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不倫判例百選65不貞の責任は社長にだけあるので会社にだけ請求します

0 はじめに

不倫判例百選では、会社が関与する法的責任について、不倫を根拠とした会社の処分の適法性についてご紹介したことがありました。

本件では、会社に対してだけ、責任追及をした事例をご紹介いたします。

被告(会社)の被用者B(会社の社長)とその部下である原告(男性社員)の妻C(Bの部下)は不貞関係にありました。

Bによる不貞行為は被告の事業の執行又はこれに準ずるものとして行われたもので、これにより第三者である原告に損害を与えたものであるとして、原告が、Bの使用者である被告に対し民法715条1項に基づく慰謝料の支払を求めた事案です。使用者責任は、会社の事業に関連して、不法行為がなされた場合には、それによって生じた損害を会社側も負担しなさいとする規定です。

1 事案の概要

(1) 原告とCは,平成26年4月15日に婚姻(以下「本件婚姻」という。)の届出をした夫婦である(甲5)。               (2) 被告は,電気通信機械器具等の製造等を目的とする株式会社である。
(3) Bは,被告の技術・知的財産統括本部長であり,かつ,被告の子会社である訴外株式会社aの代表者である。
(4) Cは,平成5年頃から被告の筑波研究所において事務員として勤務していたが,平成23年7月頃,被告の本社(田町)に転勤となり,同所でBの部下として勤務していた。

この事実関係を前提とすると、不貞の加害者は、会社の社長であることがわかります。

2 争点と当事者の主張

使用者責任を追及するには「会社の業務」と「関連」するものである必要があります。この業務関連性、は、裁判でも多くの事例で争点になります。

争点:Bが被告の事業の執行又はこれに準ずるものとしてCと不貞関係をもったか否か。

原告の主張
ア 原告は,平成18年2月頃,Cと交際を開始し,その後,平成23年4月頃から内縁関係に入り,平成26年4月15日に婚姻した。Bは,遅くとも平成24年2月頃から,Cに対し積極的に働きかけて自身と交際することを強要し同女と肉体関係をもち,原告とCが内縁関係,婚姻関係に入った後も不貞関係を継続した。
 イ すなわち,Bは,被告の本部長,子会社の代表取締役という肩書き・地位,権威等を利用し,CをしてBの依頼を拒みがたい状況にあったことに乗じて不貞関係を強要し,業務上の出張にCを同行したり,勤務時間内に色恋沙汰のきわどいメールを送り続けたり,Cを早退させてBのいるホテルに呼び出したりするなどして不貞関係を継続したものであり,Bによる不貞行為が被告の事業の執行又はこれに準ずるものとして行われたことは明らかである‥(以下略)‥

被告の主張
 原告の主張するBとCの不貞関係は,被告の事業及びBの被告における業務と何ら関係のないものであるから,これにつき被告が使用者責任を負う余地はない。
また,BがCに対し不貞関係を強要しこれが「セクハラ行為」にあたるかのような主張についても,それによる不法行為に基づく請求権は,Cに帰属するというべきであり,原告の主張は失当である。

被告は、なんら業務とは無関係に行われた不倫であることを主張しています。

原告は、代表取締役、社長である立場を利用して不倫を強要した、とする主張です。

被告は、強要されたなら原告ではなく被告がセクハラ被害に基づく慰謝料請求をすべきだ、と反論しています。

3 裁判所の判断

争点1(Bが被告の事業の執行又はこれに準ずるものとしてCと不貞関係をもったか否か。)について

  (1) 民法715条1項は,被用者が使用者の事業の執行につい第三者に加えた損害を賠償する責任を負う旨規定しているところ,事業の執行についてとは,損害発生の原因となる被用者の行為を外形から客観的に観察して,使用者の業務執行の一部あるいはその延長と認められるか,これらと密接な関係がある場合をいうものと解するのが相当である。
  (2) これを本件についてみると,証拠(甲1,2,3の1,5,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,CがBとの性的関係を伴う交際を認めていた旨の原告の陳述に沿うように,BとCの間で「愛している」などと記載した電子メールが頻回にやり取りされ,BがCに対し,本件婚姻前に「愛しているから今までのようにお付き合いしたい」,「僕の強い意思は抱きたいし,旅行したい」などの内容の電子メールを送信していることなどの事情が認められ,これらの事情からすると,BとCは,本件婚姻前から性的関係を伴う親密な交際をしていたと認めることができる。そして,両者の間で交わされた電子メールの内容に照らせば,BとCは,両者の自由な意思に基づき性的接触を伴う交際を開始しこれを継続したと考えるのが自然である。
 これに対し,原告は,Bが被告の本部長,子会社の代表取締役という肩書き・地位,権威等を利用し,CをしてBの依頼を拒みがたい状況にあったことに乗じて不貞関係を強要したと主張し,これを裏付けるものとしてC名義のB宛の電子メール(甲2)を提出するが,同メールの文面は原告が作成しBに送信したものであり,送信後,CがBに対し同メールが自己の意思に基づかずに送信されたものである旨弁解していること(乙1)に照らすとその信用性は低いというべきであり,原告の主張を採用することはできない。
  (3) 次に,原告は,BとCの前記性的関係を伴う交際は,原告とCが内縁関係に入った後又は本件婚姻後にも継続して行われ,その態様もBがCを業務上の出張に同行したり,勤務時間内に色恋沙汰の電子メールを送信したりするなどして不貞関係を継続したと主張するが,具体的に不貞行為の内容を特定して主張していない上にこれを裏付ける的確な証拠はないし,仮に,原告主張のような事情があったとしても,BとCは,前記のとおり両者の自由な意思に基づき交際を継続していたに過ぎないことに鑑みれば,外形から客観的に観察して,被告の事業の内容である電気通信機械器具等の製造等や,Bの被告の技術・知的財産統括本部長等としての職務執行の一部あるいはその延長として前記交際がされたと評価することはできないし,これらと密接に関係があるものとして前記交際がされたということもできない。
 よって,原告の前記主張は採用することはできない。
  (4) なお,原告は,BがCに対し前記のとおり不貞関係を強要したことは,配偶者である原告に対する不法行為を構成するなどと主張するが,前記認定説示したとおり,BとCの交際は両者の自由な意思に基づくものと認めるのが自然であり,原告の主張とは前提を異にするというべきであり採用することはできない。

4 若干の検討

裁判所は、不貞行為の存在を認めるとともに、メールの文面から、不貞当事者間の自由な意思に基づく、と原告の主張を退けています。

これはある意味、不貞行為の存在を認めた判例ではあるものの、原告の真の心の声?すなわち、社長にうちの妻は強要されたはずだ‥という主張に拘泥しすぎてしまったのではないかと考えざるを得ない。

信じたくないのはわかるが、原告側が、不貞相手個人に対して請求をすれば請求は認容されたであろうが、会社に対する使用者責任としたのは(おそらく)意味があるはず。それは、被告会社でこのような不貞があったことを知らしめたい、ですとか、会社の代表取締役をおろしてやる、などの目的であることが多いのです。

このように考えると、若干ながら、これは濫用的な目的とも判断されかねない。裁判所も名言こそしないものの、業務に関連するものではなく自由恋愛なのだと、ことごとく認めています。

ただ、主にBからCへのメールが判決文では多く認定されているようです。これは、メールの記載内容によっては、業務の延長と考えられる可能性があることを示唆しているとも見えます。



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