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7インチ盤専門店雑記578「ロック逍遥3:レオ・セイヤ―~キング・クリムゾン~レオン・ラッセル」

レオ・セイヤ―は2009年以降、オーストラリアに住んでいるんだそうです。元はアイルランド人の母親とイギリス人の父親を持つイギリス人だった人ですが、このことを書くと驚かれる方もいらっしゃるでしょうか。お店のお客さんではアメリカ人じゃないんだとおっしゃる方が結構な割合でいらっしゃいます。売れた曲はアメリカン・ポップスのテイストが溢れているものもありましたからね。アルバムでいけば、4枚目以降、リチャード・ペリーがプロデュースした76年の「Endless Flight」、77年の「Thunder In My Heart」あたりは、TOTO組やウェストコーストのミュージシャンを起用したアメリカン・テイストのものでした。そしてよく売れました。

個人的には3枚目までの初期のアルバムが好きだったりします。73年の「Silverbird」、74年の「Just A Boy」、75年の「Another Year」あたりです。アダム・フェイスとデヴィッド・コートニーがプロデュースした1、2枚目、アダム・フェイスとラス・バラードがプロデュースした3枚目は英国テイストが溢れております。昨日のロジャー・ダルトリーのファースト・ソロに続いて、アージェントのラス・バラードの名前が出てきましたね。…好きな辺りです。

実はレオ・セイヤ―のファースト・アルバム「Silverbird」、一曲を除きギターはラス・バラードが全部弾いているんです。ソングライターでもあるデヴィッド・コートニーがピアノも弾いていますが、かなり少ない人数の英国精鋭で作られた印象です。面白いのがドラムスで3人の名前が見えます。まず、キング・クリムゾンのマイケル・ジャイルズ、アージェント~キンクスのボブ・ヘンリット、そして英国を代表するセッション・ドラマーのヘンリー・スピネッティです。マイケル・ジャイルズさん、こんなところで叩いておりましたか…。

セカンドの「Just A Boy」は星の王子様風ジャケットが印象的な盤ですが、ここでは自身のバンドを結成したこともあって、さほど有名どころは参加しておりません。アルバム・タイトルの「ジャスト・ア・ボーイ」はロジャー・ダルトリーに提供された「Giving It All Away」のサビのフレーズ、I was just a boy, giving it all awayというフレーズから取られたのでしょうが、曲のタイトルと違う部分を抜き出すあたりのセンスがなんとも言えず好きです。ここでマイケル・ジャイルズは1曲のみ叩いてますね。デヴィッド・ローズなどという昔の人の名前も見受けられます。

そしてサード「Another Year」では、マイケル・ジャイルズが全曲で叩いていることにちょいと驚かされますが、ファーストと同様にラス・バラードを中心としたバックアップなんですよね。そして、どういうわけか、レオン・ラッセルのスライド・ギターが出てきたりします。…アメリカ市場に目が向くアーティストに触れるとレオン・ラッセルの名前が出てくる…、ジョー・コッカ―あたりと似た構図なのでしょうか。

4枚目以降はもう別のアーティストと言いたくなる変貌ぶりですから、やはりアメリカ市場を目指すというのは、売れるということに特化しないといけないんですかね…。そうなると、ヒット請負人的なTOTO組の存在もまた違った見え方になってしまいますが、純粋に英国的な陰影を持つ部分に魅力を感じていたアーティストだけに、むしろ残念だったりします。

シングル曲から見ると、4枚目からは「You Make Me Feel Like Dancing」と「When I Need You」という、彼の経歴を代表する全米No.1のニ大ヒットがあります。評価されて当然です。その一方で、ファーストの「The Show Must Go On」はスリー・ドッグ・ナイトが取り上げた印象深い曲ですし、セカンドの「Long Tall Glasses」「One Man Band」やサードからのシングル「Moonlighting」も大好きな曲です。売れたからといって悪く言うのは筋違いだと思いますが、初期の路線で行って欲しかったと思うのは、ファンの身勝手なんでしょうか。英国的なテイストのままで作り続けていたら、また違った魅力を持った、ワン・アンド・オンリーのアーティストになっていたような気もするんですけどね。

ただ御本人も思うところがあるのか、1979年にリリースされた「The Very Best of Leo Sayer」というベスト盤では、A面がアメリカン、B面はブリティッシュという風に完全に峻別しており、好きな方の面を聴きなというようなことをしております。…当然私はB面ばかり聴くわけです。


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