見出し画像

95)アブラナ科野菜の抗がん作用は食べ方によって影響を受ける

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術95

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【野菜はがん予防成分の宝庫】

がんの発生や再発を促進する要因としては、糖質や動物性脂肪や赤味の肉の取り過ぎ、喫煙、飲酒、運動不足や肥満が上げられます。
 
一方、野菜や果物や豆類など植物性食品、精製度の低い穀物、魚油や紫蘇油や亜麻仁油に多く含まれるω3不飽和脂肪酸は、がんの発生や再発を予防する効果が指摘されています。特に、野菜や豆類には、免疫力を高める成分、活性酸素やフリーラジカルの害を防ぐ成分、発がん物質を不活性化する成分、がん細胞の増殖を抑える効果をもつ成分などが多く見つかっており、これらの成分を多く摂取することががんの発生予防に寄与すると考えられています。

植物には、「免疫増強作用」「抗炎症作用」「抗酸化作用」「解毒作用」「がん細胞増殖抑制作用」などのがん予防に役立つ成分が多く含まれています。植物に含まれるこのような薬効成分をファイト・ケミカル(phyto-chemical)と呼んでいます。Phytoは植物、chhemicalは化学を意味する言葉で、したがって、ファイトケミカルとは植物に含まれる化学成分を意味しています。
 
これらのファイトケミカルから、がん予防効果をもった成分が多くみつかっており、それらはサプリメントとしても利用されるようになっています。例えば、大豆のイソフラボン、ゴマのリグナン、トマトのリコピン、ブロッコリーのスルフォラファン、お茶のカテキン、緑黄色野菜のカロテノイド、ブルーベリーのアントシアニン、赤ワインのポリフェノール、キノコのβグルカンなどが有名です。



【アブラナ科野菜は最強の抗がん食品】

1990年代に米国立がん研究所が中心となって「がん予防に重要な野菜や果物や香辛料」がまとめられました。そのトップはニンニクで、キャベツ、大豆、生姜、タマネギ、お茶などが上位にランクされています。キャベツはアブラナ科の野菜です。

他のアブラナ科野菜のブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツは、タマネギやお茶や柑橘類(オレンジ、レモン、グレープフルーツ)と同じランクになっています(図)。


図:1990年から米国国立癌研究所を中心に行なわれた「デザイナーズフーズ・プログラム」における研究から得られた結果に基づく「がん予防効果が期待される野菜や果物」。アブラナ科野菜のキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツはがん予防に有効な野菜として上位にランクされている。
 
 
 
食事からのアブラナ科野菜の摂取量が多いほど、がんの発生率が低いことが、多くの疫学研究で明らかになっています。多くの報告をまとめると、アブラナ科野菜の摂取が少ない人に比べて摂取量の多い人のがん発症のリスクは50%から70%くらいに低下することが報告されています。

特に、生のアブラナ科野菜の摂取が多いほどがんの発生率が低下することが明らかになっています。それは、アブラナ科野菜は加熱調理すると抗がん成分が減少するからです。



【グルコシノレートはアブラナ科植物の生体防御物質】

アブラナ科の植物にはグルコシノレートという物質を含むのが特徴です。グルコシノレートは二次代謝産物の一種で、分子中にイオウ(硫黄)原子を多く含み、グルコースが結合しています。グルコシノレートにはグルコース以外の部分の構造が異なる多数の種類が知られています。

このグルコシノレートはミロシナーゼという酵素によって分解され、イソチオシアネートという非常に辛い物質に変化します。グルコシノレートは細胞内ではミロシナーゼと接触しないように安定して蓄えられていますが、昆虫などの捕食者にかじられると、細胞が壊れてグルコシノレートとミロシナーゼが接触して酵素反応が起こり、イソチオシアネートが生成するのです。
 
つまり、イソチオシアネートはアブラナ科植物が昆虫などの捕食者から身を守る防御物質なのです。ワサビや大根を擂り下ろすと辛みが出てくるのは、イソチオシアネートが生成するためです。


図:グルコシノレートは分子中にイオウ(硫黄)原子を多く含み、グルコースが結合している。グルコシノレートは植物内でミロシナーゼと接触しないように安定して蓄えられているが、昆虫などの捕食者にかじられると、細胞が壊れてグルコシノレートとミロシナーゼが接触して酵素反応が起こり、イソチオシアネートが生成する。
 
 
がん予防物質として有名なスルフォラファンは、グルコシノレートの一種のグルコラファニン(glucoraphanin)という物質がミロシナーゼによって分解されて生成します。つまり、スルフォラファンはイソチオシアネートの一種です。細胞が壊れてグルコシノレートとミロシナーゼが反応して生成するイソチオシアネートは昆虫などの捕食者を忌避させる効果を発揮します。

グルコラファニンはブロッコリーやカリフラワーやキャベツに多く含まれています。スルフォラファンは抗酸化酵素やフェースII解毒酵素の活性を高めて、強いがん予防効果を発揮することが知られています。



図:グルコシノレートの一種のグルコラファニンがミロシナーゼで分解されるとスルフォラファンというイソチオシアネートが生成する。
 
 
別のグルコシノレートのグルコブラシシンも、同様にミロシナーゼによって加水分解してインドール-3-カルビノールになります。このインドール-3-カルビノールも植物の生体防御に働きますが、人間が摂取すると、胃の中の酸性の条件下では、インドール-3-カルビノールが2個重合したジインドリルメタンになります(図)。

ジインドリルメタンはがん細胞のシグナル伝達系に作用して、増殖や浸潤や転移を抑制し、細胞死(アポトーシス)を誘導し、抗がん剤感受性を高めるなどの抗がん作用を発揮します。




図:アブラナ科野菜に多く含まれるグルコシノレートの一種のグルコブラシシンは、ミロシナーゼによって加水分解してインドール-3-カルビノールになり、さらに胃の中の酸性の条件下では、インドール-3-カルビノールが2個重合したジインドリルメタンになる。
 
 
 
 
アブラナ科の植物に見られるグルコシノレートとミロシナーゼのシステムは、最もよく研究されている植物の化学的防御の1つです。
ミロシナーゼ(myrosinase)はβ-チオグルコシダーゼとも呼ばれ、グルコシノレートのグリコシド結合を加水分解して、硫酸基を離脱させることでイソチオシアネートを生成します。

グルコシノレートとその加水分解酵素であるミロシナーゼは、無傷の植物組織の別々の区画に保管されています。組織が破壊されると、グルコシノレートの生物活性化が開始されます。

つまり、ミロシナーゼはそのグルコシノレート基質にアクセスし、グルコシノレートの加水分解により、毒性のあるイソチオシアネートおよび他の生物学的に活性な生成物が形成されます。グルコシノレート-ミロシナーゼ系の防御機能は、さまざまな昆虫や草食動物を用いた多くの研究で実証されています。



【アブラナ科野菜を加熱調理すると抗がん作用が減少する】

アブラナ科野菜に含まれるグルコシノレートから抗がん作用を発揮するイソチオシアネートの産生量は、野菜の細胞破裂の程度、加熱の有無、胃腸通過時間、食事の組成、腸内細菌叢の違いなど多数の要因によって影響を受けることが指摘されています。

グルコシノレートからイソチオシアネートを作る酵素(ミロシナーゼ)はタンパク質なので、加熱調理で活性が無くなります。つまり、ブロッコリーやカリフラワーやキャベツを茹でる調理法はミロシナーゼ活性を失活させるので、いくら多く食べても抗がん成分のスルフォラファンなどのイソチオシアネートが体内に得られないからです。

前述のように、アブラナ科野菜の摂取量が多いほど様々ながんの発生率で低いことが明らかになっていますが、特に生のアブラナ科野菜の摂取量が多いほどがんの発生率が低い事が多くのがんで報告されています。
つまり、アブラナ科野菜の単純な摂取量ではなく、調理法によるイソチオシアネートの摂取量の違いが重要なのです。

腸内細菌もミロシナーゼ活性を持つので、加熱調理したアブラナ科野菜でも大腸内で生成することが知られています。さらに、加熱調理したアブラナ科野菜と一緒にミロシナーゼ活性を有する生のアブラナ科野菜(ブロッコリースプラウト、大根おろし、辛子、など)を一緒に食べるとイソチオシアネートが上部消化管内で生成することが報告されています。



【加熱調理したアブラナ科野菜に生のアブラナ科野菜を一緒に食べる】

アブラナ科野菜の抗がん物質のスルフォラファンやインドール-3-カルビノールは野菜の中に存在しません。アブラナ科野菜に多く含まれるグルコシノレートという物質に、ミロシナーゼという酵素が作用してこれらの抗がん物質が生成します。


図:ブロッコリーやカリフラワーやキャベツなどのアブラナ科野菜にはグルコシノレートというイオウを含みグルコースが結合した物質が含まれている(①)。グルコシノレートには複数の種類があり、そのうちのグルコラファニン(②)は、野菜の細胞が壊れるとミロシナーゼという酵素と反応してスルフォラファンを生成する(③)。別のグルコシノレートのグルコブラシシン(④)も、同様にミロシナーゼによって加水分解してインドール-3-カルビノールになり(⑤)、さらに胃の中の酸性の条件下では、インドール-3-カルビノールが2個重合したジインドリルメタンになる(⑥)。これらの物質は、抗菌、抗酸化、解毒、発がん抑制、がん細胞の増殖・浸潤・転移の抑制などの作用を持っており、がんの発生予防や治療に役立つ効果を発揮する。
 
 

生の野菜を噛んだり、ミキサーなどで細切して野菜の細胞を壊さないとスルフォラファンやインドール-3-カルビノールは生成しないのです。ミロシナーゼは酵素でタンパク質であるため、加熱調理するとタンパク質が変性して、酵素活性は消失します。

つまり、ブロッコリーやカリフラワーやキャベツを加熱調理するとそのがん予防効果や抗がん作用は低下することになります。したがって、アブラナ科野菜は生で食べたり、ジュースにして摂取するのがベストということになります。

ブロッコリーやカリフラワーやキャベツは生でも食べられますが、加熱調理しても、一つの工夫で抗がん作用を高めることができます。それは、「ミロシナーゼ活性を含む生のアブラナ科野菜を一緒に摂取する」という方法です。

加熱調理したブロッコリーでも、ミロシナーゼを含む食品と一緒に食べれば、ブロッコリーの抗がん作用が保たれるということを米国のイリノイ大学の食品化学・人間栄養学部門の研究グループが報告しています(Br J Nutr. 2012 May;107(9):1333-8)。

スルフォラファンは、ブロッコリーに存在するミロシナーゼによるグルコラファニンの加水分解に由来します。ブロッコリー粉末がサプリメントとして販売されていますが、ミロシナーゼが不活性化しているため、スルフォラファンの供給サプリメントとしての有効性が疑問視されています。実際、サプリメントとして販売されているブロッコリー粉末だけを摂取してもスルフォラファンの体内吸収はわずかです。

グルコラファニンを多く含むブロッコリー粉末を摂取しても、ミロシナーゼが不活性化していると、スルフォラファンは生成しないので、血中や尿中のスルフォラファンの量は上がりません。腸内細菌のミロシナーゼ活性によってスルフォランができる分しか体内に吸収しないということになります。

しかし、この研究では、ミロシナーゼ活性を有する生のブロッコリースプラウトを一緒に摂取すれば、スルフォラファンが十分に生成されるという臨床試験の結果を報告しています。その後多くの研究で追試され、同様の結果が報告されています。
 
ブロッコリーを茹でて、その煮汁を捨てるとグルコラファニンをロスします。煮汁にグルコラファニンが多く溶出しています。ブロッコリーやカリフラワーを茹でたときは、その煮汁を捨てないことです。

ミロシナーゼの活性の至適温度は 35〜40℃です。つまり、煮汁が40℃以下になってから、ミロシナーゼ活性をもつブロッコリースプラウトや大根おろしを混ぜれば、スープの中にスルフォランやインドール-3-カルビノールなどの抗がん成分が増えます。ミロシナーゼはビタミンCの存在で活性が顕著に亢進します。したがって、レモン汁などビタミンCの多い柑橘類を絞って混ぜるのも有用です。



私は、がん予防の料理として、「大根おろしぶっかけアブラナ科野菜スープ」というレシピを勧めています。

ブロッコリーやカリフラワーやキャベツを少量の水で煮て、少し冷まして40℃以下にして、それに大根おろしをたっぷり加えた料理です。このとき、煮汁は捨てないのがポイントです。

煮汁の中のグルコラファニンやグルコブラシシンと、大根おろしの中のミロシナーゼが反応して、スルフォラファンやインドール-3-カルビノールなどの抗がん作用のある成分が生成します。一緒に食べることによって、胃や小腸内でもこれらの抗がん成分が生成します。

生のブロッコリー・スプラウトや擂り下ろしたワサビなども同様な効果が期待できます。ライムやレモンなどのビタミンCの多い柑橘類を絞って加えるとさらにスルフォラファンの生成量が増えます。

ブロッコリーやカリフラワーやキャベツを全て生で食べるより、加熱調理してスープを捨てないで、大根おろしやブロッコリー・スプラウトのミロシナーゼ活性でイソチオシアネートやインドール-3-カルビノールを生成する方が効果が高いように思います。それは加熱調理することによって、他の植物成分も多く利用できるようになるからです。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?