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続・下町音楽夜話 0286「トヨタ・日産を買わない理由」

先日のラジオ番組を受けて、まもなくクルマ関連音源のイベントが開催される。これの準備のためにいろいろな情報に当たっていたが、とにかく海外での自動車メーカーのCMが秀逸で、映画情報やカージャケ音源のミュージック・クリップ収集などの他の作業が完全にストップしてしまった。以前から面白いなあとは思っていたが、実際に集めてみるとメーカーの個性や流された国のお国柄も反映しているのか、恐ろしく多様なものが見られた。ダッジのように、日本市場ではシェアを持っていないメーカーのCMも容易に観られるYouTubeが本当に有り難い。とにかく日本では考えられないような多彩さだ。

当のダッジなどは、いまだにパワーを売りにしているようで、日本ではとうの昔に捨て去られたタイプのCMを展開していたりもする。またいずれもオーバーでは済まされない過剰な表現でこれでもかと訴求してくるあたりは、「日本では受けないな」と思われるものが多い。海外ものの場合、当然ながら言葉で説明されても面白いとは感じないのでビジュアル・インパクト重視だ。アメリカのCMはやはり移民国家ということもあるのか、言葉で伝えようとはしないので、ボーっと観ているだけで面白い。一方でアジアのものなど、大家族前提なのか、ファミリー向けで訴えてくるので情報量が多すぎて鬱陶しいこと極まりない。

また他社を引き合いに出して、ウチの方が優れているというCMは、何となく品がなく感じてしまうのは、自分が日本人だからなのだろうか?意外なほどあるので驚いてしまう。それでも、アルファロメオのデザイン性やBMWのスポーツネスなど他の4社を褒めておいて、アウディならすべてを一台でというキーホルダーしか出てこないCMは微笑ましい。我がプジョー208に関しては、チキチキマシン猛レースの実写版CMが最高に面白い。登場人物がよく似ている上に行動パターンをよく捉えている。終わり方も最高だ。一方で206のCMは、インド人をバカにしているようでヒヤヒヤしてしまう。これはまずい。

面白いと感じたのは、ホンダのような日本車メーカーも郷に入れば郷に従えということか、随分意外なCMを観ることができる。しっかりストーリーがあり、感性に訴えるCMは全く日本車っぽくなくてよい。日本のCMはスペックやデザイン、インテリアの上質さなど、具体的な品質で訴えかけているものばかりのように思うが、これは日本人が求める情報がその点に凝縮されているので仕方がないとも言える。やはりお国柄と言うほかないだろう。今後も日本車が売れ続けるためには、クオリティだけではなく、こういった感性に訴えかける部分、所有欲を満たす部分も必要に思う。ついでに、ユーモアも不足しているぞ。

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1991年の秋にカナダのヴァンクーヴァー郊外に派遣研修という名目で滞在したことがある。前職が役人なので、当然ながら派遣先は市役所である。それなりに車が好きな自分は、いろいろなクルマに乗れることを内心楽しみにしていたのだが、市の公用車がトヨタ・コルサだったのである。正直ガッカリした。しかもいずれも15万km越え、23万km超という強者もいた。あの研修のせいで、少し腰を悪くしたように思う。

サスがへたっているコルサは、当然ながら褒められた乗り心地ではない。カーラジオは意外に元気な音を聴かせていたが、流れているのは交通情報と時々古臭いカントリー・ミュージックというものだった。ガース・ブルックスが大ヒットしている時期で、みんな合わせて歌うのでびっくりした。そして、みんなコルサに満足していた。「とにかく壊れない」と驚きを含めた感想を、いやというほど聞かされた。日本人に対する礼儀とでも思っていたようだ。当時自分が旧型ミニに乗っているということを知ると、ほぼ確実に「フーリッシュ」「インクレディブル」という言葉とともに変態扱いされることになった。

派遣研修は日替わりで担当がついてくれ、各人が担当している仕事の説明を聞くだけだった。ご自慢の施設などを見せてくれることが多く、結果としてやたらとクルマで走り回っていた。時々公用車を使わず、自分のクルマで案内してくれる担当者もいたので救われた気もしたが、例外もあった。

研修終了間際、どうにも忘れられない日がある。その日はどういうわけか苦手意識を最初から持ってしまった白人女性の課長さんが、自分が手掛けた高齢者施設を2カ所案内してくれることになっていた。そして彼女曰く、特別に自慢の新車に乗ってきたということだった。そのクルマとは黄色い日産フェアレディZだったのである。「おえっ」と思ったのも束の間、狭い車内には彼女の強すぎる香水でむせ返るような状態、頻繁に車載電話が鳴り、そのたびに方向転換、喧嘩しているかのような早口の英語、そしてZオーナーにありがちな急加速急減速の繰り返し。移動中、ほとんど会話をしなくて済んだのは不幸中の幸いだったかもしれないが、たった一日で日産車が嫌いになった。当然ながら、トヨタ・コルサというクルマがいまだに大嫌いだ。自分はいまだにトヨタ車と日産車を買ったことがない。


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