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不倫判例百選57 悪質な交際?

0 はじめに

悪質な交際、とはどのような交際をいうのか。どのような交際は真摯なものではないのか?婚姻している配偶者が、自分以外の者と真摯な交際をしていれば悪質な交際‥なのでしょうか。配偶者にとっては、真摯な交際であればあるほど、悪質な交際なのか。。

裁判所に、悪質な交際であると判断された事例をご紹介します。

1 当事者の主張

原告(不倫された女性)の主張 
(1)原告は,昭和50年○月○日生まれの会社員(不倫された女性)であり,平成14年7月7日,A(以下「A」という。不倫した既婚男性)と婚姻した。
(2)被告(不倫した女性)は昭和50年生まれの会社員であるが,Aが原告の妻であることを知りながら,Aを頻繁に誘って密会を繰り返し,肉体関係を結んで,原告とAとの婚姻関係を破壊した。これにより,原告は,精神的にも肉体的にも疲れ果て,平成18年2月17日,Aと離婚した。
(3)原告は,被告によりAとの婚姻関係を破壊され,幸せな結婚生活から不幸のどん底に突き落とされ,毎日地獄のような苦しみを味っている。この原告の受けた損害は500万円を下ることはない。
被告(不倫した女性)の主張 
(1)被告は,平成16年12月,Aと飲み会で知り合い,その後,会社の帰り道に日本橋付近で三,四十分程度,会うことはあったが,一度も同宿したことはなく,肉体関係もない。また,被告がAに原告との離婚を迫ったこともなく,自分の気持ちを伝えただけである。
 原告とAの婚姻関係が壊れたのは,被告の存在だけではなく,日々の暮らしの中での原告への不満や,原告の両親との金銭問題等が一向に解決されなかったことなどにも原因がある。
(2)原告は,Aから離婚に伴う慰謝料として70万円の支払を受けている。

原告被告双方が、不貞行為の存在に対して、真っ向から対立しています。

2 裁判所の判断

(1) 原告とAは,平成12年秋ころに知り合い,平成14年7月7日に婚姻した。婚姻後,原告とAは,台東区〈以下省略〉に新居を構え,順調な夫婦生活を送っており,互いの両親や兄弟とも親しく交際していた。
 原告もAも会社員であり,原告の勤務時間は午前10時から午後7時まで,Aの勤務時間は午前8時半から午後5時半ころまでであった。
  (2) 被告とAは,平成16年12月,飲み会で知り合った。当時,被告も他の女性と婚姻をしており,Aが原告と婚姻していたことを知っていながら,Aを頻繁に誘い,原告の知らないところで,度々会うなどしていた。
  (3) 原告は,平成17年6月,Aの帰りが遅く,携帯電話に連絡をしても通じなかったため,自宅ベランダに出て帰りを待っていたところ,午前0時半ころ,Aが被告に送られて帰宅したことに気付いた。不審に思った原告は,Aの留守中,Aの手帳を確認したところ,平成16年12月以降の欄に,不振な行動をうかがわせる記載があったことから,その内容についてAを問い質したところ,Aは,被告と昨年末に飲み会で知り合ったこと,被告も既婚者であり,被告はAが既婚者であることを知りながら好きだと言っていること,被告とは平成17年1月から誘われて度々会っていたことなどを聞かされた。そのため,原告は,Aに対し,今後被告と会わないように言い,Aも別れる旨答えた。
 しかし,被告は,その後も,Aに対し,頻繁に電話やメール等を送って誘い,Aも,原告の知らないところで交際を続けた。
  (4) Aは,平成17年9月3日の昼ころ,友人の結婚式の二次会の幹事としての打ち合わせをするということで外出し,その日の夕方,原告に対し,四谷にある友人の家に行く旨連絡した。そして,原告が同日午後11時ころ,Aに電話をしたところ,Aは,友人の家に泊まると述べたが,実際には,被告と赤坂で同宿し,肉体関係を持った
 (この点に関し,被告は,平成17年9月3日から同月4日早朝までの出来事について,同月3日午後9時ころから11時くらいまで神田で友人と会った後,Aと合流し,同月4日の午前0時ころから午前4時ころまで,赤坂で3人で飲食をしていたとして上記関係を否定するが,甲6の記載に照らし,採用することができない。)
  (5) 原告は,同年9月28日,Aの帰宅が遅く,携帯電話に連絡をしてもつながらず,自宅のベランダに出て帰りを待っていたところ,Aは被告にタクシーで送られて帰宅した。そこで,原告は,Aの携帯電話から被告に電話をかけ,被告に対し,どういうつもりか問い尋ねたところ,被告は,好きになってしまったのでしょうがない,自分が一方的に好きで付きまとっているなどと述べたため,原告は,Aに二度と付きまとわないように伝えた。
 しかし,その後も,被告は,頻繁にAを誘い,Aもそれを受けて密会を続けたため,原告とAとの夫婦関係は,次第に悪化することとなった。
 なお,被告は,平成17年10月,妻と離婚した。
  (6) 原告は,同年12月9日,飲み会があると言っていたAの帰りが遅く,電話も通じなかったため,上野駅まで出向いたところ,被告とAが手を繋いで歩いている現場を発見し,3人で話をすることとなった。原告は,被告に対し,被告の非常識な行動をとがめ,今後はAと会うのをやめるよう強く申入れをしたが,被告は,自分の行動が法律上許されないことは認識しているが好きになってしまったので仕方がないとか,Aに嫌われたら身を引くが自分からは引けないとか,金は払うし法的に処理してもらってもかまわないなどと述べ,原告の話を聞こうとはしなかった。

被告による発言『被告は,好きになってしまったのでしょうがない,自分が一方的に好きで付きまとっている』は、被告がAに対して真摯な交際をしていたことを意味するでしょう。

これは、悪質な交際なのか。

‥(中略)‥その後も,被告とAは,交際を止めず,原告は被告とAを別れさせようと努力したが,Aは,二人とも愛しているとか,迷っているなどと述べる状態であった。
 原告は,被告とAとの交際を知った後,食欲不振,睡眠不足等に陥り,精神的にも肉体的にも疲れ果てた結果,平成18年1月中旬ころ,Aとの離婚を決意するに至った。
 また,原告は,被告に対し,同月30日,Aと離婚することになったので慰謝料200万円を支払うよう求める内容証明郵便を送付したが,被告は,現在の生活状況では支払えない旨の手紙を送付し,具体的な支払に関する回答はしなかった。そのため,原告が被告に連絡をしたところ,被告は,お金がないから払えないなどと答えた。

愛はお金を超えるのか。この後、裁判所は純愛をとるのか。

被告の不法行為及び慰謝料額について
‥(前略)‥被告は,Aに原告という夫がいることを知りながら,Aを繰り返し誘って頻繁に密会するなどの交際を続け,肉体関係を持つに至ったのであり,その間,それに気付いた原告から何度も,Aと別れるよう申入れがあったにもかかわらず,被告は,自分からは別れる気がないことを告げ,Aに対して自己を選ぶよう積極的に求め続けたものであって,これにより,原告とAとの夫婦関係は悪化し,原告は食欲不振,睡眠不足等に陥り,精神的,肉体的に疲労した結果,離婚を決意するに至ったものである。
そして,被告がAと交際を始めるまで,原告とAとの夫婦関係は円満であり,その時点では何ら離婚に至る要因はなく,その後,Aとの離婚に至る経緯において原告には何ら落ち度はみられないところである。これに対し,被告は,自らの行為が許されないことを十分に理解しており,原告からも繰り返しAとの交際を止めるよう注意をされていながら,それを全く意に介することなく,なおもAを誘惑して交際を続け,自己を選択するよう求めていたものであって,その行為態様は悪質といわざるを得ない(被告は,Aに離婚を迫ったことはないなどと主張するが,前記認定のような被告の態度からして離婚を求めていることは明白である。)。以上の事情を考慮すれば,原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,200万円を認めるのが相当である。

3 若干の検討

原告からも繰り返しAとの交際を止めるよう注意をされていながら,それを全く意に介することなく,なおもAを誘惑して交際を続け,自己を選択するよう求めていたものであって,その行為態様は悪質と判断されている判文は、原告の請求に対する判断です。

原告にとって悪質である、という意味であって、被告とAとの真摯な交際を否定するものではないし、被告とAとの不貞行為を牽制する意図を有しているものでもないでしょう。

ただ、単に悪質である、と判断してしまうと、独り歩きしてしまう気もします。「原告にとって」「どう」悪質なのかが踏み込まれると、もう少し、真摯な交際と不貞行為の悪質性の関係について、誤解がなくなるかもしれません。

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