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97)メラトニンは新型コロナウイルス感染後遺症を軽減する

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術97

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【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は慢性病だった】

ウイルス感染症には、風邪やインフルエンザや麻疹のように急性疾患として短期間で治癒する病気と、ウイルス性肝炎やエイズ(HIV感染)のように慢性病になるものがあります。ウイルス性肝炎の場合は、ウイルスが排除されて急性肝炎で治癒する場合と、ウイルスが肝臓から排除できずに慢性化して慢性肝炎や肝硬変や肝臓がんに進行する場合があります。
 
2019年のコロナウイルス病(Coronavirus disease 2019:COVID-19) の流行の初期には、この病気が慢性化する可能性があるとは誰も考えていませんでした。

COVID-19 の原因ウイルスの名称は、新型の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2 (Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2:SARS-CoV-2) です。名前の「acute(急性)」が示すように、風邪やインフルエンザと同様の急性の呼吸器疾患と考えられていました。

しかし、長期間に渡って様々な症状を訴えるCOVID-19 患者が多く存在することが報告されるようになりました。当初、医師はCOVID-19感染後の不定愁訴を、不安やストレスなど精神的な要因と考えていましたが、その考えはすぐに変わりました。
 
SARS-CoV-2感染の多くは急性病で終わるのですが、症状が長期間続いて慢性病となる症例も多いことが科学および医学界で認知されるようになりました。
 
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染に由来し、炎症性サイトカインの放出や急性肺損傷によって重症化します。(下図)。


図:コロナウイルスのSARS-CoV-2(①)の感染によって肺炎(COVID-19)が発症する(②)。肺炎は炎症反応を引き起こして多くの炎症性サイトカインの産生を亢進し(③)、活性酸素種や酸化酵素の活性が亢進して酸化ストレスが高まり、細胞や組織の酸化傷害が引き起こされる(④)。このような病的状況が制御できれば病気を回復できる(⑤)。しかし、炎症応答や酸化傷害が過剰になって制御不能になると、肺組織内の感染巣では、炎症性サイトカインやケモカインなどの産生が亢進するサイトカインストームの状況に陥る(⑥)。サイトカインストームは肺組織にダメージを与え、血管内皮細胞の透過性亢進を引き起こして、急性肺損傷や急性呼吸窮迫症候群を引き起こし(⑦)、さらに悪化すると敗血症や多臓器不全を引き起こして死に至る(⑧)。

 

COVID-19患者の多くが無症候性または軽度の症状で治癒します。しかし、そのような軽度の症状で回復した患者でも、感染の数ヶ月後にびまん性の多臓器症状を示すことが報告されています。

これらの症状には、倦怠感、筋肉痛、関節痛、頭痛、息切れ、胸部圧迫感、嗅覚や味覚の障害、睡眠障害、脳にモヤがかかったような状態(Brain fog)やその他の神経精神症状(うつ症状や不安感など)が含まれます。

COVID-19の後遺症に関する最も早い報告はイタリアからの報告でした。この報告によると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)143人の回復者のうち87%の人々が、60日後でも少なくとも1つの症状が持続していることが明らかになりました。32%の人は1つまたは2つの症状があり、55%の人は3つ以上の症状がありました。
 
症状としては、倦怠感(53.1%)、生活の質の悪化(44.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)でした。咳、皮膚の発疹、動悸、頭痛、下痢、しびれの症状もありました。患者はまた、不安、うつ病、外傷後のストレス障害などの精神的健康問題に加えて、日常的な日常活動を行うことができないことを報告しました。
(Persistent Symptoms in Patients After Acute COVID-19.JAMA. 2020 Aug 11; 324(6): 603–605.
 
また、アメリカの電話調査では270人の患者のうち65%で7日程度で普段の健康状態に回復したものの、35%の人が2~3週間後も普段の健康状態に復帰していないと回答しています。
 
日本での電話調査(63名)では、発症から60日たった後にも嗅覚障害(19.4%)、呼吸困難(17.5%)、倦怠感(15.9%)、咳嗽(7.9%)、味覚障害(4.8%)があり、さらに発症から120日たった後でも呼吸困難(11.1%)、嗅覚障害(9.7%)、倦怠感(9.5%)、咳嗽(6.3%)、味覚障害(1.7%)を認めています。また、24%に脱毛が見られ、発症後30日から出現して、約120日まで認められています。持続期間は平均76日間となっています。
 
このように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染から数週間または数か月後でも様々な症状が持続する病状を表す用語として「Long COVID(ロングCOVID)」や「post-COVID syndrome(COVID後症候群)」や「chronic COVID syndrome(慢性COVID症候群)」や「long haulers(長距離輸送車)」などが使用されています。
 
診断基準や調査方法が各国で異なるので正確な有病率についてはわかっていませんが、3ヶ月以上にわたり症状が持続する人は5〜10%程度存在すると推定されています。



【コロナウイルスは全身の組織や臓器にダメージを与える】

COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスは、体のさまざまな部位の細胞、特に肺や血管内皮細胞に存在する受容体(ACE2)に付着します。影響を受ける臓器には、心臓、肺、腎臓、脳、腸、膵臓の細胞などがあります。

新型コロナウイルスの感染した後に、体内では炎症反応が起きます。炎症はウイルスを倒すための反応ですが、炎症に伴うサイトカインと呼ばれる化学物質の産生により意図せずに自分の体の細胞に対して多くの損傷を引き起こしてしまいます。

さらにこのプロセスは血液を固まりやすくさせます。血栓が形成されると、臓器の一部への血液供給を遮断しより多くの損傷を与えます。
 
COVID19発症時や初期の症状が軽微であっても、体のさまざまな部位にダメージを受けている可能性があり、後遺症に繋がっている可能性があります。実際に、コロナ後遺症ではCOVID19の重症度によらず、持続的な症状を発症する場合があります。軽症で入院していないCOVID-19患者でも心臓、肺、肝臓への長期的な症状と臓器の損傷があることがわかってきています。
 
Long COVIDが発症するメカニズムは多彩です。複数の原因が複雑に関与しており、その要因や関与の度合いは患者ごとに異なります。
 
臓器損傷の程度、慢性炎症の程度と持続期間、免疫応答の程度や自己抗体の生成などが関与します。さらに入院や集中治療によるストレスや、治療薬や人工呼吸の身体に対する悪影響に関連する合併症、心的外傷後ストレスのような体調不良、心理的問題も症状の一因となります。(下図)。


図:新型コロナウイルス感染症の後遺症(Long COVID)は様々な要因で発生する。ウイルス感染や炎症反応による組織・臓器のダメージだけでなく、治療に伴う副作用や相互作用、併存疾患の存在、免疫異常、他の感染症の発症、長期入院やICU治療によるストレスや治療による影響、精神的要因など多くの要因が複雑に関与する。



【コロナウイルスは神経細胞とグリア細胞に感染する】

新型コロナの後遺症のひとつに「ブレイン・フォグ(Brain fog)」という症状があります。Fogは霧という意味で、「脳の霧」という意味です。頭にモヤがかかったようにぼんやりしてしまい考えがまとまらない、集中できない状態です。その原因として脳の炎症の関与が指摘されています。以下のような論文があります。

Editorial: The Pathogenesis of Long-Term Neuropsychiatric COVID-19 and the Role of Microglia, Mitochondria, and Persistent Neuroinflammation: A Hypothesis(論説:長期神経精神医学的COVID-19の病因とミクログリア、ミトコンドリア、および持続性神経炎症の役割:仮説)Med Sci Monit. 2021; 27: e933015-1–e933015-4.

【要旨】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染から回復した患者に長期に持続する後遺症が発生している。このLong COVID(ロングCOVID)と呼ばれる病状は、中枢神経系の障害により、認知障害や脳霧(brain fog)や慢性疲労症候群を含む神経精神症状および徴候を引き起こす。
SARS-CoV-2とエボラ(Ebola)、ジカ(Zika)、およびインフルエンザAウイルスの間には、これらの持続的な合併症に類似点がある。
正常な中枢神経系のニューロンのミトコンドリア機能は、酸化的リン酸化とATP生成のために高い酸素レベルを必要とする。最近の研究では、SARS-CoV-2ウイルスがミトコンドリア機能を乗っ取る可能性があることが示されている。
認知機能の持続的な変化は、他のウイルス感染症でも報告されている。SARS-CoV-2感染は、ミクログリアの機能障害を引き起こすことにより、中枢神経内の免疫プロセスに長期的な影響を与える可能性がある。
この論文は、COVID-19による長期の神経精神症状の病因がミクログリア、ミトコンドリア、および持続性神経炎症を伴うという仮説を議論することを目的としている。
 
 

ロングCOVIDで見られる認知障害や脳霧(brain fog)や慢性疲労症候群を含む神経精神症状はウイルスが中枢神経系に感染して、炎症を引き起こすことが原因と考えられています。
 
ウイルスは神経細胞(ニューロン)のミトコンドリアの機能を障害して機能を低下し、さらにミクログリアやアストロサイトを刺激して炎症反応を誘導し、この神経組織の炎症が、脳機能を障害して、認知機能障害や脳霧(brain fog)を引き起こしていると考えられています。



【COVID-19の補助療法としてのメラトニン】

メラトニンは1958年にエール大学のLernerらによって牛の脳の松果体から単離され、1959年に構造がN-アセチル-5-トリプタミンと決定された松果体ホルモンです。メラトニンは、ヒトにおいて、睡眠誘導や概日リズムの制御、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調節、生体防御、神経細胞保護、発がん予防やがん細胞の増殖抑制作用など多彩な作用を発揮します。


図:メラトニンは脳の松果体から分泌される。メラトニンは、ヒトにおいて、睡眠誘導や概日リズムの制御、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調節、生体防御、神経細胞保護、発がん予防やがん細胞の増殖抑制作用など多彩な作用を発揮する。

 
メラトニンがウイルス感染症や敗血症に有効であることは多くの研究で明らかになっています。当然、新型コロナウイルス感染症に対するメラトニンの使用に対する可能性を指摘する論文も多く発表されています。例えば、以下のような総説論文があります。

COVID-19: Melatonin as a potential adjuvant treatment(COVID-19:潜在的な補助療法としてのメラトニン)Life Sci. 2020 Jun 1; 250: 117583. 

【要旨の抜粋】
この論文では、COVID-19の症状軽減におけるメラトニンの可能性のある利点をまとめている。
他のコロナウイルスや病原体によって引き起こされる急性呼吸器疾患の臨床的特徴、病理や病因の知識に基づくと、COVID-19の病態には、過剰な炎症と酸化傷害と誇張された(過剰な)免疫反応が寄与している可能性が示唆されている。
これは、サイトカインストーム(cytokine storm)を引き起こし、それに続いて、急性肺損傷(Acute lung injury)/急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome : ARDS)へと進行し、そしてしばしば死につながる。
メラトニンは抗炎症作用と抗酸化作用を有し、ウイルスや他の病原体によって引き起こされる急性肺損傷や急性呼吸窮迫症候群の症状を抑制する。
メラトニンは、血管透過性を抑制し、不安感や鎮静剤の使用を減らし、睡眠の質を改善することにより、重症患者の治療に有益である。これは、COVID-19患者の臨床転帰の改善にも役立つ。
特に重要なことは、メラトニンは極めて安全性が高い。メラトニンがウイルス関連疾患を抑制し、COVID-19患者にも有益である可能性が高いことを示す十分なデータがある。この推測を確認するには、追加の実験と臨床研究が必要である。
 
 

この総説論文では、メラトニンがウイルス感染症に有効であることを示す動物実験の結果などをまとめています。メラトニンがCOVID-19の重症化の予防に効果が期待できる可能性と、そのメカニズムとして「サイトカインストーム」の発生を予防する可能性があることを指摘しています。



【Long COVIDの治療にメラトニンが役立つ可能性がある】

コロナ後遺症(Long COVID)についての根本的な解決方法はまだ見つかっていません。発症要因が複雑で多彩なため、一つの治療法では解決できないと言えます。

前述のようにLong COVIDは単一の病態ではなく、人によって症状の種類や程度は異なります。そのため、症状に合わせて症状を和らげる治療やリハビリテーション、また症状とうまく付き合うためのアドバイスを受けて生活や仕事ができるように工夫するしかありません。
 
コロナウイルス(SARS-CoV-2)がミトコンドリアをハイジャックして、ミトコンドリア機能を障害することが報告されています。強い倦怠感の軽減にミトコンドリアの活性化は有効です。また、ダメージを受けた組織や臓器の障害の回復促進にもミトコンドリア機能の活性化は効果が期待できます。Long COVIDの治療法としてミトコンドリア活性化は試してみる価値はあると思います。
 
メラトニンはミトコンドリアで産生され、ミトコンドリアを活性酸素の害から保護する作用があります。抗酸化作用だけでなく、神経細胞を保護する作用、抗炎症作用などがあります。したがって、新型コロナウイルス感染後遺症にも効果が期待できます。最近、以下のような論文が報告されています。

Possible Application of Melatonin in Long COVID.(新型コロナウイルス感染後遺症におけるメラトニンの適用の可能性)Biomolecules. 2022 Nov 7;12(11):1646.

【要旨】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19) を発症した患者のかなりの数が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の急性期を過ぎた後も、長期間に渡って臨床的後遺症の症状に苦しんでいる。この状態はlong COVIDと呼ばれている。
新型コロナウイルス感染後遺症(Long COVID)の症状として、認知機能の低下、慢性疲労、筋肉痛、および筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群 (myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome) に似た筋力低下が重要である。
メラトニンは、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調節作用などの効果があるため、SARS-CoV-2 感染の徴候と症状を軽減するのに特に効果的である可能性がある。
メラトニンはまた、集中治療室のCOVID患者に見られるせん妄の治療と概日不均衡の回復に効果的である。
さらに、メラトニンは細胞保護作用があり、糖尿病、メタボリック症候群、虚血性および非虚血性心血管疾患など、COVID-19感染症を重症化させる共存疾患の予防に役立つ。
この総説では、新型コロナウイルス感染後遺症(long COVID)で見られる認知機能の低下(brain fog)や疼痛を制御するための神経保護剤としてのメラトニンの適用について考察する。SARS-CoV-2感染の神経学的後遺症におけるメラトニンの治療的使用に関するさらなる研究が必要である。
 
 

メラトニンの多彩な薬効は、新型コロナウイルス感染症の重症化予防だけでなく、後遺症の予防と治療にも効果が期待できます。コロナ後遺症で悩んでいる人は、1日100mg程度の多めのメラトニンを数週間試してみる価値はあります。


図:コロナウイルスのSARS-CoV-2(①)の感染は炎症反応(②)を引き起こして炎症性サイトカインの産生を亢進し、サイトカインストームを引き起こす(③)。サイトカインストームは肺組織にダメージを与え、血管内皮細胞の透過性亢進を引き起こして、急性肺損傷や急性呼吸窮迫症候群を引き起こし、さらに悪化すると敗血症や血栓形成や多臓器不全を引き起こして死に至る(④)。これらの炎症反応は活性酸素の産生を高めて、組織のダメージをさらに悪化させる(⑤)。組織・臓器のダメージは後遺症(long COVID)の原因になる(⑥)。メラトニンは抗炎症作用と抗酸化作用があり、COVID-19の重症化を阻止し(⑦)、細胞や組織をダメージから保護し、後遺症の様々な症状を改善する効果を発揮する(⑧)。このように、メラトニンは新型コロナウイルス感染症の重症化予防と後遺症の予防と治療に効果が期待できる。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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