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離婚裁判百選⑦悪意の遺棄の歴史?

悪意の遺棄、とは、民法770条に定められています。ある指摘では、古典的な離婚原因であると指摘されていますが、日本の民法が制定された段階で明確に定められていたものではないようです。

島津一郎ほか編「新版注釈民法(22)親族(2) 離婚 -- 763条~771条」366頁以下(2008,有斐閣,岩志和一郎執筆)によると,民法770条の原型は,明治民法の改正を諮問された大正期の臨時法制審議会によってまとめられた「親族法改正要綱」に遡る。明治民法は,その813条に,10個の離婚原因を列挙していた。列挙された離婚原因は,配偶者の3年以上の生死不分明と,婿養子及び家女と婚姻した養子の離縁の2つを除き,配偶者の重婚,妻の姦通,夫の姦淫罪による処刑など,夫婦の一方の有責行為であった。またすべてが具体的な原因事由であり,列挙された以外の事由を原因としては裁判離婚を認めない,いわゆる制限(限定)列挙方式が採られていたが,他方で,離婚原因に該当する行為があっても,それに他方配偶者の同意や宥恕がある場合など,一定の場合には,離婚の訴えを提起することができないとする規定も置かれていた(旧814以下)。このような明治民法の有責主義的制限列挙方式に対しては,すでに法典調査会の段階において,起草委員の中から,「婚姻ノ根本タル愛情及ビ共同生活ヲ無視スルモノ」とか,「徳義上已ニ夫婦ニ非ル二人ヲシテ強テ其関係ヲ維持セシムルガ如キ法律ハ是レ全ク道義ニ反セル」などといった理由付けをもって批判が寄せられ,「共同生活ニ堪ヘサル不和」あるいは「同居ニ堪ヘサル夫婦間ノ不和」という包括的,破綻主義的離婚原因を離婚原因に加えるべきであるとの修正案が提出されていた(穂積陳重委員の修正案・近代立法資料VI382,

『悪意の遺棄』という文言を容れるべきとか,そういう議論ではなくて,法律ですべての離婚を認める原因を定めることができるのか?という点にフォーカスされていることがわかります。引用を続けます。

この間の経緯の詳細については,浦本寛雄・破綻主義離婚法の研究―日本離婚法思想の展開〔平5〕349以下参照)。この修正案は結局採用されなかったが,その系譜は大正期の臨時法制審議会に引き継がれた。臨時法制審議会は,大正14(1925)年,その審議を踏まえて「民法親族編改正ノ要綱」を決議した。同要綱では,離婚原因として,妻の不貞,夫の著しい不行跡,配偶者の3年以上の生死不明など5つの具体的な原因事由に加えて,「其他婚姻関係ヲ継続シ難キ重大ナル事情存スルトキ」という相対的離婚原因を置くこと(第16,1),さらに5つの具体的原因事由があった場合でも「総テノ関係ヲ総合シテ婚姻関係ノ継続ヲ相当ト認ムルトキハ,離婚ヲ為サシメザルコトヲ得ルモノトスルコト」という離婚請求棄却事由の規定を置くこと(第16,2)が提案された。

 やはり、法律に書いていない理由においても離婚を認める場合があるのではないか?について議論をしていることが理解できます。

‥(中略)‥臨時法制審議会の親族法改正要綱ならびに人事法案に示された規定のあり方は,第二次大戦後の民法改正において,立法として実現する。当初の改正案は,配偶者の不貞行為,配偶者またはその直系尊属による不当な待遇,自己の直系尊属に対する配偶者の不当な待遇,配偶者の3年以上の生死不明,という4つの具体的原因事由と,「其の他婚姻を継続し難き重大な事由」という相対的原因事由とを列挙していたが,最終案直前になって具体的原因事由のうち尊属に関する2つの事由が落とされ,それに代わって,悪意の遺棄と,強度で回復の見込みのない精神病が加えられた(この間の事情については,我妻栄・戦後における民法改正の経過〔昭31〕145以下及び302)。また,人事法案でははずされていた離婚請求棄却事由の規定が復活し,4つの具体的離婚原因事由がある場合でも,「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる」とされた。

なんと、あろうことか、最終案直前になって具体的原因事由のうち尊属に関する2つの事由が落とされ,それに代わって,悪意の遺棄と,強度で回復の見込みのない精神病が加えられた(この間の事情については,我妻栄・戦後における民法改正の経過〔昭31〕145以下及び302)。

最終案直前になって、尊属すなわち自分の親や配偶者の親への冷遇の規定を落とし、『悪意の遺棄』というものをある意味で、「急に入れた」ような経緯があるみたいなのです。続く。

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