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詩)ドラム缶〜僕だけの分度器

草っぱらのドラム缶は
ちょっと塩っぱい 
あのなにか。

元はブルーの缶だったのだろうドラム缶
今はさびたドラム缶 くたびれている
ドラムの中には
薄っすらと油が浮いた水が溜まり
誰も知らない僕のワンダーランド
自分独りで草っぱらへ来ては
魔法のランプみたいにアラジンみたいな魔神でも出てこないか
自分の身長よりちょっと低いドラム缶の淀んだ水を
いつもしげしげと眺めた

ドラム缶の中の水は赤茶に濁っていて
石を落とすとボワボワと濁った水が湧き上がった
もっとなにかないか 見えないか 何か 何か居ないか
半身を乗り出して
覗きこもうとしたその瞬間
ズリッ
錆びたドラム缶のヘリが剥がれ
手がすべり
頭から中にドボンと、落ちそうになる瞬間に
足をバタバタさせギリギリ ドラム缶の外に這い出た
恐怖の瞬間
しばらく足がガクガクと震えた
それからドラム缶に行けなくなった。


あのドラム缶
なぜあんなところに
在ったんだろう。

ある日 急に
思った。

翌日、草っぱらにいってみると
草は綺麗に刈られ
ドラム缶は跡かたもなく
わずかに土色の丸い輪が枯れた草の上にあった

僕だけのワンダーランドは誰にも知られず存在さえも気づかれず
消えてしまった。

大人になってから
あの時ドラム缶に落ちていたら僕の人生はどう変わっただろうと
考えたりした

あの頃は毎日が
分度器 だったのだ


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