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続・下町音楽夜話 0278「頭から離れない曲」

突然ある曲を意識し始めると、もうその曲に頭の中を支配されてしまい、他の曲が入ってこなくなるようなことがある。しばらくなかったのだが、立て続けに2曲、どうしても頭から離れない曲があって困っている。もうすぐブルースのイベントなので集中したいのだがなかなかそうさせてくれない。もともとのブルース好きではないので、イベントで語るにはそれなりに事前の準備をしないといけないが、まったくもってやっかいな状態になっているのだ。

一つはバディ・ホリーの「イット・ダズント・マター・エニーモア」、もう一つはサンダークラップ・ニューマンの「サムシング・イン・ジ・エア」という曲で、懐かしのポップ・ミュージックである。どちらもリアルタイムではない古い曲であり、さほど馴染みのないものである。こういった曲にたどり着くには当然キッカケがあるわけで、「イット・ダズント・マター・エニーモア」はダニー・ガットンのカヴァー、「サムシング・イン・ジ・エア」はトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのカヴァーが原因である。

自分はカヴァー曲でいいものを知ると、どうしても元ネタが聴きたくなる性質で、今はGoogleやYouTubeで検索すると、大抵は即座にヒットするので有り難い世の中である。気に入ればアナログ・レコードを買ったり、それが無理でもベスト盤CDを買ってみたりする。同じ作者の曲には大抵似た傾向のものがあり、もっと好きになる曲を見つけることもある。こういうことをしているからどんどんレコードが増えてしまうのだろうが、別にいいではないか。それが今の仕事にも役立っているのだから。

どちらの曲も、何年も前から知っているもので、最近どうのということはない。カフェでランチタイムに流しているHDDプレイヤーのおまかせプレイリストがひっかけてきて流れ、気になったりはしていたが、だからと言ってすぐに動いたりはしない。耳にしたその日は鼻歌で歌っていたりもするが、翌日、翌々日あたりにどうしても耳について離れないということを意識し始め、調べたりするのだ。大抵は背景もある程度知っているので、わざわざ調べるということはもうほとんどない。あっても年に数回だ。それがここにきて2週連続きてしまったのである。

ダニー・ガットンは1994年に自殺してしまったカントリー・ロック系のテレキャスター使いだ。ジャズやブルースも器用にこなすが、かなりの速弾きでミュージシャンとしてのレス・ポールを敬愛していたようだ。アメリカの片田舎に暮らす車と音楽が好きな陽気なオッサンといった風情で、とても自殺するような人間には見えないので、訃報に接したときは心底驚いた。以前下町音楽夜話第101曲でも触れているが、評価など気にせず、好きなことをやればいいのにと他人が思うほどお気楽ではなかったのだろうか。

「クルージン・デューセズ」というアルバム・ジャケットでは、デューセンバーグの前にテレキャスターを手に格好つけて立っている姿が見られるが、無理していたのだろうか。ここに収録されている楽曲はいずれも素晴らしい出来だ。「世界で最も偉大な無名ギタリスト」が残してくれた音源は全て貴重な音楽遺産である。悲劇のヒーロー、バディ・ホリーの名曲も、元歌がかすむほど素晴らしいカヴァーがここには収められている。ダニー・ガットンの「イット・ダズント・マター・エニーモア」、オススメである。

トム・ペティの「サムシング・イン・ジ・エア」は1994年の中ヒット・シングルで、スタジオ・アルバム等には収録されておらず、グレイテスト・ヒッツからのカットという扱いである。これはあまりにもトム・ペティっぽい曲で、彼のオリジナルだろうと信じ込んでいた。最近になってお客様との会話でサンダークラップ・ニューマンを知り、この曲のオリジナルだと知るに至った。しかもバックアップしていたのがザ・フーのピート・タウンゼントと知り、納得もした。この御仁、ザ・フーではやんちゃオジサンのキャラクターで売っているが、ソロや他人への提供曲では、妙にポップでかわいらしい曲を作る。ただしこの曲の作者はスピーディ・キーンである。この人物はザ・フーに「アルメニアの空」という楽曲を提供している。

ちなみに、サンダークラップ・ニューマンはピート・タウンゼントとキット・ランバートが、スピーディ・キーンとともに、後にポール・マッカートニーのウィングスにも加入する当時15歳だったジミー・マカロックを紹介するために作ったショウケースのようなバンドだったのである。さすがに目の付け所が違うというか、蛇の道は蛇というか、やるべきことをやっているではないか。

「イット・ダズント・マター・エニーモア」と「サムシング・イン・ジ・エア」の2曲、ブルースのイベントが終了するまでちょいとお預けにしたいところだが、一向に頭から消えてくれない。ブルース色の薄いザ・フーに全く用がないイベントを企てた仕返しをされているような気分だ。


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