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140)運動と瞑想はテロメアを延ばす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術140

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。


【細胞分裂するたびにDNAのテロメアが短くなる】

人間の胎児から取り出した線維芽細胞を培養すると次第に分裂の速度が落ちて、約50回の分裂回数が限界で、いくら栄養物質や増殖を促進する物質を加えても分裂することはできずに最後は死んでしまいます。

一方、成人の人間から取り出した線維芽細胞の分裂できる回数はその年齢に応じて減少していることも明らかになっています。すなわち、細胞の中には細胞の分裂した回数をきちんと数える装置があって、ある回数を過ぎると細胞は死を向かえるプログラムが働き出すのです。


図:赤ん坊や成人や老人の皮膚から線維芽細胞を採取してシャーレで培養すると、年齢が若い個体から採取した細胞ほど多く分裂できる。赤ん坊の細胞の方が老人より多く分裂できるが、赤ん坊の細胞もやがて細胞分裂を停止して死滅する。細胞の分裂回数はヒトの場合は約50回が限界で、これ以上は分裂できない。これをヘイフリック限界という。
 
 
細胞の分裂回数に限界を設けているのが遺伝子の末端のテロメアの存在です。染色体DNAの末端部分にはTTAGGGという配列が多数繰り返された構造がみつかりテロメアと名付けられました。この6塩基のリピート部分には遺伝情報が入っていないので、無くなっても遺伝子の発現には問題ない部分です。しかし、テロメアが無くなると細胞はDNAの複製ができなくなります。
 
DNAは2本の鎖状で、それぞれの鎖を鋳型にして新しいDNA鎖を合成します。新しい鎖を作るとき、DNAポリメラーゼという酵素が鋳型のDNA上を移動しながら、新生DNAを作ります。この酵素が鋳型のDNAに結合するためには、まずプライマーとよばれるRNAが鋳型のDNAの末端に結合する必要があります。

DNAポリメラーゼはRNAプライマーに結合し、そこから新生DNAの合成を開始します。その際、プライマーが結合した鋳型DNAの末端部は複製されません。そのため、細胞分裂でDNAを複製するたびに、染色体のDNA末端は少しづつ切れて短くなっていきます。
 
通常、1回の細胞分裂で、テロメアから50から100塩基分が失われてテロメアが短縮していきます。テロメアの短縮が限界に達すると、細胞はもはや分裂することが出来なくなります。

短くなっても問題ないように、最初から遺伝情報とは関係なく必要のないDNA配列(TTAGGGの繰り返し配列)がテロメアとして存在しているのです。しかし、テロメアの長さに限界があるので、いずれはテロメアが無くなると、もはや細胞分裂ができなくなります。(下図)


図:染色体の末端にはテロメアという構造があり(①)、この部分のDNAはTTAGGGという配列が多数繰り返されている(②)。細胞分裂するたびに、このテロメア部分のDNAは短くなり(③)、テロメアが無くなった時点で、細胞はそれ以上に分裂することができなくなる(④)。
 
 
生殖細胞や幹細胞(骨髄の造血細胞や消化管粘膜上皮細胞のように細胞回転が早い細胞を供給している細胞)やがん細胞のように無限に分裂できる細胞もありますが、これはテロメアを延ばすことができるテロメラーゼという酵素が働いて、テロメアの長さを維持しているからです。普通の細胞にはテロメラーゼ活性はほとんどありません。


図:染色体DNAの末端部分にはTTAGGGという配列が多数繰り返されたテロメアという構造が存在する(①)。正常細胞では細胞分裂のたびにテロメアが短縮し(②)、その短縮が限界に達するとDNAの複製ができなくなり、細胞はもはや分裂することが出来ず、細胞死を引き起こす(③)。生殖細胞や幹細胞やがん細胞ではテロメラーゼの発現と活性が亢進しておりテロメアを再生できる(④)。その結果、これらの細胞は無限の細胞分裂能(不死化)を獲得している(⑤)。



【テロメラーゼがテロメアの長さを維持する】

テロメラーゼは、ヒトでは生殖細胞・幹細胞・がん細胞などで活性が認められ、それらの細胞が分裂を継続できる性質に関与しています。

テロメラーゼは逆転写酵素活性を持つヒト・テロメラーゼ逆転写酵素(human telomerase reverse transcriptase :hTERT)と、テロメアリピートの鋳型として機能するRNA要素(テロメラーゼRNA要素:TERC)から構成されます。
 
テロメラーゼRNA要素はテロメラーゼによるテロメアの複製(逆転写)の際の鋳型として機能します。脊椎動物型TERC配列の50位付近に存在するCCCUAA配列が鋳型として機能します。


図:ヒト・テロメラーゼ複合体はヒト・テロメラーゼ逆転写酵素(human telomerase reverse transcriptase :hTERT)とテロメラーゼRNA要素(telomerase RNA component :TERC)、dyskerin、リボヌクレオプロテイン(GAR1, NHP2, NOP10)から構成される。テロメラーゼRNA要素(TERC)がRNAテンプレートとなってテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)がテロメアの末端にDNAヌクレオチドを追加してテロメアを伸長する。シェルテリン複合体(Shelterin complex)はテロメアを保護し、テロメラーゼ活性を制御する。シェルテリン複合体は、TRF1(telomere repeat binding factor 1)、 TRF2(telomere repeat binding factor 2)、RAP1(repressor/activator protein 1)、POT1(protection of telomere 1)、 TIN2(TRF1- and TRF2-interacting nuclear protein 2)、TPP1(ACD shelterin complex subunit and telomerase recruitment factorの6つのサブユニットから構成される。



【運動は正常細胞のテロメラーゼ活性を高める】

運動が細胞のテロメラーゼ活性を増加することが報告されています。以下のような論文があります。

Exercise training increases telomerase reverse transcriptase gene expression and telomerase activity: A systematic review and meta-analysis.(運動トレーニングはテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子発現とテロメラーゼ活性を増加させる:系統的レビューとメタ分析)Ageing Res Rev. 2021 Sep;70:101411.

【要旨】
テロメアは遺伝子の安定性を保護し、テロメアの短縮は老化の特徴の1つである。テロメラーゼ逆転写酵素は、テロメアを伸長させるテロメラーゼの主要なタンパク質成分である。

テロメアの短縮が多くの慢性疾患の発症に関連しており、テロメラーゼ逆転写酵素遺伝子の発現とテロメラーゼ活性を増加させるライフスタイル要因は、テロメアの減少を軽減し、健康的な生物学的老化に寄与する可能性がある。

身体活動と有酸素運動はテロメアの維持に関連しているが、その分子メカニズムは不明のままである。
このシステマティック レビューとメタ分析の目的は、1 回の運動と長期の運動トレーニングが テロメラーゼ逆転写酵素の発現とテロメラーゼ活性に及ぼす影響を特定することである。

PubMed、Scopus、Science Direct、および Embase データベースを使用して、ヒトおよびげっ歯類の試験を検索した。
適格な臨床試験から得られた結果に基づいて、1 回の運動と長期の運動トレーニングはともに正常細胞のテロメラーゼ逆転写酵素およびテロメラーゼ活性を亢進した。

持久力のあるアスリートは、非アクティブなアスリートと比較して、白血球のテロメラーゼ逆転写酵素およびテロメラーゼ活性の増加を示した。

これらの調査結果は、運動トレーニングがテロメラーゼ逆転写酵素発現とテロメラーゼ活性を増加させる安価なライフスタイル要因であることを示唆している。定期的な運動トレーニングは、テロメラーゼ依存メカニズムを通じてテロメアの消耗を軽減し、最終的に健康寿命と寿命を延ばす可能性がある。
 
 

運動とテロメラーゼ活性の関係を検討した動物実験やヒトでの臨床試験を調査し、メタ解析した結果、定期的な運動がテロメラーゼ活性を亢進し、健康寿命を延ばすという結論です。



【瞑想はテロメラーゼ活性を高める】

瞑想(めいそう)とは、心を落ち着けたり、集中させたりするための実践や技法を指します。瞑想の目的や方法は多岐にわたり、精神的な平和や自己認識の増進、宗教的な目的、身体的および精神的な健康の向上など様々です。

瞑想が精神的および肉体的健康に影響を与えることは、いくつかの研究によって明らかになっています。瞑想がテロメラーゼ活性を高めることが報告されています。

以下のような報告があります。スリランカのコロンボ大学医学部からの研究です。

Impact of Meditation-Based Lifestyle Practices on Mindfulness, Wellbeing, and Plasma Telomerase Levels: A Case-Control Study.(瞑想に基づいたライフスタイル実践がマインドフルネス、幸福度、血漿テロメラーゼレベルに及ぼす影響:症例対照研究)Front Psychol. 2022 Mar 4:13:846085.

【要旨の抜粋】
瞑想は、穏やかな心を生み出し、自己認識を高め、心身の緊張をときほぐしてリラックス状態を高めるなど、さまざまな利点が得られる。短期集中的な瞑想の実施が、細胞の老化を含む身体的健康にも好ましい影響を与える可能性があることが示唆されている。

この研究は、瞑想の継続的な実践が、健康な成人の生活の質、マインドフルネスの状態、血漿テロメラーゼレベルに利益をもたらすかどうかを調査した。
 
島のさまざまな地域にある瞑想センターから30人の長期にわたる熟練した瞑想者が採用され、年齢と性別が一致した30人の健康な非瞑想者が対照群として採用された。

マインドフルネスと生活の質のレベルは、それぞれファイブ ファセット マインドフルネス アンケート (Five Facet Mindfulness Questionnaire :FFMQ) と生活の質アンケートを使用して測定され、血漿テロメラーゼ酵素のレベルは酵素免疫吸着法を使用して測定された。 
 
熟練した瞑想者のグループは、対照グループよりもマインドフルネス レベルと生活の質が統計的有意に高かった。同様に、熟練した瞑想者では非瞑想者と比較して、血漿テロメラーゼレベルがより高かった。
 
マインドフルネスレベルと血漿テロメラーゼレベルは、瞑想実践の継続時間と有意な関係を示した。回帰分析により、マインドフルネス・レベルが血漿テロメラーゼ・レベルを有意に予測することが示された。

この比較研究の結果は、瞑想の持続的な実践が、幸福と健康的な老化に対して良い影響を与えることを示しており、瞑想に基づいた活動をライフスタイル実践に組み込むことの有用性を裏付けている。
 
 
マインドフルネスとは、過去の経験や先入観といった雑念にとらわれることなく、身体の五感に意識を集中させ、「今この瞬間の気持ち」「今ある身体状況」といった現実をあるがままに知覚して受け入れられている状態のことです。生産性やストレス耐性向上といったメリットから、ビジネスでも注目されています。
マインドフルネスは、仏教における瞑想がベースになっています。瞑想は、腹式呼吸や呼吸と連動したおなかの動き、五感を使う体験などを通して、過去や思考、感情にとらわれない心を育成するものです。
瞑想がこのマインドフルネス状態を高めることは簡単に理解できます。それと同時に血漿中のテロメラーゼ活性を高める効果があるというのが、この研究の結果です。瞑想で寿命が延びる可能性を示唆しています。
 
以下も同じ研究グループが同じ対象を使って、瞑想のテロメアに関連した効果を検討しています。

Associations of meditation with telomere dynamics: a case-control study in healthy adults(瞑想とテロメア動態の関連性:健康な成人を対象とした症例対照研究)
Front Psychol. 2023 Jul 14:14:1222863.

【要旨の抜粋】
テロメアは染色体の末端にあり、細胞分裂のたびに、したがって加齢とともに自然に短くなる。テロメア短縮は、加齢によって発生する多くの病気と関連している。

瞑想はテロメアのダイナミクス(動態)に影響を与える可能性のある心身の実践法として注目を集めている。私たちは以前、瞑想がテロメラーゼ活性、マインドフルネス、生活の質を高めることを報告した。ここでは、同じ研究集団について報告し、長期瞑想とテロメア長、ヒト・テロメラーゼ逆転写酵素(human telomerase reverse transcriptase :hTERT)およびヒト・テロメラーゼRNA(human telomerase RNA: hTR)遺伝子の発現、およびhTERT遺伝子のプロモーター領域のメチル化との関連について解析した。
 
30 人の健康な瞑想者と、それに条件を合わせた非瞑想者(対照群)を募集した。テロメア長は定量的PCRを使用して測定され、遺伝子発現は逆転写酵素PCRを使用して評価され、メチル化レベルは亜硫酸水素塩特異的PCRとその後のサンガー配列決定によって定量された。瞑想者と対照者の比較は t 検定を使用して実行され、ピアソン相関を使用して相関関係を特定し、回帰を使用して予測因子を特定した。
 
結果: 男性は各グループの 63.4% を占め、平均年齢は 43 歳であった。瞑想群は、平均すると6.8 年間 (±3.27) の間、毎日 5.82 時間 (±3.45) 瞑想していた。瞑想者は相対的なテロメア長が長く、テロメア長は年齢とともに減少したが、他の社会人口統計的変数との関連は認めなかった。

回帰分析の結果、年齢と瞑想の継続時間がテロメア長を有意に予測することが示された。

瞑想者は、非瞑想者と比較した場合、hTERTおよびhTR遺伝子の相対発現が高い一方、 hTERT遺伝子のプロモーター領域のメチル化レベルが有意に低かった。

hTERT遺伝子のプロモーター領域のメチル化レベルとhTERT遺伝子の発現および瞑想時間の間に負の相関関係が確認された。
 
結論: この研究結果は、ライフスタイルの実践としての瞑想がテロメアの動態に多段階の有益な効果をもたらし、健康的な老化と関連する可能性があることを示唆している。
 
 

遺伝子のプロモーター部分のメチル化は遺伝子発現を抑制します。瞑想は、ヒト・テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子のプロモーター領域のメチル化を減らし、テロメラーゼの発現を亢進し、テロメア長を延ばすという結論です。

瞑想を長く実践している人は、体内の炎症マーカーや酸化ストレスが低下し、その結果、細胞の老化を抑制する効果があることが報告されています。炎症や酸化ストレスの低下は、テロメア短縮を抑制することになります。さらに、瞑想自体に、遺伝子発現レベルに作用して、テロメラーゼの発現と活性を高める作用があるようです。
 
以上から、運動や瞑想はテロメア短縮を抑制して、寿命を延ばす効果が期待できます。

瞑想の実践法に関しては、書籍やDVDやセミナーや教室などで学ぶことができます。


図:細胞核の染色体の末端にあるテロメア(①)は、加齢に伴って短縮する(②)。テロメア短縮は細胞を老化する(③)。運動(④)と瞑想(⑤)はテロメラーゼ活性を亢進し(⑥)、テロメア短縮を阻害する(⑦)。その結果、細胞老化を抑制する。

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