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続・下町音楽夜話 0296「アイ・シャル・ビー・リリースト」

宣伝もロクにしないまま7インチ盤の専門店などをやっているが、商売というよりはほぼほぼ楽しみの領域である。趣味というレベルではないと言われることもあるが、本人が楽しんでやっていれば趣味である。そんな中、ラジオ番組のパーソナリティをやらないかというお話を頂いたのは本当に有り難いことだったと思う。

正直なところ、人前で話すのは億劫で苦手な方だが、それでもプレゼンのやり方を教える講師も前職ではやっていたので、やってできないわけではない。楽しみの延長と捉えてやるようにはしているが、それなりにシンドイ。加えて深夜の生放送をやって翌日は普通に営業、しかも週末のお客様が集中する日である。少しゆっくり出勤させてもらっているが、如何せん還暦、疲れを引きずる。

ともあれ、自分の意見や伝えたい情報を発信する機会を得るということは有り難いことだ。SNSなどを使えばいくらでも発信できる世の中にはなったが、そうそう見てもらえるものでもない。オールドメディアと括られるラジオという音声媒体がどれだけ力があるものか知る由もなかったが、いろいろな方から「ラジオ聴いたよ」などと言われることが増え、嬉しいとともに頑張らなければという意識も出てきた。

先月のお題は「珠玉のカヴァーソング特集」だったのだが、もちろん楽しんできた一方で、局に迷惑をかけないか少々心配な選曲もしていた。世の中放送禁止になる曲もあれば、発売禁止になる曲もある。自主的に発売中止にするものもある。その辺の事情に配慮すると無難な選曲しかできないことになるが、もともと無難な選曲を心がける意思など微塵もない。そもそもアナログ・レコードでかけるという方針を貫いており、「こんなもんありまっせ」的に宣伝に勤しんでいる…ことにしている。

ザ・バンドのテイクで有名な大名曲「アイ・シャル・ビー・リリースト」は、ボブ・ディランの曲である。ボブ・ディランとザ・バンドの面々は、1967年にウッドストックのビッグ・ピンクと呼ばれる建物の地下室で、ザ・ベースメント・テープスのセッションを繰り広げ、この曲もこの時期に作り上げている。ザ・バンドのテイクは完成度が高く、「ザ・ウェイト」のB面とはいえ、早速リリースされたのも頷ける。一方でボブ・ディランのテイクは、長いこと公式リリースされず、1991年のブートレグ・シリーズが初出ということになっている。

しかし、1971年の「グレーテスト・ヒット第2集」というベスト盤には、マッド・エイカーズのハッピー・トラウムとのセッション音源が収録されていた。日本国内では、この盤から「マスターピース When I Paint My Masterpiece」のB面でリリースされている。そんな事情から、このシングル盤は海外のコレクターが欲しがるコレクターズ・アイテムとなっている。

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先般の番組で自分はこの曲を取り上げ、オリジナルとしてこのボブ・ディランのヴァージョンを紹介した。世の中的には初出がザ・バンドの方で、しかもリチャード・マニュエルの名唱とともに有名だが、やはりオリジナルはこちらではという仕掛けをしておいたのである。そして、そのカヴァーとして選んだのはRCサクセションのものである。こちらも知る人ぞ知る、曰く付きの有名音源である。

RCサクセションは1988年に「カヴァーズ」という洋楽の有名曲の歌詞を日本語で歌うカヴァー集を計画した。当初3枚組の大作でリリースする予定だったが、東芝EMIから方針変更を迫られた。「ラヴ・ミー・テンダー」や「サマータイム・ブルース」等が反原発の歌詞に置き換えられていたためで、原発を建造している親会社の東芝から注文がついたのだろう。結果として東芝EMIからは発売中止となったが、古巣のキティ・レコードから発売にこぎつけた。「素晴らしすぎて発売できません」という新聞広告を出したりもして、世の中を随分賑わせたものだ。

その後、RCは、「カバーズ」発売中止に対する怒りを込めたライヴ盤「コブラの悩み」を、1988年末にリリースする。「アイ・シャル・ビー・リリースト」はそこで歌われたもので、シングル・リリースされる予定だったが、公式の記録ではリリースされていない。やはり発売差し止めにでもなったのだろう。しかし、自分の手元にはこの曲の7インチ・シングルがある。盤のラベル部分は手書き文字だが、関係者から入手したものではない。普通にディスクユニオンで購入したものである。面白いのは東芝EMIで制作されていることだ。支持者は社内外にいたということだろう。

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そして自分は、相方である中央エフエム代表の小松氏に迷惑がかかるかも知れないということをアタマの片隅に置きながら、この曲をかけてしまった。まあ、そんなことでメゲる御仁でもなさそうだからという算段のもとだ。東日本大震災直後、ピーター・バラカンは「ラヴ・ミー・テンダー」をかけようとして局から止められたという。変名で参加している桑田佳祐のコメントも面白い。ご興味がおありなら、ぜひ検索してご一読いただきたい。いろいろ面白い情報が出てきますぞ。時期的にいろいろあったか、坂本龍一氏は反原発を声高に叫んでいる方だが、RCの「カヴァーズ」参加要請を断ったというし…。あまり書き過ぎない方がよろしいか。自分は中道ノンポリ、政治的な発言は差し控えている、ただのカフェのオヤジである。


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