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138)未病を治す漢方医学

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術138

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【健康診断の落とし穴】

「人間ドックで異常が見つからなかったのに、数カ月も経たないうちに病気で倒れた」という話しをよく耳にします。それは、体の異常が目に見える段階にならないと病気を診断できない西洋医学の本質的な欠点が原因となっています。

近代西洋医学の診断技術の進歩には目を見張るものがあります。人を輪切りにして見せるCT撮影や、何十もの血液成分の量を自動測定できる検査機器などを見れば、それらを用いた健康診断に全幅の信頼を寄せてしまうのも無理からぬことです。
 
しかし、レントゲン検査などの画像診断は目で見える異常しか診断できないということと、血液検査に異常が現れたときには、病気はかなり進んでいる、ということを理解しておかなければなりません。

機械に例えると、「部品の破損を見つけてから機械の異常を知る」という考え方です。小さな破損の内に気付くことには十分な意義がありますが、しかし、全ての部品が破損なく揃っているから円滑に動くというものではありません。「歯車の噛み合わせ」や「潤滑油」といったものが正常で、機械全体が円滑に機能しているかどうかが故障の防止に重要なはずです。
 
健康診断の本来の役割も「体の不調を知って病気の発生を防ぐ」ことにあるのですが、原因志向型の西洋医学では、病理学的に病気が完成されていない段階では、診断することも治療する対処法もないのです。



【体の不調を感じても検査で異常が見つからないことは多い】

私達の五感は体調の好不調を感じ取ることができます。体の不調を感じる時は、体全体の機能が正常に働いていない事を知らせているのですが、今日まで開発された計測・診断装置の中には、まだ人間の五感に匹敵するような感度・能力を持っているものはありません。
 
不調を感じて診察を受けても、検査で異常がみつからなければ、「様子をみましょう」ということになります。これは「もっと悪くなってから来て下さい」といわれていることと同じことです。「不定愁訴」「機能的異常」「気のせい・歳のせい」などと説明されるかもしれませんが、「病気が完成する」のを待って診断・治療するのでは病気の発生を未然に防ぐことはできません。
 
血液検査の個々の数値が正常であっても健康状態が良いとはいえません。体のあちこちにがんが広がっているのに、血液検査の数値が全て正常の人もいるのです。普段から体の不調があっても、検査しても何も引っかからない人が多いのも事実です。
 
漢方医学には本格的な病気になる前に、前触れとなる体の異常や不調を見つけ、器質的病態に至る前の段階(未病という)で治してしまおうという考え方を重視しており、そのための手段(養生法・漢方・鍼灸など)を持っています。
 
漢方医学では二千年以上前から病気の予防を主体にした治療体系や養生法を発展させていました。病気の予防における漢方医学の考え方や手段を積極的に取り入れることは、健康を高める上で役に立ちます。



【未病は病気の予備軍】

二千年以上前に記された『黄帝内経』という中国医学の代表的古典の中に、「上等の医者は、既成の病気を治すということよりも、未病を治す」という記載があります。これは中国医学では二千年以上前に予防医学の重要性を認識し,「病気にならないようにする」ことを最高の医療としていたことを示しています。
 
ここに使われている『未病』とは、病気ではないが、健康とも言えないという体の状態です。例えば、疲れやすい、元気が出ない、手足の冷えがつらい、風邪をひきやすい、肩が凝るなどの症状を訴えて受診しても、血液検査やレントゲン検査などで異常が見つからなければ、病気では無いと判断されて治療の対象にはなりません。
 
しかし、このような半健康状態というのは、そのままにしておくと、体の治癒力や抵抗力を低下させ、本当の病気になってしまう危険性が高い状態であり、患者予備群と言えます。
 
西洋医学では「疾病でなければ健康、健康でなければ疾病」というように、健康と疾病の状態を二律背反ととらえる傾向にあります。「病気」そのものを治療の対象と考える西洋医学では病気と健康の間のどこかで線を引かないと治療を開始できないと考えるからです。

未病というのは病理学的にまだ完成されていない状態(機能的病態)であるため、解剖学や病理学を主体とした現代医学では評価が困難です。
 
ところが漢方医学では、病気と健康は連続していて、病気でなくてもその健康状態は様々であることに早くから気付いていました。健康の状態には高い状態から低い状態まであって、それが低下すると病気の状態に至るという連続的な見方をしています。 これは「病気」ではなく「病人」を診るという視点を重視するからです。
 
この未病の状態を改善するために、漢方医学では、薬草治療や、鍼や灸、薬膳、気功などの治療法や養生法を発展させてきたのです。


図:健康と病気の間に未病という半健康状態が存在する。西洋医学は病気を治療する方法はあるが、未病を治す治療法は漢方医学の方が得意である。



【体の歪みを修正して未病を治す】

東洋医学が健康と病気を連続的に考える理由の一つは、物事全てを相対的に認識する中国哲学の自然観と関係がありそうです。
 
例えば、この世に存在する全ての物質や自然現象を「陰」と「陽」に分ける考え方があります。太陽、男、昼、火、明、熱は「陽」に属し、その反対概念である月、女、夜、水、暗、寒は「陰」に属するといった具合です。性格の明るい人は陽に属し、陰気な人は陰となりますが、その評価は相対的なものであり、気持ちの明るい人でももっと陽気な人と比較した場合には、その人は陰に属してしまいます。


寒がりの人や暑がりな人、体の冷えや火照りのような症状や体質は「寒」と「熱」という概念で相対的に評価します。体の構成成分や体力は「虚」と「実」という相対的概念で評価します。
 
漢方医学の治療理念は、病的状態を生体全体の歪みとしてとらえ、これを全体的に補正することで成立しています。正常状態を歪みのない原点とすると、患者の病的状態を修正するのに、どちらの方向に向ければよいのかという判断が重要になってきます。陰陽・虚実・寒熱といった相対的指標によって、正常からの隔たりで体の異常の状態をより早い時期に見つけて、その異常を正常な方向に戻すような治療を行えば未病を治すことが可能になるのです。







【医食同源思想による病気の予防】

私たちが日常食べている食品には3つの機能があるといわれています。すなわち、(1)一次機能;栄養の供給源としての機能(栄養機能)、(2)二次機能;色、味、香など嗜好を楽しむものとしての機能(感覚機能)、(3)三次機能;免疫系や内分泌系など諸臓器の働きを調節する機能(生体調節機能)です。


図:食品の3つの働き(機能)

従来の栄養学においては、一次機能と二次機能が中心でしたが、近年、食品の三次機能の重要性が認識されるようになりました。最近の研究により、食品には、生体防御機構(免疫系)や生体調節(内分泌系)や精神作用に作用する成分が含まれていることが証明され、疾病の予防や治療の面からの食品の研究も盛んになっています。
 
一方、中国では古来より医食同源といって食べ物と薬に一線を画することなく、疾病を予防し健康増進の目的で食事と薬とを同列に扱う伝統があります。これは、毎日体に取り入れる食べ物こそ体を作り、体を治すということを長い歴史の中で体験しているからであり、現代医学が最近になってやっと気がついた食品の三次機能(生体調節機能)について二千年以上前から十分認識していたからに他なりません。
 
中国では少なくとも二千年以上前から、経験に基づいた独自の栄養学が伝えられ、食物や料理法に関する古典書物が多数残されてきました。これら中国伝統の栄養学は、食物が体内に入ったときにどのような作用をするのか、その効能・効果について記されているのが特徴です。例えば、ショウガは熱産生を高めて冷えを改善し、ネギには発汗・利尿作用があり、梨は咳止めの効果を有し、ホウレンソウは補血作用があるといったものです。
 
漢方薬で使用される生薬の薬効も、このような食材の効能の知識の延長上にあります。つまり日々の食事も漢方薬による治療も、医食同源の思想のもとに同じ考えかたで成り立っているのです。健康を保つためにはなにより食事が一番大切であり、病気を治すにも、薬より食事療法を優先すべきことを説いています。
 
中国の漢の時代(約2000年前)にまとめられた『黄帝内経』は、中国医学の概念の基本を作った書物です。これには「五穀、五畜、五果、五菜、これを用いて飢えを満たすときは食といい、それをもって病を治すときは薬という」と記述されています。

 昔の中国では、治療家を、食医、瘍医、疾医、獣医と区別した時代がありました。瘍医は外科的治療を、疾医は内科的治療を施し、食医は食物の誤りを是正して病気を治療する食養生を行なう者です。この医制の序列において第一に食医を置いているのは、古代から中国医学では、毎日摂取する食物のいかんによって病気になるということを非常に重要視していたことを示しています。
 
漢方医学の神髄は「未病を治す」ことであり、「病気にさせない」ことです。病気の早期発見と早期治療を目指してきた西洋医学的なパラダイム(考え方)では病気を減らすことはできないことが次第に認識されるようになりました。西洋医学も最近になってようやく予防医学の重要性に気付いてきましたが、漢方医学では二千年以上前から病気の予防を主体にした治療体系や養生法を発展させていました。病気の予防において、漢方医学の考え方や手段を積極的に取り入れることは有用です。

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