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詩)その公園のベンチでは幸せな時間だけが過ぎていた

その公園のベンチはみんなが座る。
にぎやかな子どもの声がする
職場から抜けてきたお嬢さんがカフェオレを飲む
ぼくも小さなおにぎりを二つ広げ
ちょっと不安定なディパックを台にして食べる
鳩が何気に寄ってくる
脚元で落ち葉がコロコロまわる
路上生活の人も のんびりバナナを食べている
日差しが今日は暖かい

その公園のベンチは誰のものでもない
ベンチの周りでは お昼どきになると
ひとりで またはふたりで
静かに佇む
本を読む
ときどき落ち葉が舞う

僕は変なことを考える
あと20年後 ボクはもう死んでいて冷たくなっている ボクは柩の中で手を組んでいる
いままさにボクの葬式が行われていて 死んでるボクは何故か声だけ聴こえる
娘が わがままな父でしたが いろいろありがとうございましたと話している
女房が笑いながら 自分の好きなことやってきた人だから満足でしょうと言っている
誰かが ここまで異常な世界になっちまって 逝っちゃったアンタはしあわせだよと言っている
そうだよなあ これからはもう公園で美味しいコーヒーのんびり飲んだりとか もう夢物語だよなあと誰かが話している
ボクは死んでるので 考えられない
それでは最期です。と言う声が聞こえてガチャンと扉が閉じられバーナーの炎がボンと勢いよくボクを燃やす。

その公園でボクは座っていた
日当たりがよく 誰でも座るベンチで 
かつて子どもたちの幸せそうなはしゃぐ声が聞こえて
みんな静かに しあわせな時間を楽しんでいた
砂嵐がさっきより強くなった 
誰もいない公園の錆びついたベンチ
さあ 今日は帰ろう

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