います。VO2MAXはV = 量(volume)、O2 = 酸素、MAX = 最大限(maximum)に由来しています。
 
加齢に伴って最大酸素消費量(VO2MAX)は低下していきます。加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、心臓や骨格筋のミトコンドリアの量と機能が低下し、ミトコンドリアでの酸素呼吸が減少するからです。
 
その結果、歩行速度が遅くなり、歩行距離が短くなり、持久力が低下するのです。


図:加齢に伴って骨格筋の筋肉量が減少し、骨格筋や心筋のミトコンドリアの量と機能が低下する。その結果、最大酸素摂取量は減少し、運動機能は低下する。



【5-アミノレブリン酸はミトコンドリアの機能を活性化する】

5-アミノレブリン酸 (5-aminolevulinic acid:ALA) は、炭素数5で分子量131の動物および植物のミトコンドリアによって生合成される天然のアミノ酸です。5-アミノレブリン酸はポルフィリン、ヘム、胆汁色素の前駆体です。5-アミノレブリン酸はミトコンドリアでのATP産生を活性化する作用があります。
 
5-アミノレブリン酸はミトコンドリアの中でアミノ酸の一種のグリシンと、クエン酸回路(TCA回路)で生成されるスクシニルCoAという2つの物質から作られます。生成された5-アミノレブリン酸は一度ミトコンドリアの外に出て行きます。細胞内で何種類かのポルフィリンという物質に変化し、再びミトコンドリアに戻ってきます。そして、最終的にプロトポルフィリンIXに変わります。このプロトポルフィリンに鉄がくっついてできたのがヘムという物質です。(下図)


図:ミトコンドリアの中でグリシンとスクシニルCoAから合成された5-アミノレブリン酸は、ミトコンドリアの外に出て、細胞内で何種類かのポルフィリンに変化し、コプロポリフィリノーゲンになって再びミトコンドリアに取り込まれ、最終的にプロトポルフィリンIXに変わる。このプロトポルフィリンに鉄が結合してヘムという物質が作られる。


プロトポルフィリンIXは、植物の細胞内ではマグネシウムと結合してクロロフィル(葉緑素)になります。クロロフィルは植物が光合成をする上でなくてはならない物質です。
 
プロトポルフィリンIXに鉄が結合したヘムは、生物の体内で多くの重要な機能を果たす化合物です。ヘムは主に以下のような役割を果たします。


1)酸素輸送: ヘムはヘモグロビンとミオグロビンという2つのタンパク質で中心的な役割を果たしています。ヘモグロビンは赤血球内に存在し、肺で酸素を結合して体の他の部位に運びます。一方、ミオグロビンは筋肉組織に存在し、酸素を保管して筋肉の運動に使用します。
 
2)エネルギー生成: ヘムは細胞内でのエネルギー生成に重要な役割を果たします。特にミトコンドリアの電子伝達系(呼吸鎖)という部位にあるシトクロムというタンパク質はヘムを含んでおり、これがエネルギー生成の過程で電子を輸送します。
 
3)解毒作用: ヘムは肝臓に存在するチトクロームP450という酵素群の一部であり、これが体内に取り込まれた様々な有害物質や薬物を無害化または分解する役割を果たします。
 
4)一酸化窒素の生成: ヘムは一酸化窒素(NO)の生成に関与しています。一酸化窒素は血管の拡張、神経伝達、免疫応答など、多くの生物学的プロセスを調節します。
 
以上の機能は全て、ヘムが鉄イオンを含む能力に起因します。この鉄イオンは酸素や電子や様々な有害物質と結合することができ、それにより上記のような多くの生物学的プロセスを可能にします。


図:5-アミノレブリン酸はプロトポルフィリンIXになり、鉄が結合してヘムになる。ヘムはヘモグロビンやシトクロムなど多くの重要な働きを担っている。



【5-アミノレブリン酸は加齢とともに減少する】

私たちの体内にある5-アミノレブリン酸は、約90%は体内で作られており、残りの10%は食物から摂取されています。生体内では1日に1グラム程度の5-アミノレブリン酸が合成され、同時に消費されていると言われています。
 
体内で合成される5-アミノレブリン酸の8割程度が赤血球のヘモグロビンに含まれるヘムに使用され、残りの2割の5-アミノレブリン酸がミトコンドリアの電子伝達系を構成するヘムやシトクロムに代謝されると考えられています。
 
5-アミノレブリン酸の1日の合成量は17歳前後をピークにして徐々に減少し、50歳以上になるとピーク時の数分の1に減少します。5-アミノレブリン酸の合成量が減少するとミトコンドリでのATP産生量が減少し、持久力や運動能力や脳の働きも低下します。
 
5-アミノレブリン酸のサプリメントは以前はかなり高価でしたが、最近はかなり安価になっています。5-アミノレブリン酸は水溶性で消化管からほとんど吸収され、細胞内に取り込まれます。5-アミノレブリン酸はミトコンドリアの代謝そのものを活性化するため、様々な疾患の予防や治療に役立つと考えられています。
 


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