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-口承文芸-神話の類似性『クムリポ』と『古事記』

世界には様々な口承文芸が存在しているが、日本最古の文芸作品である『日本書紀』や『古事記』も、成立起源としては、日本各地で伝承されてきた説話や伝承により成り立つ「帝紀」や「旧辞」を基としている。この中でも神話については、遠く離れた場所にあり全く違った文化を持つ国に、よく似た筋立ての物語があることについては驚きを隠せない。人類学者の後藤明によると『古事記』と環太平洋神話の関わりが指摘されている。その中でも『古事記』とハワイの創世神話を伝える『クムリポ』との関係性は面白い。  

 『クムリポ』は2102行からなる詩で、ハワイの王族の名前を記憶するため代々口頭で伝承されてきた。成立起源は口承であったが、ハワイ文化の復興を志す第7代カラーカウア王がはじめてハワイ語訳を出版、第8代リリウオカラカニ女王が英訳を出版し、世界に知られることになった。クムリポは大きく分けて二つの部に分かれている。前半の第一部が「夜(ポー)の時代」である。男性原理「根源の闇」と女性原理「夜の暗黒」の交わり、海の生物の誕生、魚の誕生などを経て、昼の始まり、祖先の男女が生まれ人間が登場する。そして後半の第二部が「昼(アオ)の時代」で、闇から光へ、最初の女神ライライの登場、神々の愛欲と嫉妬などを経て、マウイの子孫、ピイラニ家の王子への奉納で締めくくる。  

 この壮大な創世神話『クムリポ』と『古事記』との関連性だが、国生み神話や魚釣り神話、太陽を呼ぶ、芸能と生殖器の神、死体化成型神話、穢れからの誕生などがあげられる。これらの類似性の理由について後藤明は、ひとつ目には人間は違った環境であっても似たような思考を持つこと。もう一つは人類の移動や文化の伝播などを指摘している。あくまでこれは私自身の憶測になるが、オーストロネシア語族の大移動は中国南部から台湾を経由してポリネシアやハワイに行ったことになるが、古事記の書かれた700年あたりに台湾の方ではなく、日本の方にも大陸が続いていたとすれば、同じ語族が日本にも到着したことになるから、神話の起源としては同じ語族だったりするのではないだろうか。

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