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不倫裁判百選100番外編古くて新しい?

  君が行き 日長くなりぬ 山尋ね 迎えに行かむ 待ちにか待たむ(八五 磐姫皇后)
  かくばかり 恋ひつつあらば 高山の 岩根しまきて 死なましものを(八六 磐姫皇后)
  ありつつも 君をば待たむ うち靡く 我が黒髪に 霜の置くまでに(八七 磐姫皇后)
  秋の田の 穂の上に霧らふ 朝霞 いつへの方に 我が恋やまむ(八八チ 磐姫皇后)

万葉集 磐姫伝説ー君が行き長くなりぬより抜粋

不倫慰謝料請求が、その請求を否定する見解が有力化していることはたびたび取り上げてきました。しかし、私は、これを否定することは問題があると考えているとも主張してきました。万葉集を読んでいたら、まさに理不尽な紛争を過熱化させないためにも慰謝料請求は認めるべきだとの見解に帰着しました。要は、現代においては、悔しい気持ちと、過度な責任追及とを防止する観点からは、慰謝料、金銭評価をして紛争解決することがやはり適切ではないかと考えているのです。

 あなたが行かれてから何日もたってしまった。山の中を訪ねてお迎えにいこうかしら、それともじっと待っていようかしら。
 こんなふうに恋続けていないでいっそ、高い山の岩を枕に死んでしまいたいのに。
 このままいつまでもあなたをお待ちしよう、長くなびく私の黒髪が白くなるまで。
 秋の田の、頭を垂れた稲穂の上に重くわだかまっている朝霧…私の恋心はいったいどこへ消えていくのだろう。消えていきそうにない。

 坂口由美子「ビギナーズ・クラッシクス 日本の古典 万葉集」54頁

 この詩を詠んだ磐姫皇后は、過度な嫉妬をする女性として『古事記』『日本書紀』にも登場する人物です。仁徳天皇が侍女や妃を宮殿に入れることを絶対に許すことはなく、普段とは違う気配を感じるだけで地団駄を踏んで嫉妬したようですが、天皇が美しいと評判の黒日売を宮中に召し上げた際、当の黒日売は皇后の嫉妬から逃れるために船で故郷に逃げたそうです。
 天皇がこの詩を詠んだところ、皇后はさらに怒り、黒日売を船から追い出してしまい、陸地を徒歩で歩かせたそうです。

 醜い紛争に手を貸すことは不適切である、と不貞慰謝料請求を否定した学者がいましたが、では、適切にこの気持ちを晴らすための法的手続は何が適切なのか、こう解決しなさい、という手段は示していません。

私は、万葉集から語られるようなこの、古典的、いや、古くて新しいこの問題は、ある種、金銭で調整するのは過度な責任追及を回避するには適切ではないかと思っている。


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