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続・下町音楽夜話 0271「趣味と商売」

また一つイベントが終了した。どうもどんなことにも全力投球しないと気が済まない性質なので、イベントが終わるとドッと疲れが出る。還暦過ぎが言うことではないと思うが、自分の体力の限界を考えずに遊び過ぎるのは子供のやることだ。そもそもスタッフやカミサンの助けがないと成り立たないイベントなのに、何年も続けているのだから傍迷惑だと承知しているが止められない。面白がってくれるお客様がいらっしゃるうちは続けるかという気もしていたが、昨日は常連さんがほとんど全滅という有り様で開催した。人件費やいろいろなことを考えると、恐ろしく効率の悪いイベントということになる。そろそろ潮時かもしれない。

とはいえ、あと2回分のご要望をいただいている。TOTOのメンバーが参加している盤の特集とブルースの回だ。どうしたものか。TOTOは皆さんがオススメを持ち寄って聴く方が面白いだろうということになっていた。ちょっと考えれば30枚40枚直ぐに思い浮かぶが、自分の好みの盤だけではどうもつまらないことになりそうだ。やはり持ち寄り方式が無難だろう。そうした場合、確実に一定数以上のお客様が参加していただけることが前提となる。やると言うことは簡単だが、人が集まるかと胃が痛むおもいをするのは嫌だ。できることなら5~6人の人間が、オススメのTOTOメンバー参加盤を5枚とTOTOの曲で好きなものを1曲の計6曲をまとめて聴かせる方式が望ましいと考えている。さて、それだけ好き者が集まるだろうか。

ブルースはさほど問題なかろう。自分が選曲すれば、ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、サン・ハウス、ハウンドドッグ・テイラー、バディ・ガイ、エルモア・ジェイムス、ボ・ディッドリーといった連中の定番曲を3曲ずつと、ジョニー・ジョンソン、ジミー・ロジャースあたりから1~2曲、ジョニー・ウィンター、ミック・テイラー、レッド・ツェッペリン、ローリング・ストーンズ、エアロスミスなどから代表曲を選べばもうほとんど時間がない。ジョン・リー・フッカー、フレディ・キング、ジュニア・ウェルズも好きな曲がある。レアなオススメ盤を5枚も紹介すれば3時間などあっという間だ。普段通りに選曲に苦労しそうな気がする。ちなみにB.B.キングとサニー・ボーイ・ウィリアムソンはあまり好みではないので、チョイがけの紹介だけに留まるだろう。

一言「ブルース」と言ってもいろいろある。オーティス・ラッシュやマジック・サムなどのシカゴ系は盤の枚数も多いし、メンフィス・スリムのようなピアノ・ブルースも奥が深い。一方で映画に絡めれば、マーティン・スコセッシ監督の「ブルース・ムーヴィー・プロジェクト」に少し多めに時間を割くとしても、「クロスロード」や「ホット・スポット」、「ストーミー・マンデイ」などブルースが印象的な使われ方をしている映画はいくらでもある。「映画の中のブルース」というテーマで3時間のイベントが1回できそうな気もするほどだ。正直キリがない。

ただしブルースに関しては、思い入れの強い方が少なからずいらっしゃるわけで、満足度は低くなりがちだ。無難な選曲というものにも限界がある。今回やったルーツ・ロックもそうだが、好きで掘り下げている人はそれなりにいらっしゃる。どんな内容であれ、そうそう満足してもらえるものではないのだ。「何故***をかけない」みたいなことを帰り際に言われたりするわけだ。泣く泣く削ったものだったりすると猶更残念に思うが、会話の中では選から漏れた理由を探すことになる。実は非常に落ち込むことにもなる。ブルースでいけば、裏方的な色が強いウィリー・ディクスンは選ばれないことが既に決まっているようなものだが、手元にはアナログのボックスセットがあるほど好きだったりもする。イベント開催はいろいろ辛い面もあるのである。

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さて、コロナの自粛が明けて客足が戻ったかと言えば、以前の半分もいかないという数字的な結果がある。多くの常連さんが戻ってきてくれているし、新しいお客様も増えており感触としては悪くないが、そこはなかなか難しいものがある。結局のところ、趣味的要素が大きい店ではあるが、商売として成り立たないと維持していくことは難しい。もう少し時間が経たないとアフター・コロナ、ウィズ・コロナの新しい時代の経営方針は見えてこないのだろうか。

結局どんな場合でも、ブランディングがしっかりしていなければいけないことは間違いない。カフェめし屋としては安定しているが、音楽好きが集まる店としてはまだまだ工夫が必要なのかもしれない。世の中が落ち着くまでは夜の営業を止めた方がいいのかもしれないが、自分としては、楽しみの部分をそっくり失うので店をやっている意味がなくなってしまう。やれやれ、店舗であれ、イベントであれ、何かを続けていくということはなかなか難しいものである。


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