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離婚裁判百選⑫不倫をすると婚姻費用は制限されるのか?

答えはNOです。不倫をしても婚姻費用分担請求ができる余地は十分あります。そもそも婚姻費用は、夫婦間における生活費の負担をどう分配するのか、の問題でした。

1 不貞行為と婚姻費用?

 不貞行為に及んでしまった他方配偶者からの婚姻費用分担請求は、制限されるのか。実は、専ら又は主として権利者のみに存する場合には、権利者からの婚姻費用分担請求は信義則に反しあるいは権利濫用として許されず、権利者が現に監護している未成熟子の養育費相当分に限って請求できると解するのが実務の大勢であると指摘されています(東京高決昭和 58 年 12 月 16 日判タ 523 号 215 頁、福岡高宮崎支決平成 17 年3月15日家月58巻3号98頁、東京家審平成20年7月31日家月61巻2号257 頁等)道垣内弘人 編 松原 正明 編『家事法の理論・実務・判例4』(勁草書房、2020年)169頁。

 しかし、神戸家審平成 27 年 11 月 27 日判時 2321 号 39 頁は、別居中の妻から夫に対する婚姻費用分担請求の事案において、別居中に妻に不貞があったとしても、その期間中、妻は鬱病と診断されるなど精神的に不安定な状況にあり、その後夫と同居したことなどの状況に照らし、妻からの婚姻費用分担金の請求が権利濫用に当たるとまでは評価できないとした例があります。東京家立川支審平成 30 年 10月 11 日判タ 1471 号 35 頁は、長男に対する妻の行為が別居の直接の端緒であるとしても、家庭不和に陥った原因は妻が専ら又は主として有責であるとまでいうことはできず、妻が夫に対して婚姻費用分担を求めるのが信義則違反であるとか権利濫用であるとまで断ずるのは相当でないとして、婚姻費用分担の請求を認めたものもあります(ただし本事件は、東京高決平成 31年1月31日判タ1471 号 33 頁において、別居と婚姻関係の深刻な悪化については、妻の責任によるところが極めて大きいとした上で、夫は妻が居住している住宅ローンを支払っていること、夫は別居後、賃貸住宅を賃借して長男を養育し、その学費等を支払っていることなどを考慮して、妻が夫に対し、その生活水準を夫と同程度に保持することを求めて婚姻費用の分担を請求することは、信義に反し、又は権利の濫用として許されないと指摘し、取り消しされてしまっています。

2 実務の大勢はただしいのか?

私は、別居の直接的な原因が不貞行為だから婚姻費用は一律制限されるべき、との主張には反対の立場です。先にご紹介をした神戸家審平成 27 年 11 月 27 日判時 2321 号 39 頁や東京家立川支審平成 30 年 10月 11 日判タ 1471 号 35 頁のように、不貞行為を絶対的な濫用の論拠として用いるのではなく、家庭不和に陥った原因を分析し、専ら又は主として有責であるとの判断に至らない限り、生活費の請求は許されるべきではないかと考えています。

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