見出し画像

離婚裁判百選④悪意の遺棄は不法行為か?

0  はじめに

『悪意の遺棄』を掘り下げています。

悪意の遺棄、なんて言葉の響きだけをとれば、それは不法行為、すなわち人の権利、生きる権利を侵害することには論を待たない気もします。しかし、本当に悪意の遺棄、なんてことは現代にあるのか?悪意の遺棄は単なる離婚原因の一つにすぎないのではなくて、損害賠償義務を負担するものか?

1 裁判例の検討

東京地方裁判所において平成24年 3月29日に出された裁判例は、悪意の遺棄を認め、500万円の支払いを認容しています。

原告の主張
‥(前略)‥不法行為2(悪意の遺棄)
 被告Y1は,被告Y2(被告Y2)から唆されて,平成8年頃から現在まで,原告に対して生活費を給付しない。これにより原告が受けた精神的損害は,1000万円を下らない。

被告は,悪意の遺棄に関しては,不知,すなわち覚えがありませんと指摘していました。

裁判所の判断 3 請求原因(2)イ(悪意の遺棄)について
 (1) 証拠(甲15,16,26,証人C,原告本人)によれば,被告Y1は,平成6年頃から自由が丘の自宅にほとんど帰っていないこと,平成8年2月頃,原告を有限会社aの取締役から解任し,給料を月額30万円から15万円に引き下げたこと,原告は,平成15年頃には同社を解雇され,給料が全く支払われなくなったこと,原告は,被告Y1から生活費の支給を一切受けていないこと,以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば,被告Y1は,遅くとも平成15年頃以降,原告に対する同居・協力・扶助義務を全く果たしていないものと評せざるを得ず,これは悪意の遺棄に当たるものということができる。しかしながら,被告Y2が被告Y1にそのことを唆した事実を認めるに足りる証拠はない。
  (2) 上記の被告Y1による悪意の遺棄は,原告に対する不法行為に当たるところ,これにより,原告が被った精神的損害は,500万円を下らないものと認められる。

2 若干の検討

 悪意の遺棄を認める論拠として,同居・協力・扶助義務を全く果たしていないと評価できることを指摘しています。主だったところとしては,生活費を全く支払っていないこと,を論拠としています。生活費すなわち婚姻費用を全く支払わない行為は,不法行為となることを明言しており,そうすると,婚姻費用のみならず慰謝料の支払い義務を負う可能性があることを裁判例は示唆しています。やはり悪意の遺棄,と認められると,それは不法行為が成立する。不法行為が成立すると,慰謝料支払い義務を負う,その金額としては高額になるリスクがあると指摘できる裁判例なのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?