嫌い、嫌い、大好き
世の中には見るのも聞くのもそれについて話すことさえ嫌なものがある。
できるだけ自分からは近づかないようにしたいものだが、不意に目に入ったりすると思った以上のダメージを喰らうので注意して生きてきた。
例を挙げると
とろろ 食感が気持ち悪いのととろろという妖怪みたいな名前が嫌。
着ぐるみ クマでもネズミでも本来ではありえない大きさなのが嫌。
虫 蛇腹の形状と数えられない脚の数を考えただけで嫌。
蝶 蛾 butterfly (バターを盗む飛ぶもの)の名前の由来からしても図々しいし、とにかく鱗粉が嫌。
などなど。
これら嫌いなものに気を配って生活していても、苦手なものがてんこ盛りでやってくる季節があった。それは中学、高校の新学期に配られる
理科の生物の本、だった。
一年が始まる期に私は毎年必ず、ある儀式を行っていた。生物の教科書手にするや否や、見たくないページをあらかじめホチキスで留めること。
まともに視界に入ると怖いので、必ず薄目。コツは本よりやや上空に視点を置いて、白目部分で検閲。
蛾 鳥に食べられないようにって、羽の下の方にフクロウに擬態するための大きな目に似せた模様、オエっ。
プラナリア 濡れた石の下にいて、体を半分に切っても再生してくる脅威の復元率、オエッ。
カメレオン 目の周りがフジツボみたい オエッ。
前胸線のところを紐で縛られたカイコ 下半身が成長しない、オエッ。
もう見たくないものだらけで、私の生物の本は相当にページ数が減っていて、友人には貸し出しが出来なかったし、テストの前の勉強は授業中、先生からのレクチャーのみ。とにかく見たくなかった筆頭が、カラーページにあった世界で一番大きな花として紹介されていたラフレシア。なんでわざわざカラーなんだよっ!
蕾が出来ても開くまで一ヶ月以上かかり、その香りは汲み取り便所を越えると言われ、葉も茎も根もない花、ラフレシア、ああ気持ち悪い。うっかり見つけたら、死んでしまう〜とまで嫌っていた。当然真っ先にホチキス検閲、ページの上下二箇所留の厳重封鎖。
ところが人間って不思議よね〜。あんまり嫌い、嫌いって思ってると嫌いの針が振り切れて、一周回って好きになることがある。
嫌い嫌いも好きのうち。というより、嫌いすぎて、好き嫌いの指針が360度越えて振り切れちゃう感じなんだけど。
子供の頃のおやつ、家に帰って用意されていたものが、ギンビスのアスパラガスだった時のガッカリ感。あのバターやクリームが一切感じられない素朴な味。油分に魅力を感じる中学生には、なんの魅力もなかった。本当に嫌いでアスパラガスビスケットの袋の色がおやつ箱から覗く色、燕脂色まで嫌いになっていた。
が、成人した頃、友人宅でアスパラガスビスケットを食べる機会があった。思い切って口にすると、嫌いと思っていたアスパラガスクッキーの美味しさに驚愕。薄甘さにいい加減の塩味。友人が呆れる速さで食べ続け、帰りに近所のスーパーで箱買いするぐらい夢中になった。嫌い嫌い思ってた年月分取り戻す勢いで、3年ほど食べ続けた←ばか。
他にも
仕事でカメレオンを撮影する羽目になり、嫌々初めて触ったら、怖かったフジツボの目からのオドオドする視線が頼り無げで可愛く、最後は肩に乗せるまでに執着した。飼いたいなとまで思った。
デビュー時の小さくて紫色のプリンス(シンガー)が気持ち悪くて仕方なかったのに、数年後には際どいポスターを壁に貼るまでファンになった、見たら死ぬと思ってたラフレシアは今ではアイスボックスクッキーを焼くほど愛着ができた(↓参照画像;多分クッキーのモチーフにした人はいないだろう)
あまりに嫌いすぎて、うっかりラフレシアを見かけたくないあまり、色々調べたことが機転となったと思われる。ラフレシアは日本の自然界には存在しないし、2年に一回しか咲かないし、咲いたら3日で枯れてしまう。それを知ったら、なんだか、ちょっと可哀想、なんてね。
結論 嫌い嫌いが振り切れると大好きになるものがある。
暗転
この結論に至ってから、私には違う注意事項が増えた。最近の具体例では、
Yahooニュースでよく見かける有名人でとても嫌いな人がいる。女性で巨乳でちょっと鷲鼻の人。記事を見かけるたびにああ、嫌だ!と思うけどあんまり嫌いすぎると 好きになっちゃう恐れがあるから、嫌い、嫌いと思わないで
そっとパソコンを閉じることにしている。
気をつけて!嫌いすぎると好きになっちゃうよ。
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