続・下町音楽夜話 0320「おしゃべりなオジサン」
昨夜は中央エフエム社長小松氏の相方としてパーソナリティを仰せつかっている、深夜の生放送「東京音楽放送局」の日だった。本番は日付が変わったところからスタートするので今日の話なのだが、この月一回の放送もついに11回目となった。意外なほどこの一年が短いと感じていることも驚きだったが、思い起こせばやはりいろいろあった一年だ。コロナの緊急事態宣言を受けて6週間も完全に休業したわけだが、その間の時間を無駄にしたくないと、BASEで通販を始め、noteで文章を書き始め、ZOOMでミーティングをする態勢に切り替わった。このラジオのお話しもnote経由なので、侮れない効果をもたらしてくれたことになる。実に有り難いことでもある。
毎度のお題に沿って推しの曲をリストアップする作業は当然ながら楽しい。ザクッと選曲しているとは言うが、実のところ脳みそをフル稼働させ、店と自宅に分散しているレコードを一通りチェックしたりもする。その結果として出来上がるセットリストはオーソドックスな場合が多く、我ながら呆れるが、やはり定番のヒット曲などというものは時代が変わっても聴きたくなるし、聴かせたくなる。面白いものだ。
昨夜は「酒ソング」の特集だったが、悩みに悩んだ上で、ローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」などというベタな曲までかけてしまった。これとて、ホンキ・トンクという酒場の解釈が英米でも随分違うことなどいろいろ調べた上で、やはりしゃべりのネタにもなると判断しての当選なのだ。なかなかリスナーの方にはそこまで理解されないだろうが、準備段階ではそれなりに葛藤もあるのである。
アメリカの地方都市のホンキー・トンク・スタイルの飲み屋が野球場ほどの大きさが一般的などと言われても、訪れたことがなければ理解不能だ。ロデオ・マシンもあれば、金網に囲まれたステージで生演奏もやっているというものを想像すれば、大きそうだと理解もできる。ただ、日本にはないものだけに、「アーバン・カウボーイ」などの映画のシーンで疑似体験するしかない。しかし、スタッフは何人くらいいるものなのだろうか?一日の売上げはいかほどに?考えれば考えるほど、ワケの分からない世界だ。日本の赤ちょうちんとは別世界であることだけは確かだ。
昨日の選曲で、ウォーレン・ジヴォンの「ロンドンの狼男 Werewolves Of London」をかけたが、これは解説が中途半端になってしまい、少々悔いが残ってしまった。あまりに小ネタが多い曲だけに、ラジオの限られた時間の中で紹介するには少々向かない曲だったようだ。「中華料理屋のメニュー片手に狼男がロンドン市内をうろついている」というしょうもない歌詞が大好きなのだが、まず他のウェストコーストの連中には書けまい。あのシュールさを限られた時間で説き起こすことは現実的ではなかった。
番組内では、リズムがフリートウッド・マックのミック・フリートウッドとジョン・マクヴィーの2人であることと、ピニャコラーダというカクテルが、ルパート・ホームズの「エスケープ(ピニャコラーダ・ソング)」で有名になったと言われるが、実はその2年前のこの曲で、LA界隈では「なんだそれ?」的に評判になっていたということを紹介した。
この曲、ウェストコーストの名セッション・ギタリスト、ワディ・ワクテルをして「最も難しかった曲」と言わしめたものなのだ。おそらく楽譜にしたらそれほど難しいとは思えない曲だが、普通に演奏してはあの独特のノリが表現できないのだろう。この曲だけがアルバム内の外の曲とは違うメンツで録音されていることも、その辺に理由があるのだろうか。フリートウッド・マック・チームは少々揺らぎのあるリズムで、見事にこの間抜けな世界観を表現している。しかも後半に向かって微妙に盛り上がっている様は、なかなかに難曲であることも窺わせる。自分はそういったことを知った上で、何年か聴き続けた結果、マイ・フェイヴァリットのベスト10に入るほど好きな曲になってしまったのである。
自分はあまり緊張する性質ではないので、自分の店でもトーク・イベントみたいなことをしょっちゅうやっていたが、ラジオやトーク・イベントなどというものは、入念に準備をするに越したことはない。情報が整理されているということは、結果的に限られた時間を有効に使えることにもなる。本来なら、直前まで選曲に頭を悩ませている状況ではいけないのだ。一応そのことも分かっているが故に、選び出した曲に関しては手持ちの資料も作り込む。しかし、どうしても、もっとしゃべりたくなってしまうのだ。問題の本質は実はそこにあるのだ。普段は無口なくせして、実はおしゃべりなオジサンなのである。
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