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7インチ盤専門店雑記299「フィルモアの奇蹟」

アル・クーパー、マイク・ブルームフィールド、エルヴィン・ビショップ、カルロス・サンタナといったメンツが出演したライヴの名盤「フィルモアの奇蹟」です。原題は「The Live Adventures Of Mike Bloomfield and Al Kooper」となっております。シスコのフィルモア・オ―ディトリウム、つまりフィルモア・ウェストで1968年9月26日27日28日の3日間に収録編集されたものです。カルロス・サンタナも2線でエルヴィン・ビショップとともに、クレジットされていますが、この時点ではレコード・デビューの11カ月前ですから、無名の新人ですね。小話として有名ですが、よくフィルモアに潜り込んでは、ビル・グラハムにつまみ出されていたという、若き日のカルロス君です。まあ、こうやってクレジットされているんですし、注目されてはいたんでしょう。

カルロス・サンタナ率いるサンタナは、1966年結成。後にジャーニーを立ち上げ、初期のキーボーダーとなるグレッグ・ローリーもサンタナの結成当時からのメンバーです。「ブラック・マジック・ウーマン」のヴォーカルも彼ですから、重要な立ち位置にはいたのでしょう。…でもここにはいませんけどね。とにかく、サンタナはウッドストック・フェスティヴァルに出演していますが、その時点でもまだレコード・デビューしておりません。サンタナのファースト・アルバムは1969年8月30日リリースですから、ウッドストックの2週間ほど後にリリースされています。

この盤、演奏とか取り立てて上手いとか凄いというものでもないんですけど、歴史的な名盤とされていますよね。やはり当時の空気感をとじ込めているということなんでしょうか。加えてジャケット・アートを描いているのが、ノーマン・ロックウェルですから、アート好きはどうしても気になります。私もジャケットの状態がいいものを持っておきたくて、2~3枚ストックしておりますが、ジャケットの状態に関しては、どうしても国内盤に分があります。輸入盤はヤレているブツが多く、なかなかいいものが見つけられません。

お店では2枚売れましたが、まだ自宅にも店にもあります。国内盤ですけどね。探している方は、いまだにいらっしゃいます。毎度「ラリッているのか、あまりいい演奏とは思えませんけどね…」などと言いながら、お譲りしたりしています。7インチ盤も売れてしまいましたね。これは1枚しか見たことがないので、今は手元にありません。スリーヴ・デザインは同じです。

自分にとっては後追いで遡って聴いたものですから、あまり思い入れはありません。それでも、1968年から69年頃のサブカルを語る上では欠かせません。ウッドストックと並び、重要視されるべきものでもあります。

如何せん68年4月4日のマーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺、6月5日のロバート・ケネディ暗殺、7月頃がプラハの春、ワルシャワ会談です。8月20日にワルシャワ条約機構軍がチェコに軍事介入…とまあ、騒乱に満ちた社会情勢の中で開催されたライブ・イベントなわけです。翌1969年はアポロ11号の月面着陸とか、シャロン・テート事件とかいろいろありまして、潮目という年です。

この盤が発売された1969年は、音楽的にみても面白い年です。米国ではCCR全盛期、69年1月5日に2nd「バイユー・カントリー」、8月3日に3rd「グリーン・リヴァー」、11月2日には4th「ウィリー・アンド・ザ・プア・ボーイズ」がリリースされます。シングルみたいなペースですよね。グランド・ファンク・レイルロードも69年8月に1st、69年12月に2nd、70年6月に3rdですから、似たようなものです。

英国では、68年12月6日にローリング・ストーンズの「ベガーズ・バンケット」、69年1月12日にレッド・ツェッペリンの1st、69年9月26日にビートルズの「アビー・ロード」、69年10月10日にキング・クリムゾン「クリムゾン・キングの宮殿」、69年10月22日にレッド・ツェッペリンの「2nd」、69年11月28日にローリング・ストーンズの「レット・イット・ブリード」がリリースされたわけです。凄い年です。

日本では、1968年12月25日にリリースされた、いしだあゆみの「ブルーライト・ヨコハマ」がロングラン・ヒットとなっておりました。同様に68年12月10日に三億円事件が発生し、ずっと騒がれていたように記憶しております。本当に落ち着かない年だったんですね。「フィルモアの奇跡」、何かいろいろ考えさせられる盤なんですよね…。


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