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113)ドコサヘキサエン酸(DHA)の継続的な摂取は寿命を延ばす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術113

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【ドコサヘキサエン酸はテロメア短縮を抑制する】

「ドコサヘキサエン酸(DHA)の継続的摂取が寿命を延ばす」、「血中のDHA濃度が高いと長生きする」、「DHAはテロメアを延ばす」といった報告が増えています。
例えば、最近の研究報告として以下のような論文があります。

Association of omega-3 and omega-6 fatty acid intake with leukocyte telomere length in US males.(米国男性におけるオメガ3およびオメガ6脂肪酸摂取と白血球テロメア長との関連)Am J Clin Nutr. 2022 Dec 19;116(6):1759-1766.

【要旨の抜粋】

オメガ-3 (n-3) およびオメガ-6 (n-6) 脂肪酸は、テロメア短縮に関連する酸化ストレスと炎症に寄与する可能性がある。この研究では、2,494 人の米国人男性を対象に、 総オメガ-3 または総オメガ-6 脂肪酸摂取量と白血球テロメア長との関連を調べた。採血は 1993 年から 1995 年の間に行われ、1994 年にはアンケートによってオメガ-3 と オメガ-6 の摂取量を含む関連情報が収集された。

ドコサヘキサエン酸(DHA) の摂取が白血球テロメア長と正の関連があることが示された。多変量調整モデルでは、DHAの摂取量が最も少ない個人 (第1四分位グループ) と比較して、消費量の少ない方から第2四分位グループ 、第3四分位グループ、第4四分位グループの個人の白血球テロメア長のパーセンテージ差は -3.7 %、7.0 %、8.2 %であった。総オメガ-3脂肪酸または総オメガ-6脂肪酸摂取量と白血球テロメア長の間に有意な関連性は認めなかった。さらに、ツナ缶を食べた男性は、食べなかった男性よりも白血球テロメア長が長かった。

結論として、私たちの結果は、DHA の摂取量が多く、マグロの缶詰の消費量が多いほど、白血球テロメア長が長くなることを示唆している。

 白血球テロメア長は、オメガ3(n-3)不飽和脂肪酸やオメガ6(n-6)の総摂取量では無く、ドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取量が多いほど長いという結果です。テロメアが長いほど、残された寿命が長いと一般に考えられていますので、DHAの摂取あるいはDHAを多く含むマグロの缶詰の摂取量が多いと、長生きするという結果です。
以下のような報告もあります。

Effect of plasma polyunsaturated fatty acid levels on leukocyte telomere lengths in the Singaporean Chinese population.(シンガポールの中国人集団における白血球テロメア長に対する血漿多価不飽和脂肪酸レベルの影響)Nutr J. 2020 Oct 30;19(1):119.

【要旨の抜粋】
短いテロメア長は、健康状態の悪化、慢性疾患のリスクの増加、および早期死亡と関連している。テロメアの過度の短縮は、老化の加速のマーカーであり、酸化ストレスや栄養不足の影響を受ける可能性がある。血漿 オメガ6(n-6): オメガ3(n-3)多価不飽和脂肪酸比は、細胞の老化に影響を与える可能性がある。海洋性オメガ3多価不飽和脂肪酸の食事摂取量の増加は、テロメアの消耗の減少と関連している。この研究では、白血球テロメア長に対する血漿多価不飽和脂肪酸の影響を検討した。

血漿オメガ-3およびオメガ-6多価不飽和脂肪酸の濃度は、質量分析を使用して測定された。白血球テロメア長は定量PCR法で測定した。
オメガ6: オメガ3 比が高いほど、白血球テロメア長の短縮 (p = 0.018) および 冠動脈疾患リスクの増加 (p = 0.005) と有意に関連していた。これらの関連性は、主に血漿総 オメガ3 多価不飽和脂肪酸、特にエイコサペンタエン酸 (EPA) とドコサヘキサエン酸 (DHA) の上昇によって引き起こされた (p < 0.05)。

結論として、血漿オメガ6: オメガ3 多価不飽和脂肪酸比の増加、及びエイコサペンタエン酸 (EPA) とドコサヘキサエン酸 (DHA)の低下は、この中国人集団における白血球テロメア長の短縮と冠動脈疾患リスクの増加と関連していた。

 
シンガポールの中国人を対象としたこの前向きケースコントロール研究では、血漿オメガ6:オメガ3比と白血球テロメア長および 冠動脈疾患リスクとの逆相関が観察されました。この関連は、オメガ6不飽和脂肪酸ではなく、オメガ3不飽和脂肪酸の摂取量の増加によって引き起こされました。特定の n-3不飽和脂肪酸と白血球テロメア長との関連性を調べると、EPA と DHA の両方の血漿レベルが高いほど、白血球テロメア長が長くなり、冠動脈疾患リスクが低下することがわかりました。

 油に多く含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)がテロメアの短縮を抑制して寿命を延ばす効果は多数報告されています。以下のような報告もあります。

Telomere shortening in elderly individuals with mild cognitive impairment may be attenuated with ω-3 fatty acid supplementation: a randomized controlled pilot study(軽度認知障害のある高齢者のテロメア短縮は、オメガ3脂肪酸の補給で軽減される可能性がある:ランダム化比較試験)Nutrition. 2014 Apr;30(4):489-91.

【要旨の抜粋】
目的: 染色体のテロメア末端の過度の短縮は、細胞老化のマーカーである。酸化ストレスと栄養不足がテロメア短縮を促進する可能性がある。この研究の目的は、軽度認知障害の高齢者のテロメア短縮に対するオメガ3多価不飽和脂肪酸補給の効果を調査することである。

方法: 65歳以上の軽度認知障害の成人33人を、エイコサペンタエン酸(EPA)群、ドコサヘキサエン酸(DHA)群、コントロール群に無作為に分けた。1日にEPA群(n=12)はEPA 1.67 g + DHA 0.16g、 DHA群(n=12)は1.55 g DHA + 0.40 g EPA、コントロール群(n=9)はオメガ6のリノール酸2.2 g のサプリメントを6カ月間摂取した。
結果: 介入は治療によるテロメア長の増加を示さず、介入期間中にテロメアが短縮する傾向が認められた。テロメア短縮は、DHAおよびEPAグループよりもリノール酸グループで最大であった。赤血球のDHAレベルの増加は、DHAグループのテロメア短縮の減少と関連していた。
結論: テロメアの短縮は、オメガ3多価不飽和脂肪酸の補給によって弱められる可能性がある。

 
エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を1日2g程度摂取すると、テロメアの長さが延長することはありませんが、加齢に伴うテロメアの短縮を抑制する効果が認められたという臨床試験の結果です。

 テロメアの短縮と心血管系の罹患率および死亡率との強い関連性がいくつかの集団で報告されています。以下のような報告があります。

Association of Marine Omega-3 Fatty Acid Levels With Telomeric Aging in Patients With Coronary Heart Disease(冠状動脈性心臓病患者における海洋オメガ3脂肪酸レベルとテロメア老化との関連)JAMA. 2010 Jan 20; 303(3): 250.

この研究では、オメガ3脂肪酸の血中濃度と、生物学的年齢のマーカーであるテロメア長の時間的変化との関連を調査しています。
2000年9月から2002年12月までに募集され、2009年1月まで追跡された安定した冠状動脈疾患を有する608人の外来患者の前向きコホート研究(追跡期間中央値は6.0年;範囲5〜8.1年)です。患者はカリフォルニア州サンフランシスコのベイエリアの外来クリニックから募集されました。

追跡開始時と5年間のフォローアップ後に白血球テロメアの長さを測定しました。追跡開始時のオメガ3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸)の血中濃度と5年間のテロメア長の変化との関連を調査しています。

中央値6年の追跡期間中に、276人の参加者(45%)がテロメア長の10%を超える減少を示しました。そして、追跡開始時のDHAとEPAの血中濃度が高いほど、テロメアの短縮率が低下することが明らかになりました。

白血球テロメアの長さは、心血管疾患の患者の罹患率と死亡率を独立して予測する生物学的年齢のマーカーとして知られています。この研究では、海洋オメガ3脂肪酸(DHAとEPA)のベースラインレベルが、5年間にわたるテロメアの減少と関連していることを示しています。つまり、オメガ-3脂肪酸が冠状動脈性心臓病の患者の細胞老化を防ぎ、死亡率を低下させる可能性を示唆しています。

オメガ3脂肪酸は抗炎症作用や抗酸化作用があり、全身の酸化ストレスを軽減することによってテロメア短縮を抑制する可能性が指摘されています。

 

 さらに、テロメラーゼ活性を高める作用も指摘されています。最近まで、テロメラーゼの発現は生殖細胞、幹細胞、およびがん細胞に限定されると考えられていました。しかし、現在、末梢血単核細胞で低レベルのテロメラーゼ活性が実証されています。1日3gのオメガ3魚油の補給を含む包括的なライフスタイルの変更の採用は、正常な成人の白血球におけるテロメラーゼ活性の有意な増加と関連することが報告されています。

 対照的に、培養した結腸直腸がん細胞を使った実験では、EPAとDHAはテロメラーゼ活性を抑制し、テロメラーゼレベルを低下させました。(Biochim Biophys Acta. 2005 Oct 15;1737(1):1-10.)

 つまり、オメガ3脂肪酸は、細胞の状況に応じてテロメラーゼに双方向の影響を与える可能性があると推測されます。がん細胞ではテロメラーゼ活性を抑制して増殖を抑制し、正常組織ではテロメラーゼ活性を高めて寿命を延ばす可能性があります。

したがって、DHAとEPAはテロメアの老化を標的とする抗老化療法において、非常に有用な栄養成分と言えます。1日2gから5g程度のDHAやEPAを摂取して、血中のDHA/EPA濃度を高めることは寿命を延ばす効果が期待できます。



【細胞分裂するたびにDNAのテロメアが短くなる】

細胞の中には細胞の分裂した回数をきちんと数える装置があって、ある回数を過ぎると細胞は分裂できなくなります。細胞の分裂回数に限界を設けているのがテロメア(telomere)です。

染色体DNAの末端部分にはTTAGGGという配列が多数繰り返された構造がみつかりテロメアと名付けられました。この6塩基のリピート部分には遺伝情報が入っていないので、なくなっても遺伝子の発現には問題ない部分です。しかし、テロメアが無くなると細胞はDNAの複製ができなくなります。

DNAは2本の鎖状で、それぞれの鎖を鋳型にして新しいDNA鎖を合成します。新しい鎖を作るとき、DNAポリメラーゼという酵素が鋳型のDNA上を移動しながら、新生DNAを作ります。この酵素が鋳型のDNAに結合するためには、まずプライマーとよばれるRNAが鋳型のDNAの末端に結合する必要があります。

DNAポリメラーゼはRNAプライマーに結合し、そこから新生DNAの合成を開始します。その際、プライマーが結合した鋳型DNAの末端部は複製されません。そのため、細胞分裂でDNAを複製するたびに、染色体のDNA末端は少しづつ切れて短くなっていきます。

短くなっても問題ないように、最初から遺伝情報とは関係なく必要のないDNA配列(TTAGGGの繰り返し配列)がテロメアとして存在しているのです。しかし、テロメアの長さに限界があるので、いずれはテロメアが無くなると、もはや細胞分裂ができなくなります。


図:染色体の末端にはテロメアという構造があり(①)、この部分のDNAはTTAGGGという配列が多数繰り返されている(②)。細胞分裂するたびに、このテロメア部分のDNAは短くなり(③)、テロメアが無くなった時点で、細胞はそれ以上に分裂することができなくなる(④)。
 
 
 つまり、テロメアとは「命の回数券」のようなものであり、分裂する度に回数券を一枚づつちぎって使い、やがて使い切ってしまうと細胞の寿命がくるというわけです。

ちなみに生殖細胞や幹細胞(骨髄細胞や消化管粘膜上皮細胞のように細胞回転が早い細胞を供給している細胞)やがん細胞のように無限に分裂できる細胞もありますが、これはテロメアを延ばすことができるテロメラーゼという酵素が働いて、テロメアの長さを維持しているからです。普通の細胞にはテロメラーゼ活性はほとんどありません。

抗老化の研究分野では、テロメラーゼの活性を高めて幹細胞の分裂能を高め、組織や臓器の老化による機能低下を抑制することを目的にした治療法が研究されています。



【テロメラーゼがテロメアの長さを維持する】

多くのがん細胞ではテロメラーゼ(telomerase)と呼ばれるテロメア合成酵素が活性化しており、この酵素の働きによってテロメアが安定に維持されます。
 
通常であれば、細胞分裂するたびにテロメアが短縮するのですが、がん細胞ではテロメラーゼ活性を亢進して、テロメアを再生して短縮を阻止しています。がん細胞が無限に分裂出来るのはこのためです。
 
生殖細胞や組織幹細胞もテロメラーゼが働いて、テロメアの長さを維持しているため、無限に分裂できます。
 
テロメラーゼはテロメアの末端にTTAGGGのリピート配列を付加することで染色体DNAの末端を維持する酵素です。
 
テロメラーゼ活性が低い細胞は、一般に細胞分裂ごとにテロメアの短縮が進み、やがて細胞分裂の停止が起きます。テロメラーゼは、ヒトでは生殖細胞・幹細胞・がん細胞などでの活性が認められ、それらの細胞が分裂を継続できる性質に関与しています。
 
このことから、テロメラーゼ活性を抑制することによるがん治療法となり、活性を高めることは細胞の分裂寿命の延長による抗老化療法となります。



【ドコサヘキサエン酸(DHA)の継続的な摂取は寿命を延ばす】

前述のように。魚油に多く含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)がテロメアの短縮を抑制して寿命を延ばす効果が報告されています。以下のような総説論文があります。

Effect of Omega-3 Fatty Acids on Telomeres - Are They the Elixir of Youth?(テロメアに対するオメガ 3 脂肪酸の影響 – それらは不老不死の霊薬ですか?)Nutrients. 2022 Sep 9;14(18):3723.

【要旨の抜粋】
テロメアは、反復したDNAと関連タンパク質からなる複合体で、染色体の末端を保護し、ゲノムの安定性を維持する上で重要な役割を果たす。加齢とともに短くなるため、加齢の生物時計と考えられている。さらに、テロメアの短縮は、いくつかの加齢に伴う疾患と関連している。
しかし、暦年齢とは無関係にテロメア短縮が変動することは、テロメア短縮が修正可能な要因であることを示唆している。実際に、テロメア短縮は遺伝子損傷、細胞分裂、老化、酸化ストレス、および炎症によって影響を受ける。

テロメアの消耗の加速とそれに続く早期の複製老化をどのように防ぐことができるかという問題は重要である。
多くの研究が、テロメア短縮に対するオメガ3脂肪酸の影響の可能性を調査してきた。このレビューは、テロメア生物学におけるオメガ 3 脂肪酸の役割を調査した研究をまとめたものである。

これまでに実施された研究の大部分はテロメアの長さに対するオメガ 3 脂肪酸の有益な効果を示している。

 

脂肪酸は1 個ないし複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖(炭化水素鎖)からなり、その鎖の両末端はメチル基(CH3)とカルボキシル基(COOH)で、基本的な化学構造はCH3CH2CH2・・・CH2COOHと表わされます。

 
脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和しています。一方、不飽和脂肪酸では炭化水素鎖中に1個ないし数個の二重結合(CH=CH)が含まれます。不飽和脂肪酸中で二重結合の数が2個以上のものを多価不飽和脂肪酸と云い、5 個以上の二重結合を持つ脂肪酸を高度不飽和脂肪酸と呼びます。  

脂肪は、それを構成している脂肪酸の構造の違いによって融点などの化学的性状が異なってきます。二重結合をもつ不飽和脂肪酸の多い脂肪は常温で液状になりますが、飽和脂肪酸になると固まりやすくなります。固まりやすい脂肪を多く摂取すると血液がドロドロになって動脈硬化が起こりやすくなります。


図:脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられ、多価不飽和脂肪酸にはオメガ3系とオメガ6系がある。

 

 リノール酸 CH3(CH2)3 CH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3 に最も近い二重結合は、CH3から6番目のCにあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸に分類します。

 
α-リノレン酸CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3に最も近い二重結合はCH3から3番目のC にあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸に分類します。
 
最近ではω6の代わりにn-6 を用いてn-6系不飽和脂肪酸、そしてω3の代わりにn-3を用いてn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶことが多くなっています(下図)。


図:CH3 に最も近い二重結合がCH3から3番目のCにある脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸、CH3から6番目のCに最初の二重結合がある脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸という。

 

 動物(人を含む)はリノール酸とα-リノレン酸を合成できません。これら2種類の不飽和脂肪酸は動物にとって不可欠であり、動物はこれらを食物として摂取する必要がありますのでこれらを必須脂肪酸と言います。
 
ω6 系不飽和脂肪酸はリノール酸 → γ-リノレン酸 → アラキドン酸のように代謝されていき、アラキドン酸からプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの重要な生理活性物質が合成されます。
 
アラキドン酸はリノール酸から体内で合成されますが、体内で十分な量が生成されないためアラキドン酸も必須脂肪酸になっています。
 

 
ω3系不飽和脂肪酸はα-リノレン酸 → エイコサペンタエン酸(EPA) → ドコサヘキサエン酸(DHA)と代謝されていきます。α-リノレン酸から体内でEPAとDHAが産生されますが、その量は少ないので、食事やサプリメントでEPAとDHAを積極的に摂取する意味はあります。



【DHAとEPAは抗炎症性メディエーターの前駆体】

DHAやEPAには抗炎症作用や鎮痛作用があります。実際に関節炎などの痛みを緩和し、CRP(C反応性たんぱく)などの炎症マーカーを低下させる作用もあります。そのメカニズムとしては、プロスタグランジンE2などの炎症を引き起こす物質を生み出すω6系のアラキドン酸がω3系のDHAやEPAに置き換えられ、したがって炎症物質ができにくくなるからといわれていました。すなわち、ω3系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、細胞膜中のω3系不飽和脂肪酸が増加して、アラキドン酸濃度が低下するので、その結果アラキドン酸由来の炎症促進性物質の産生が抑制されるという機序です。
 
しかし、最近の研究では、ω3系不飽和脂肪酸のDHAとEPAが炎症を抑える物質を生成することによって能動的に炎症を抑制することが明らかになっています。外傷や感染などに反応して急性炎症反応が起こりますが、異物の排除が完了すると炎症反応は速やかに消散し、組織の修復過程に移行します。炎症反応が終了することを「炎症の収束」と言います。
 
炎症の収束は、これまで起炎反応の減弱化によると考えられてきましたが、最近の研究で、受動的なものではなく、能動的な機構であることが明らかになっています。急性炎症の特徴(症状)は白血球の組織への浸潤に伴う浮腫、発赤、発熱、痛みなどで、これらの反応にはアラキドン酸から生成されるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質メディエーターが関与します。これらの物質によって好中球の浸潤や活性化、血管透過性の亢進などの炎症反応が起こります。
 
炎症の収束過程においては炎症性サイトカインの産生が抑制され、血管透過性が正常に戻り、好中球の遊走阻止や浸出液中のリンパ球の除去や、マクロファージによる死滅した細胞の除去などが起こります。この炎症の収束過程には、EPAやDHAなどのオメガ3系不飽和脂肪酸から体内で生成されるレゾルビンやプロテクチンという抗炎症性メディエーターが関与します。


図:アラキドン酸などのオメガ6系不飽和脂肪酸はプロスタグランジンやロイコトリエンのような炎症を促進する化学伝達物質(メディエーター)を産生する。一方、オメガ3系不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は炎症を収束する化学伝達物質(レゾルビン、プロテクチン)を産生する。

 

 つまり、DHAやEPAはアラキドン酸と競合することで炎症性ケミカル・メディエーターの産生を阻害するだけでなく、抗炎症性(炎症収束性)の脂質メディエーターを生成することによって積極的に炎症を抑制する作用があるということです。
 EPAやDHAの抗炎症作用やがん予防効果や心血管保護作用や脳神経系保護作用など多くの作用に、EPAやDHAから代謝されて生成される抗炎症性の脂質メディエーター(レゾルビンやプロテクチン)が関与しているようです。

 以上から、ドコサヘキサエン酸は抗炎症作用や抗酸化作用やテロメラーゼ活性化作用などによってテロメア短縮を抑制し、寿命を延長する効果を発揮すると言えます。

つまり、ドコサヘキサエン酸を日頃から多めに摂取すると寿命を延ばすことが期待できます。


図:染色体DNAの末端部分にはTTAGGGという配列が多数繰り返されたテロメアという構造が存在する(①)。正常細胞では細胞分裂のたびにテロメアが短縮し(②)、その短縮が限界に達するとDNAの複製ができなくなり、細胞はもはや分裂することが出来ず、細胞死を引き起こす(③)。生殖細胞、組織幹細胞、がん細胞ではテロメラーゼの発現と活性が亢進しておりテロメアを再生できる(④)。その結果、これらの細胞は無限の細胞分裂能(不死化)を獲得している(⑤)。テロメアは炎症や酸化ストレスによっても短縮し、ドコサヘキサエン酸は抗炎症作用と抗酸化作用によってテロメア短縮を阻害し(⑥)、寿命を延長する(⑦)。

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