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銀座花伝MAGAZINE vol.22

#特別編  #能役者 坂口貴信  #能舞台名場面ギャラリー

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【はじめに】
第9回「坂口貴信之會」公演開催にあたり、昨年の「坂口貴信之會」以降に師が勤められた能舞台の中から、感動を呼んだ名場面と観賞解説を併せてお届け致します。現代の能楽界にあって、師の「技によって技にとらわれない」超絶表現、精霊のような優美な謡、時に表情豊かな気魄を生む仕舞の芸術性は驚きの進化を遂げています。この1年の足跡を、美しい装束とともにお楽しみ下さい。


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*本ギャラリーに掲載されている「坂口貴信能楽師」の全ての画像に著作権があります。無断転載・複製は固く禁じます。


□写真ギャラリー 名場面集


◆能    「砧」(きぬた)

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・「心」の動きが鮮烈な、名舞台 「砧」


2・3分の奇跡 「対座シーン」

——— この「砧」作品のもっとも能らしいところは、砧を打つ対座シーンのシテの「心の動き」をシテ柱まで移動して謡う場面である。
シテ柱の前でシテが謡い出すとき、舞台の空気密度が急に高くなるように感じる。まるでシテ柱には神霊が宿るかのようだ。観る者の頭上に降り注ぐ坂口師の澄んだ謡によって、シテの表情が生き生きと見所に広がり、その心情の繊細さが手に取るように感じられ、心を揺さぶる。 ———



音を感じる、「クライマックス」

———「詩情豊かな日本語によって醸し出される風情」に酔いしれながら、動かないと想像していたシテの動きは実は細かく繊細に動いている事を発見する。正確には動きはないが型が沢山盛り込まれている、ということだろうか。正面を向く、脇座(砧)をみる、ツメル、サシ、ヒラキ、などなどの所作を詞章の区切りに合わせて繰り出し、一秒たりとも所作の無い場面などない。だからこそ、目に見える部分にとらわれずに「音に耳を澄ませて感じてほしい」という坂口師の言葉が蘇る。—————


能の最大の魅力「砧之段」

——— 【舞っては駄目】これは「砧」の極意として、坂口貴信師が語った言葉である。体は動いていない、なのに型が多く存在している。「お客様からどう見えるか」の要素が「見える部分ではなく」「見えない意識、つまり心」で演じる秘技に挑戦している結果である。大上段に身体を使い演ずる能とは対局にある、「思索と祈りの能」の美しさを体感できる舞台なのである。




◆能    「一角仙人」(いっかくせんにん)

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・当代、若手実力者たち 活力のあるMUGEN∞能


MUGEN∞能

観世流シテ方能楽師 坂口貴信、観世流シテ方能楽師 林宗一郎、狂言方大蔵流能楽師 茂山一平、狂言方和泉流能楽師 野村太一郎による同人により、年2回、東京と京都で能舞台が開催される。2020年は、コロナ感染の状況を鑑みて京都での1回公演が行われた。

一角仙人  配役

シテ  一角仙人  林 宗一郎                      ツレ  旋陀(せんだ)夫人  坂口 貴信
子方   龍神  林 彩子  林 小梅



◆能    「融」(とおる)

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・光の花びら 秘技「十三段之舞」


詩情豊かな「汐汲み老人」

———— 前シテ・老人(坂口師)の表情が実に豊かで、遠くの山々を眺めながら、その名を和歌に織り交ぜて語る時、表情の変化が面の向きなど客席から見ることのできる角度に細かく的確に施される。和歌に込められた思いの深さと相俟って、手に取るように老人の切なさ、悲しさが伝わってくる。秋風だけが、昔を偲んで寂しい音を立てているという情景の中、老人がこの荒廃した屋敷に自分の老いを重ねる表情、昔を慕って泣き崩れるシーンは静かな場面ながら圧巻の趣がある。————


クライマックス「十三段之舞」


———— 後シテ(融)が夢の中に現れる 場面では、舞の途中で橋掛りに行き、囃子を聞き澄ますように佇む「クツロギ」演技が入る。その「クツロギ」を含めた五段を舞った後に急之舞を舞う構成。そして能面の「中将」は、憂いを帯びた品のある表情をますます際立たせる。
空間を大きく使い、緩急を細部の表現に取入れたこの「十三段之舞」は、見ている者全てを光源氏の世界に引き込んでしまう様な優麗さと迫力に満ちている。坂口師の舞台を撫でる様な足ハコビの美しさが融の格の高さを感じさせたのは勿論のこと、長丁場の舞表現にもかかわらず、息を切らさぬどころか益々高まって行く「気の集中」が、客席一同をして身を乗り出して舞台に集中させてしまうという、とんでもない力を会場全体に創り出した。—————



◆能    「海士」(あま)

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                                   「海士」©撮影 前島写真店


・選ばれし能楽師 「品格の舞」


能舞台から飛び出さんばかりの迫力


————「海士」の山場といえる、海人が龍宮から玉を奪い返す名場面。「玉之段」の名のつく謡いどころ、舞いどころとして知られているこの場面での坂口師の迫力ある表現に目が釘付けになる。一振りの剣を持って龍宮に飛び込む躍動感、龍王たちが守る珠塔から玉を奪い取り、乳房の下を掻き切って玉を押し込め帰還する命知らずの勇敢さ。特に目付柱の前、能舞台の先端を有効に使って、面の微妙な、しかしダイナミックな動きで表現する海人(房前の母)の気魄。
特別な型や謡が重なり、子を守る使命に燃え、命を投げ出す海人(房前の母)の燃える表情。一場面ながらこの一点の見どころの為に、今日の舞台はあると思わせる名場面である。



『菩薩の舞』  静かなる「早舞」の妙

————今回の能「海士」は、浮かばれずに現世を彷徨う母の亡霊〜供養による龍女への変身〜成仏を遂げて菩薩へと生まれ変わる、という母の変化のそれぞれの段階が強調されていた坂口師の表現。以前の舞台「融」の華麗な舞とは根本的に異なる静の早舞は、抑えた演技で静寂さえ感じられる見事なものであった。




◆三大能 「神・鬼・麗」     スペクタクル能  配信中

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・見たこともない、壮大な「能と自然」の融合が目の前に


人気演目「高砂」「紅葉狩」「胡蝶」のクライマックスを一気に鑑賞することを可能にした、希有の試みである。能の世界をダイジェストに体感してみたい方には願ってもない機会を提供する。3面スクリーンを設置した映像とのコラボレーションというメディアとの融合も見所の一つである。さらに今秋には VR での上映も予定されている本作品。伝統芸能と最先端技術の融合という誰も見たことのない新たな能舞台を体験できる。

https://spectacle-noh.com 動画↓

三大能「神・鬼・麗」 驚きのメイキング映像↓


三大能「神・鬼・麗」 東映スペクタクル能 製作陣

■監修/観世清和(二十六世観世宗家)                     ■総合演出・主演/坂口貴信(観世流シテ方能楽師)             ■総合監督/深作健太 ■出演/観世三郎太 他 観世流能楽師
■企画:観世文庫
■製作:東映 木下グループ ■映像制作:ツークン研究所 東映アニメーション ■特別協力:観世能楽堂 ■公式サイト:https://spectacle-noh.com
©2021 東映 木下グループ

【ミレールにて8月27日(金)より配信開始】

購入ページ↓

https://share.mirail.video/title/0720439)

🟢配信レンタル(7日間)価格:税込550円、 🟢配信購入(無期限視聴)価格:税込2,750円 ※iOSによるIAP(アプリ内)課金はレンタル税込610円、購入税込2,820円 ※その他配信事業者では、9月以降順次配信予定



◆VR能 「攻殻機動隊」

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・「能楽の未来」を体感できる


                攻殻機動隊と能を繫ぐVR、
    あの世とこの世、彼岸と此岸、虚と実を繋ぐ
    能楽の未来系である  
            ————————野村萬斎  

演出/奥秀太郎 
主演/坂口貴信、川口昇平、谷本健吾、観世三郎太(いずれも観世流シテ方能楽師)、大島輝久(喜多流能楽師)、亀井広忠(葛野流大鼓方能楽師)
と、現代の能楽界を牽引する若手能楽師たちが結集した舞台としても注目。


驚きのメガネ無しVR技術

————暗闇舞台には、天井天上からフィルムやミラースクリーン的なものが何枚かおろされていて、主人公・素子が移動したり、姿を消したり、複数人になったりしながら物語を紡ぐ。まさに仮想空間で能の仕舞を表現し乍ら「攻殻機動隊」の世界観を創って行く。一瞬も目が離せないその異空間に鳥肌が立つ。
この世界初のVR能の技術は、東京大学・先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏が手がけたものだ。もともと「攻殻機動隊」ファンだと言う氏によると、「ゴーストグラム」技術の仕掛けにより、そこにいた筈の能楽師が「光学迷彩」で消えたり、もしくは、エフェクト(映像や音声を加工して効果を出すこと)でぱっと現れたりすることを可能にしたという。


————不思議な体験をした。最初は目の前で起きていることに脳がついていけず、ひとたび瞬きをしたら、大切な瞬間を見逃しそうで目を閉じることができない。観客の皆さんも同様のようで、会場全体のぴーんと張りつめた空気感に改めて驚く。それにしても、謡は美しかった。
意匠を含めて世界観の隔絶した物語においても「能は能でありつづける」凄さを突きつけられた気がした。以前坂口貴信師がインタビューでお話し下さった「本物だから挑戦できるんです」の言葉を思い出した。


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□名場面レビュー記事 リンク集

公演の詳しい舞台レビューは、下記リンク先、銀座花伝MAGAZINE【能のこころ】コーナーでご覧頂けます。

【能公演】 観世能楽堂公演

能「砧」↓   研ぎ澄まされた悲哀感に感動! 第8回『坂口貴信之會』 


能「融」↓  光の花びら 坂口貴信の秘技  『三人の会』



能「海士」↓ 選ばれし品格の芸 坂口貴信  『観世会定期能』



【コラボ能公演】 VR能

新作 VR能「攻殻機動隊」 未来の能を体感できる↓


【講座レポート】 築地本願寺 銀座サロン


第1回 築地本願寺「能楽師直伝/能・狂言講座」2020.8.26
世阿弥「風姿花伝」朗読解説(実演) ↓



第2回 築地本願寺「能楽師直伝/能・狂言講座」2021.4.26
          能の役柄 謡い比べ(実演)↓


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◆ 第9回「坂口貴信之會」 プログラム  「山姥」


特集 世阿弥 「山姥」鑑賞のすすめ 事前レポート↓

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□観世流シテ方能楽師  坂口貴信 プロフィール


昭和51年、観世流シテ方の家の4代目として、福岡県福岡市に生まれる。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。
二十六世観世宗家・観世清和師の内弟子として入門。8年間の修行を経て、平成22年独立。重要無形文化財総合指定保持者。
舞台の傍ら東京藝術大学非常勤講師、国立劇場養成所講師として後進の育成にあたる。【MUGEN∞能】、【三人の会】同人。

他ジャンルとの競演により、能舞台以外でも能楽の普及を目指し、活躍の場を広げている。                           2018年、能楽師として初めて市川海老蔵『源氏物語』の歌舞伎座一ヶ月興行に参加した。また、3Dメガネで観賞する3D能や、ヴァーチャルリアリティの情報技術を駆使したVR能『攻殻機動隊』の監修及び出演。
東映株式会社の最新映像技術とコラボし、映画館を“能楽堂化”した舞台の総合演出並びに主演キャストとして携っている。
海外公演では、パリ  ベルサイユ宮殿、ニューヨーク  リンカーンセンター、同 カーネギーホールをはじめ多数の世界的ホールにて演能、好評を博した。


□「銀座花伝プロジェクト」及び「MAGAZINE」について

【活動】                                2017年観世能楽堂が銀座に150年ぶりに帰還したことをきっかけに始まった銀座での能の朝稽古、その仲間が中心になって、銀座の老舗店を訪ねて謡を一緒に楽しむ「銀座謡の花」を創るなど活動の枠をひろげ、銀座の店主や銀座で働く人々、銀座ファンなどに仲間が広がる中で、銀座から日本文化を発信する【銀座花伝】プロジェクトが発足しました。2019年5月には銀座老舗店主と能楽師で創る「銀座フォーラム」、8月には観世能楽堂舞台「WHAT‘s Noh」での謡発表、10月には観世流シテ方 能楽師坂口貴信師をお招きして銀座の老舗・銀座もとじ店主との「余白の美」をテーマにしたトーク・ショー、2020年1月には、歴史深い香道とのコラボ体験など、バリエーション豊かに学びの場を創り続けています。
【コンセプト】
能舞台が世阿弥の創り上げた「美の文化装置」だとすれば、銀座は老舗の店主たちが創り上げる「美の感性を磨く文化装置」と云えます。名品を熱く育て上げる人々がこの美しい街を創ってきました。華やかな銀座中央通りから、薄暗い路地に足を踏み入れると、表通り以上に美しく清潔な路地が街の中に潜んでいることに驚きます。「見えない所にこそ磨きをかける」銀座の美意識です。銀座の文化・経済は美しい能や世界に誇る盆栽美術、老舗の和菓子、子どもの本、着物や国産絵具の技芸などの存在とともに、美を追求する心がある限り、100年先までも生き残って行くと、確信します。その願いを込めて、「銀座花伝プロジェクト」は誕生しました。
【MAGAZINE】                                                                                                       銀座で新しく起きている「日本文化が持つ美意識」をお伝えするマガジン。今、「美意識」を企画や経営の判断基準にする時代の中で、銀座は江戸時代から400年培われ今も息づいている「美意識」の松明を掲げ、ますます「日本を明るく照らす光」でありたいと願い進化し続けています。最新の「銀座美意識ゲリラ」のwaveの様子をお伝えしていきます。


編集責任者:「銀座花伝」プロジェクト 
プロデューサー 岩田理栄子


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