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110)ナッツの消費量が多いほど死亡率が低下する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術110

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【ナッツは栄養価が高い食べ物】

ナッツ(nuts)というのは食用の木の実のことです。種子は発芽して幼根や子葉となるため、脂肪・タンパク質・各種のミネラル・ビタミンなどの栄養成分が豊富に含まれています。エネルギー産生や物質合成や細胞分裂やストレス応答など、発芽するために必要な様々な生理活性に必要な成分を完璧に含んでいます。

ナッツ類に豊富に含まれるビタミンやミネラルは人間の生命活動に必要なものばかりです。例えば亜鉛(Zn)は300種類以上の酵素の活性に必要です。亜鉛を必要とする酵素は、DNAの複製(細胞の分裂・増殖)や遺伝子の発現(DNAの遺伝情報から蛋白質を作りだす)など、生命活動の基本として働くものが多く、さらにDNAの修復や活性酸素の除去などに働く酵素にも関与しているので、老化やがんの予防に重要なミネラルです。
 
亜鉛が欠乏すると、成長の遅延、食欲不振、感覚機能の異常(とくに味覚異常)、皮膚障害や脱毛、性力減退、免疫力低下、妊娠や胎児への影響、インスリンの合成や膵臓機能低下、脂質やアミノ酸代謝の障害、神経精神症状、行動異常、活動性の低下など様々な異常が現れます。

マグネシウム(Mg)はビタミンB群と一緒に、糖質や脂質の代謝や、タンパク質やDNAの合成に重要な役割を担っています。多くの酵素の活性化に必要で、エネルギー産生、体温や血圧の調節、神経の興奮、筋肉の収縮など、多くの生理機能に関係しています。
 
マグネシウムが欠乏すると神経や精神障害(神経過敏症、震え、抑鬱症、妄想、不安感、興奮など)と循環器障害(不整脈、頻脈など)が現れます。慢性的に欠乏すると、糖尿病や高脂血症、高血圧、動脈硬化を促進する原因となります。
このようにビタミンやミネラルの供給源としてもナッツ類は有用です。

種実類の多くは脂肪含量が可食部分の50~80%程度と多いのが特徴です。そのため、種実類の多くは食用油の原料になります。種実類の脂肪は多価不飽和脂肪酸が多いのが特徴です。
ナッツ類にはタンパク質と食物繊維も豊富に含まれます。


図:種実類にはタンパク質や脂肪や食物繊維が豊富に含まれる。


ナッツ類は脂肪が多く、他の野菜や果物に含まれるカロテノイドやビタミンEなどの脂溶性ビタミンの吸収率を増やすのに役立ちます。実際に、野菜のサラダやスープにナッツ類を加えると、野菜に含まれるカロテノイドの吸収が数倍に良くなると言われています。



【クルミはがんや循環器疾患を予防する効果が強い】

クルミはクルミ科クルミ属の落葉高木で、原産地はイランで、日本には中国を経由して伝わりました。日本に自生するのはオニグルミとヒメグルミで古くから食用にされてきましたが、殻が硬く果実が小さいのが特徴です。世界的にはカリフォルニア産のクルミが有名で、殻が薄くて割れやすく、食用となる「仁(じん)」の部分も多く含まれています。

少なくとも紀元前7000年前からクルミは食べられており、現在は世界で消費されるクルミの3分の2はアメリカのカリフォルニア産です。そのため、米国ではカリフォルニア産クルミの健康作用に関する研究が盛んに行われ、アメリカ食品医薬品局(FDA)もクルミの健康作用について高い評価をしています。1日約42g(1.5オンス)のクルミを、飽和脂肪酸やコレステロールの低い料理に加え、カロリー摂取量をオーバーしなければ、心疾患のリスクが低下することが報告されています。
 
クルミには、多くの必須ビタミンやミネラルが含まれ、カロテノイドやポリフェノールなど抗酸化成分も豊富で、さらにω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が豊富に含まれているのが特徴です。ナッツ類でα-リノレン産が豊富に含まれるのはクルミだけで、クルミ1.5オンス(約42g)にα-リノレン酸が3.8gも含まれていると報告されています。

人間の研究で、クルミを多く食べると、コレステロール値が低下し、善玉コレステロールのHDLコレステロールが増え、心臓血管系の疾患のリスクが低下することが明らかになっています。さらに、神経変性性疾患のパーキンソン病やアルツハイマー病の改善や、がん予防効果も報告されています。

ナッツ類の中で、抗がん作用が最も研究されているのがクルミです。クルミの抗がん作用には、ω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸だけでなく、フィトステロールやポリフェノールやカロテノイドなどの相乗効果と考える方が妥当です。
 
様々な発がん剤を用いた動物発がん実験モデルでクルミの抗腫瘍効果を見出した研究は多数あります。遺伝子改変の発がんマウスを使った実験でもクルミの発がん抑制効果が示されています。
 
クルミはビタミンやミネラルや抗酸化物質やがん予防成分をバランス良く、豊富に含有する自然食品と言えます。


図:クルミの実にはω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸が多く含まれ、さらに多くのビタミンやミネラル、ポリフェノール、フィトステロール、カロテノイドなど抗がん作用のある成分が多く含まれる。動脈硬化や心臓疾患を予防する効果が臨床試験で明らかになっており、がんの予防や治療においても有用な効果を示すことが報告されている。



【ピスタチオは肥満による慢性炎症を改善する】

ピスタチオは、ウルシ科カイノキ属の落葉亜高木で、現在のイランからアフガニスタン地方を含む中央アジア原産とされ、その木の実は紀元前6500年ごろから食用に用いられていたと記載されています。現在の生産量はイランが世界一で、アメリカ、トルコ、シリア、中国の順になっています。
 
ピスタチオは水分が少なく (3~6%)、脂肪(48 ~ 63%) とタンパク質(18 ~ 22%)と食物繊維 (8 ~ 12%) が多く含まれる栄養豊富なナッツです。ピスタチオには、マグネシウム、カルシウム、カリウム、リンなどのミネラルも豊富に含まれています。さらに、ビタミンが豊富で、特にビタミン Cと ビタミンEとカロテノイドが豊富です。緑色の部分にカロテノイドが多く含まれています。
 
ピスタチオの定期的な摂取が健康を改善するという証拠は多数報告されています。LDL コレステロールを低下させ、冠状動脈性心疾患のリスクを低下させる効果が報告されています。ピスタチオは血管内皮細胞の機能を良くして血圧を低下する効果が報告されています。

軽度の脂質異常症の成人 60 人を対象にした臨床試験では、80 g (殻付き) のピスタチオを 12 週間摂取した後の血管の健康に対する影響が評価されました。結果は、ピスタチオの通常の摂取が、血糖および脂質パラメーターを改善するだけでなく、血管硬化および内皮機能(頸動脈-大腿および上腕-足首の脈波伝播速度)の改善ももたらすことを示しました。
 
ピスタチオの消費は、高脂肪食を与えられたマウスの炎症を緩和し、腸内微生物叢の組成を改善する効果が報告されています。以下のような報告があります。

Pistachio Consumption Alleviates Inflammation and Improves Gut Microbiota Composition in Mice Fed a High-Fat Diet.(ピスタチオの消費は、高脂肪食を与えられたマウスの炎症を緩和し、腸内微生物叢の組成を改善する)Int J Mol Sci. 2020 Jan 6;21(1):365.

高脂肪食は、胎内の慢性炎症と腸内細菌叢異常症を誘発します。この研究では、ピスタチオの継続的な摂取が、高脂肪食を与えられたマウスの肥満に関連する炎症と腸内細菌叢異常(dysbiosis) を防ぐかどうかを検討しています。

雄マウス(4週齢)の 3 つのグループ (グループあたり8 匹) に、標準食、高脂肪食、またはピスタチオを添加した高脂肪食 (食事1kg当たり180 gのピスタチオ) を 16 週間与えました。

その結果、血清中の炎症性サイトカイン(TNF-αおよびIL-1β)のレベルは、高脂肪食と比較してピスタチオ添加高脂肪食で有意に減少しました。皮下および内臓脂肪組織の脂肪細胞の数と体積、炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α)やケモカインのCCL-2の mRNA 発現レベルは、高脂肪食と比較してピスタチオ添加高脂肪食で有意に減少しました。

腸内細菌のファーミキューテス(Firmicutes)/バクテロイデス(Bacteroidetes)比は、高脂肪食グループと比較して、ピスタチオ添加高脂肪食マウスで減少しました。マウスや人間において、腸内細菌叢のファーミキューテス/バクテロイデス比が高いのは肥満個体の特徴です。高脂肪食は腸内細菌叢のファーミキューテス/バクテロイデス比を高め、ピスタチオはこの比を低下させました。つまり、ピスタチオは腸内細菌叢の組成を痩せた個体の特徴に戻す効果があるという結果です。(下図)


図:腸内細菌叢のファーミキューテス(Firmicutes)とバクテロイデス(Bacteroides)の比率が肥満と痩せに関与している。ファーミキューテス:バクテロイデス比が増えると(①)肥満になる(②)。逆にファーミキューテス:バクテロイデス比が低下すると(③)、体重が減る(④)。
高脂肪食では腸内細菌のファーミキューテスが増え、バクテロイデスが減少して肥満を促進する(⑤)。高脂肪食にピスタチオを加えると、ファーミキューテス:バクテロイデス比が低下して肥満が抑制される(⑥)。


ピスタチオを加えた食事は、腸内細菌叢において健康な細菌属(善玉菌)の存在量を大幅に増加させ、炎症に関連する細菌(悪玉菌)を大幅に減少させました。ピスタチオを摂取したマウスでは大腸粘膜のバリア機能の改善が示唆されました。

この研究の結果は、定期的なピスタチオの摂取が肥満マウスの慢性炎症を改善したことを示しました。 さらに、微生物叢組成を善玉菌優位にして、粘膜バリアを強化する効果も関連している可能性を示唆しています。
 
ピスタチオが腸内微生物叢に対して潜在的に有益な酪酸産生菌の数を増やすことが報告されています。また、糖尿病ラットにおいて、ピスタチオを4週間摂取すると、正常な腸内細菌叢が回復し、善玉菌の乳酸菌とビフィズス菌が増えることが報告されています。
 
ピスタチオを含むナッツは、脂肪分が多いため、食べ過ぎると肥満を誘発すると考えている人は多いと思います。しかし、ナッツの摂取が体重増加や肥満リスクの増加とは関連していないという強力な証拠を提供した疫学研究や臨床試験は複数あります。これらの研究結果をまとめると、ピスタチオの摂取は体重を減少し、BMI(Body Mass Index)を低下させる効果が証明されています。

以上のように、ピスタチオには多彩な健康作用が知られてます。(下図)


図:ピスタチオには多彩な健康作用が報告されている



【ナッツ摂取が多いほどがん死亡率と全死因死亡率を低下する】

ナッツの消費量とがんリスクおよび死亡率との間に逆相関があることが報告されています。以下のような報告があります。

Association of Total Nut, Tree Nut, Peanut, and Peanut Butter Consumption with Cancer Incidence and Mortality: A Comprehensive Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis of Observational Studies.(ナッツ、木の実、ピーナッツ、ピーナッツバターの総消費量とがんの発生率および死亡率との関連:観察研究の包括的な系統的レビューと用量反応メタ分析)Adv Nutr. 2021 May; 12(3): 793–808.

この論文では、総ナッツ(木の実とピーナッツ)、木の実(クルミ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、ピーカンナッツ、カシューナッツ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ)、ピーナッツ、ピーナッツバターの摂取量と、がんの発生率およびがん死亡率との関係を調べた疫学研究(がんリスクに関する 43 件の論文とがん死亡率に関する 9 件の論文)のメタ解析を行っています。

解析の結果、ナッツの総摂取量が 1 日あたり 5 g 増加すると、全体がん、膵臓がん、結腸がんの発生リスクがそれぞれ 3%、6%、25% 低下しました。がんによる死亡率に関しては、総ナッツ、木の実、ピーナッツの摂取量が多いほど、それぞれ13%、18%、8%のリスクが低下することがわかりました。さらに、ナッツの総摂取量が 1 日あたり 5 g 増加すると、がんによる死亡リスクが 4% 低下しました。結論として、ナッツの摂取量が多いほど、がんの発症リスクとその死亡率が低下することが明らかになりました。

この論文では木の実(Tree Nut)とピーナッツを分けています。ピーナッツは「木の実」に入らないからです。木の実とピーナッツを合わせてナッツ(Nut)としています。
木の実のナッツに比べてピーナッツのがん予防効果は弱いようです。ピーナッツバターにはピーナッツの有益な成分が含まれていますが、砂糖や塩などの一部の添加物は、ピーナッツの有益な効果を低下させる可能性を指摘しています。

ナッツの消費量が多いと、がんだけでなく、心血管疾患死亡や全死因死亡を減らすことが多数の研究で明らかになっています。以下のような報告があります。

Nut consumption and risk of cardiovascular disease, total cancer, all-cause and cause-specific mortality: a systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies.(ナッツの消費と心血管疾患、全がん、全死因および原因別死亡のリスク:系統的レビューと前向き研究の用量反応メタ分析) BMC Med. 2016 Dec 5;14(1):207.

この論文では、ナッツの消費と心血管疾患、全がん、全原因および原因別死亡のリスクについて、20 件の研究 (29 件の出版物) の系統的レビューとメタ分析を実施しました。その結果、ナッツの摂取量が多いほど、心血管疾患、がんの総死亡率、全死因死亡率、呼吸器疾患、糖尿病、感染症による死亡率の低下に関連していることが明らかになりました。

ナッツ摂取量の 1日28 グラムの増加あたりの死亡率の相対リスクは、冠状動脈性心臓病が0.71、脳卒中が0.93、心血管疾患が0.79 、全がん死亡が0.85、全死因死亡率が0.78、呼吸器疾患による死亡率が0.48、糖尿病が0.61、神経変性疾患が0.65、感染症が0.25、腎臓病が0.27でした。

この論文では、2013年の1日当たりのナッツ摂取量が20グラム未満であることが、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、および西太平洋における推定 440 万人の早期死亡の原因となっていると推定しています。つまり、ナッツ類の摂取が多いほど多くの疾患による死亡率が低下するということです。

一部の食文化では、ナッツの加工に塩が使用されることに注意が必要です。塩分の摂取量が多いと、胃がんや結腸直腸がんのリスクが高くなり、さらには全死亡率が高くなります。また、発がん作用のあるアフラトキシン濃度は、ピーナッツ、ピスタチオ、アーモンド、クルミなどのさまざまな種類のナッツの不適切な保管条件下で増加する可能性があります。アフラトキシン(aflatoxin)は、アスペルギルス(Aspergillus 属) 等のかびが作り出す毒の一種で発がん性があります。
 
したがって、ナッツの有益な効果は、不適切な処理方法や保管条件によって減少する可能性があります。加工に塩を使わないで、安心できるメーカーの製品を購入することが大切です。

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