見出し画像

不倫裁判百選96 不倫と準消費貸借契約?

0 はじめに

 世に生起される紛争を大別すると、たいていは人間関係に関する事項、もしくは金銭に関する事項、あるいはその両方ではないでしょうか。これはある意味持論です。

この命題が正しいとき、不倫は絶対にトラブルになる。それは、人間関係とお金双方が問題になるからであると持論を述べてみます。

今回はお金のトラブルが不倫でこじれた例を検討してみます。

1 事案の概要と当事者の主張

 東京地方裁判所において平成30年11月9日に出された裁判例は、元奥さんのお母さんが原告となり、元旦那に対して、離婚の合意をしたことが自分の貸金返還請求権に対する準消費貸借契約が成立することを主張しています。

準消費貸借契約とは、複数ある貸金契約を1本にまとめることを言います。

原告は、被告の元奥さんのお母さんです。被告は著名人で、大学でも教えていた方のようですが、生徒と不倫をしていたようです。これがあだとなり、被告と原告の娘は離婚をし、慰謝料3000万円と財産分与400万円を一括で払う合意をしました。

 本件での争点は、その前に親御さんである原告との関係で貸金があったかどうかも争われていますが、離婚をするのに際して合意したものが準消費貸借契約に該当するかどうかです。

二回目の離婚の際の契約は、もともと成立していた消費貸借契約に対してそれを一本化するなどしたとみとめてもらえるのか、それとも別個のものとして扱われるかです。

争点(本件離婚給付契約書の作成により原告・被告間で準消費貸借契約が成立したか。)

原告の主張 被告は,本件離婚給付等契約書の作成により,原告に対し,前記(1)の原告に対する170万円の一部である100万円の支払義務及び(2)の300万円の支払義務を前提に各債務を新たに消費貸借の目的とする旨の意思表示をした。この合意により,被告は,原告に対し,400万円をAとの離婚成立後速やかに支払うべきこととなるが,被告とAは,平成29年11月9日に調停離婚している。原告は,被告に対し,同日以降支払の催告をしている。したがって,被告は,原告に対し,同日から相当期間である1週間が経過した後の同月16日には,履行期が到来し,翌日17日には被告の債務は遅滞に陥っているというべきである‥(中略)‥
被告の主張 本件離婚給付等契約書は,原告及びAの被告に対する強迫により作成されたものであり,被告はすでにこれを取り消す旨原告に通知している。よって,被告主張の準消費貸借契約は存在しないこととなる。

被告側は、離婚の合意自体を強迫に基づく意思表示をしたので取り消すことができる(すでに取り消しているのだ)と主張しています。

不倫をして、離婚をすることになるとお金の問題は常に付きまとうように思われますが、もともとあったお金の貸し借りが離婚時にまで尾を引いているのだともみることができます。

2 裁判所の判断

 離婚協議書は準消費貸借契約たりうるのか?という疑問に対して、裁判所は以下のように述べています。

2 離婚協議確認書について
 前記第2,1(6)のとおり,平成29年2月2日付けで作成された本件離婚給付等契約書には,別紙の離婚協議確認書が添付されている。証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,同確認書には,養育費,財産分与,慰謝料等の記載に加えて,「借金」という欄が設けられ,そこには,「クラウンの車両売却立替金の残債」という記載に続いて「100万円」という金額が,「マンションの購入時の頭金」という記載に続いて「300万円」という金額がそれぞれ記載され,末尾の「捺印」欄には,それぞれ被告の実印による押印がされていると認めることができる。このように,この離婚協議確認書には,被告が,原告から合計400万円の金銭の借入をしている事実の承認が明示されている。

 被告は,前記第2,2(2)(被告の主張)のとおり,この離婚協議確認書を含め本件離婚給付等契約書は,原告及びAの脅迫によって被告が署名・押印させられたもので,真実を反映しておらず,証拠としての価値はない旨主張する。

 しかし,被告は,この書面の作成のために,事前に原告から連絡を受けて(甲9),原告の依頼に応じて実印を持参しており(甲8,原告本人),離婚にあたっての経済的条件の取り決めのために書面の作成がされることを予め了知していたはずである。また,この書面の作成の際,被告は,被告の両親を伴っており(原告本人,被告本人),被告の父であるDも連帯保証人として,署名押印しているところ(甲8),被告は,少なくとも父と協議,相談しながら,この書面作成について判断する機会が与えられていたといえる。
さらに,証拠(甲8,証人A,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告及び被告の父は,離婚協議確認書の慰謝料の支払方法について,予め原告が記載していた毎月25万円という分割金の金額を当時の被告の収入額からすると支払困難であると申し入れ,20万円に減額修正することを原告に了解させていると認めることができ,被告が原告及びAの意向を一方的に受け入れさせられたという事情も認められない

 証拠(甲9,甲17)によれば,被告は,この書面が作成された後,その日のうちに,原告に対して,LINEのメールにより,「お母さん。正直・・・。僕の中には絶望しかありませんでした。ただ生きていけばいいだけだと捉えていたのが今日お母さんと話す前の僕の感情でした。やっぱりお母さんと話せて良かったです。そして生かされました。今日!お母さんと約束したことは守ります。そして達成します。本当にそんな環境を与えてくれてありがとうございました。次は褒めてもらう為に会いに行きます。本当にありがとうございました。」とのメッセージを,Aに対してもメールにより「A。全て俺がダメだった。Aを苦しめてた。ほんとにごめんなさい。会って話す事だけど今はメールで受け取ってください。帰ったら2人に会って頭を下げさせてね。あと,こんな状況なのに俺の事考えてくれてありがとう。」とのメッセージを送信していることが認められ,これは,被告が主張するような脅迫を受けているような人物が発するメールであるとは読み取れない。‥(中略)‥あるいは,原告及びAに対し,不貞の事実を公にしてほしくないとか,被告の郷里の人たちに伝えてほしくないと依頼する趣旨のやりとりがされたことを示すものはない。

 被告は,原告ないしAが,強迫したとおり,被告とCの不貞の事実を週刊誌等に漏洩したため,前記第2,1(3)のとおり,当該事実が報道されるに至ったと主張するが,Aには被告との間の子があり,被告の社会的評価が低下することについて種々の不利益を受けることになるのであるから,原告ないしAが,少なくとも積極的にそのような行為をしたと認めることは困難といえる‥(以下略)‥

3 若干の検討

「本件離婚給付等契約書」には、以下の事項が定められていたようです。

ア 被告とAは,長男Bの親権者をAと定め,Aにおいて監護養育することに合意した。
イ 被告は,Aに対し,長男Bの養育費として,離婚成立の日の属する月から,長男Bが満22歳に達する日の属する月(長男Bが大学,専門学校に進学している場合は,その卒業する日の属する月)まで25万円ずつ毎月末日限り支払う。
ウ 被告は,Aに対し,本件離婚による慰謝料として,金3000万円を払うことを約し,離婚成立の日が属する月より毎月25万円ずつ分割して支払うものとする。
エ 被告は,Aに対し,財産分与として金400万円を支払う義務があることを認め,離婚成立後,一括して支払う。

この400万円の実質的な意味をめぐって(もちろんほかにも争点は強迫で離婚条件を組んだなどはあるにせよ)争ってきたものと言えます。
裁判所は、以下のようにも述べています。

前記第2,1(6)のとおり,平成29年2月2日付けで作成された本件離婚給付等契約書には,別紙の離婚協議確認書が添付されている。
証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,同確認書には,養育費,財産分与,慰謝料等の記載に加えて,「借金」という欄が設けられ,そこには,「クラウンの車両売却立替金の残債」という記載に続いて「100万円」という金額が,「マンションの購入時の頭金」という記載に続いて「300万円」という金額がそれぞれ記載され,末尾の「捺印」欄には,それぞれ被告の実印による押印がされていると認めることができる。
このように,この離婚協議確認書には,被告が,原告から合計400万円の金銭の借入をしている事実の承認が明示されている。

 当事者を異にしていても、新たな合意をしているものに旧債務に関する合意事項が含まれているならば、準消費貸借としてみることができると判断しています。

仮に被告が、離婚に伴う財産分与なのだから関係ないのだ、と主張したとしても、実質的にみて、同じ事項を確認しているのであれば準消費貸借契約が成立すると判断しているということになります。

準消費貸借の成否はきわめて実質的な判断のもとで行われている事実を指摘できそうです。

結局、要はお金なのかもしれない。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?