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日本にも、生活そのものの中から、「言葉の魔術」をふりきって、「詩のポーズ」をけとばして、うたわれて来る詩のできたことは、何とうれしいでしょう。
 わたしは詩というものが書けないけれども、詩をこのみます。散文では、何かの間にはさまって数行しか書けない人生の感覚を、詩は純粋にそのものとして一つの奥ゆきある現実としてうち出します。これらの詩によってあらわされている人生の感じかたは、わたしが成功しまた成功しない小説の底を貫いて響かせようと欲しているその感じかたです 
宮本百合子「鉛筆の詩人へ」1949年
吉塚勤治「鉛筆詩抄」に寄せて

 
〈靴底の鋲が 殺風景な道を何も言わず歩く〉
 
表装師の山崎さんが「何かを書きたい」と言う
横浜マイスターに選ばれた山崎さん
お客さんに語ることではなく
自分自身に語りかけるつもりで
言葉を書きたいんです
「日常の在り方はいつも同じなのですが 
 こんな殺風景な景色でも
 残しておく価値はあるものでしょうか」

 
(一本の鉛筆で書くこと 表装で壁に向き合うこと)
 
障子を張り替える 襖を張る 掛け軸や屏風 
紙と木でできた調度品を治すのが表装の仕事だ
装飾と補強 知識なしには立ち向かえない
色彩感覚も問われる仕事だ
下絵はうっすらと 鉛筆で書く
そのまえに 頭の中 心で書く
経年劣化したどの部分を活かし
どの部分を蘇らせるか
素の木からなにが生まれるか 
どの癖を取り込みどの表情を生かすか


毎日のことをそのまま書き言葉にし
書き残したい 
自分はなにをし そのなにかのために
どういう考えを持ち 
その考えをどうやって具体化したか
木との対話 
譲れるところと譲れないところ
逡巡と迷い 

それをそのまま書いてみようかな


表装として初めて「横浜マイスター」に選ばれた
山崎隆さん
(株)サンユウ事務所代表

2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します