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続・下町音楽夜話 0303「エンドレスな趣味」

自宅のレコード・ラックを眺めていて、ある程度のレベルに達したと思われる我がコレクションの「個性」というものがあるか考えてしまった。レコードのコレクションなどというものは、人それぞれで好きなものを集めればいいわけで、理想的なものがあるわけではない。ビートルズのコレクターは限られた音源でありながらもレア盤を探し続けるし、ブルース好きやジャズ好きは名盤が揃っている上で、好きなアーティストを掘り下げてなどということに向かうのだろうか。以前、ローリング・ストーンズの「スティッキー・フィンガーズ」の各国盤を集めている方のことに触れたが、同じ中身の音源でありながら、ジャケットのちょっとした違いに拘るという、おおよそ自分の感覚からは遠い、正直なところ理解に苦しむタイプのコレクターさんもいらっしゃるようだ。

何度も書いていることだが、自分の場合は何か一つを突き詰めるのではなく、浅く広くという性格であるということと、一枚でも多く聴きたいという思いからオーディオや音質には拘らないようにして50年間もの長きにわたり音楽と接してきたのである。オリジナル盤には拘らず、安く入手できるのであれば再発盤でオーケーというこだわりの無さは、コレクターにあるまじき感覚だろう。最近でこそMobile Fidelityの高音質盤を買ったりもするが、これとて本当に好きな数タイトルのはなしである。キャロル・キングの「つづれおり Tapestry」はそれこそ何枚も持っているが、最低限押さえておきたいものという程度に考えている。

近年アメリカの南部寄り、ミシシッピーやテキサスあたりの音源やニュー・オリンズ・サウンドに関して聴く機会が増えているが、以前「アメリカは後回し」という時期もあった。とりあえず好きな英国ロックの主だったアーティストの盤を優先的に集めて行ったので、相対的に英国の方が充実している。それでもカンタベリー系ロックはあまり好まないので、ほとんどない。キャメルやブルフォードをカンタベリーに括るとすれば、その辺はしっかり揃っていたりはするが、それ以外はほとんど無い。ソフト・マシーンもゴングもあまり好きではないのである。

その一方で、もう少し敷居の低い有名どころとしてのブリティッシュ・ロック、例えばビートルズやローリング・ストーンズ、ザ・フー、ディープ・パープル、フェイセズ~ロッド・スチュワートあたりや5大プログレ・バンド等は一応全部あるし、3大ギタリストと言われたジェフ・ベック、ジミー・ペイジのレッド・ツェッペリン、エリック・クラプトン関連はやはり完結している。これは客演した盤も含め、データベースを作って潰していったので、「普通以上には揃っている」と言われている。ただし、普通に考えても、この辺のオリジナル盤が揃ってなくてロック好きとは言えまい。いわゆる基本部分だろう。

加えて、自分のレコード・ラックの最も面白い部分かと思っているものがある。もう少しポップな辺りの英国ロック、例えばフリー~バッド・カンパニー、トラフィック、プロコル・ハルム、ムーディ・ブルース、ウィッシュボーン・アッシュ、ユーライア・ヒープ、アージェント、ジェスロ・タルなどといった辺りは、メンバーのソロも含め、Wikipediaのディスコグラフィに出てくるような盤はほぼ完結しているのである。この辺は少々の音楽好きでも驚かれるレベルのようだ。

最近はコロナ禍で安定して開催することが難しくなったトークイベントだが、この辺のアルバムは普段店には置いていないので、イベントで使うときだけ持ち込んでいる。ジャケット・トークのときは200枚ほど持ち込んだので大変だったが、普段はなかなか揃って目にすることがないものでもあり、喜んでいただけたようだった。実はBGM的に流しても意外なほど邪魔にならないし、聴き飽きないので本来なら店で聴きたいものでもある。しかし、2010年以降のアナログ再興後、この辺の盤は最も入手困難という気もしており、危なくて店には置けない。ビートルズやローリング・ストーンズ、イーグルスなどという有名どころは中古盤の玉数も豊富なのだろう。特別な思いもないが、もう少しマイナーなバンドになると、もう途端に玉数が減ってしまう。とんとお目にかかることはないと考えて間違いない。

おかしなもので、これがバジャーだの、ファミリーだの、プリティ・シングスだの、ディテクティヴだの、パブロフズ・ドッグだのといった、「どういう人が聴くんだろう?」と思うようなバンドのものは、案外いつ行ってもあったりするのだ。ずっと売れていないだけかも知れないが、それにしても、いつでも買えるような気がしてしまう。またデヴィッド・ボウイやキンクスのような、リアルタイムより後々再評価された連中の盤は、それこそ異様な高値だったりするので、簡単には買えないがあるにはある。

ところで、ヒプノシス関連でしか名前を聞かないダリル・ウェイズ・ウルフとか、エドガー・ブロウトン・バンドとか、エインズレー・ダンバー・リタリエイションとか、ハーレクインとか…、やたらと深い英国ロックの森の住人たちは、今はどうしているのだろう。アナログ再興の恩恵など受けているわけもあるまいが、極東の島国で自分たちのレコードを長年探している人間がいるとは夢にも思うまい。アナログ盤趣味には、こういったジャケットを集める楽しみもあるので、自分の場合もエンドレスなのである。


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