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続・下町音楽夜話 0274「情報共有」

自分のトークイベントを「大学の講義みたい」とおっしゃる方がよくいらっしゃる。毎度サポートをしてくれているスタッフからも言われるので、確かにそういう側面はあるのだろう。しかし、本当にあのイベントのような講義があるなら、自分なら喜んで受講しただろう。自分が学生の頃は、そんなに面白い講義なんてなかった。自分の経験で印象に残っているのは、心理学の講義がやたらと面白かったことだ。ただし、この先生の講義は非常に聞き取りにくく、眠くなるので、他の学生には人気がなく、いつも4~5人が教室の前の方に集まってやっている特殊なものだった。自分は元々心理学が好きで、テキストを事前に読破し、さらにオススメの本を読みながら受講していたほどなので、レア・ケースである。法学部のくせに法律の勉強はさほど面白くなかった。

実際にトークイベントの準備にはそれなりの時間を費やしているし、資料も作り込む。とりわけ年代ごとのヒット曲を紹介する内容のときは、ビルボードの年間Hot100やオリコンの年間Top50などの資料に加え、ヒット商品や流行語、ベストセラー本の資料も配る。さらに年表も用意する。年表は若干サブカル寄りのネタを集めるが、インフラ整備に関するネタも重視する。放送局の開局や高速道路の開通などだ。これは戦後の復興の度合いを感じられるようにするためである。つまり曲と時代感覚をマッチングさせ、曲同士のセンス・オブ・コンテンポラリーとでもいうべき感覚を表出させるためである。

また年表では、若者のライフスタイルに影響を与えた商業施設(例えばパルコなど)のオープンや、人気テレビ番組の開始・終了なども重視する。当時の流行を知ることで、時代を読み解き、社会事象を同期していくことは非常に面白い。学校で習う日本史や世界史の年表に出てくる政治史ばかりではつまらない。歴史の先生もサブカルネタをまじえて説明するなど少し工夫すれば、学生も楽しく学べるはずなんだけどな。それ以前に1970年代80年代の近現代史は受験のスケジュールとの絡みもあって、そもそもやってない場合が多いのではなかろうか。…面白いのに。

とにかく自分がティーンエイジャーだった1970年代は、いろいろな意味で時代感覚を反映したサブカルネタが多い。国内では70年安保からの連合赤軍関連のニュース映像はいまさら観たいものではないが、フォークブームを語る上では知っておいた方が知識に深みが増す。アメリカでは70年代前半はヴェトナム戦争抜きでは語れない。ウォーターゲート事件も大きいが、オイルショックやいろいろな事象が生活に与えた影響を日本に暮らしていても感じられたことは忘れてはいけない。

75年4月のサイゴン陥落(つまりアメリカは負けたのだ)に加え、アメリカ建国200年祭がサブカル全般に与えた影響は大きく、70年代後半のカリフォルニア幻想とホテル・カリフォルニアを語る上で必須のはずだが、実はあまり触れられない。薄っぺらな記事がいかに多いことか。だからと言って自分が何かをしなければということではないが、せめてわざわざイベントに参加していただける皆さんとは情報共有をしておきたいと思うのである。年ごとのイベントは月2回のペースで水曜夜に開催していたが、残念ながらコロナの自粛で中断したままになっている。平日の客入りを見るに、とてもイベントが開催できる状況ではないと思われる。

一方で土曜夜に月一回開催している各回にテーマを設定するイベントは早々に再開した。こちらはご要望の声が多いからだが、6月の「ルーツ・ロックの現在」は4人しかいらっしゃらなかった。めげずに7月は「TOTO関連何でも」というテーマで開催する。こちらは告知から5日で満席とあいなった。ここにきて感染者数が増加している現状、どうしたものかと思い悩むが、一応万全の対策を打って開催するつもりだ。そもそも以前の半分程度での満席である。過密ではなかろう。8月のイベントはブルース聴きまくりである。こちらも楽しみだ。

土曜夜のイベントに関しては、最近はサボりがちで申し訳ないと思っている。資料作成に身が入らないのだ。もう少し時間とカネがあれば、もっときちんとしたかたちで資料を残すことができるかも知れないが、現状ではこれが限界だ。選曲にも一定の時間が割かれることはご理解いただけるだろう。この部分を疎かにするとイベントの存在意義を根底から覆すことになってしまう。大学の講義みたいと言われようが、やはり軸足は音楽イベントに置いているので当然のことだ。多くの参加者の皆さんはアルコールを摂取しながらなので、そもそも文字が読みたい状況ではなかろうということもあり、「資料はお持ち帰りいただいて後程参考にしてみてね」というスタンスに移ってきたのである。そういう意味でも、今後はプレイリストをもう少し作り込んでお配りするかとも考えている。

ただ次回の「TOTO関連何でも」は参加者の皆さんが持ち寄ってというものなので、プレイリストも作り込めない。言い訳だらけになってしまうが、知的なイベントに集まってくる人たちを納得させるには、こういった文章も書いて情報共有しておかないと、当日が面倒なことになるのである。あしからず。

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