7インチ盤専門店雑記251「ヒプノシスの価値」
1960年代のレコード・ジャケットはサイケデリックなものが多く、特別好きなものではないのですが、まあ眺めていて飽きないという意味では、70年代80年代よりも面白いかもしれません。90年代以降はCDサイズのジャケットを意識しているのでしょうか、面白いものがありません。コンテンツの情報を伝えることに特化しすぎて、文字情報しか目に入らないものもありますね。
そもそもSP盤の時代には、布張りの豪華装丁を施されたボックスセット以外は、レコード会社のロゴ入りカンパニー・スリーヴに入れられていたわけで、10インチであれ、7インチであれ、12インチであれ、ヴィニール素材になってからの話ですね。米国では7インチ・シングルに関しては、後々までカンパニー・スリーヴのみのものも多かったわけですよね。10インチはブルーノートの5000番台のように、しっかりデザインされたジャケットが最初からあるので、まあこの辺が始まりなのでしょう。他の会社はコンテンツ情報、つまり誰が演奏し歌っているか、どんな曲をやっているかといった文字情報のジャケットが多く存在しました。オムニバスでAB面がそれぞれ違うアーティストの場合、すっぱり半分にして情報が書き込まれている類もありましたしね。絵的にデザインするという感覚は直ぐに定着したわけではなかったのでしょう。
それがだんだん絵的に内容を伝えるものになり、徐々に文字情報は減っていきます。端的にコンテンツを反映した絵が使われることが最初は多く、徐々にジャケット・デザインがコンテンツ情報から独立してしまいます。そして行き着くところはヒプノシスがデザインしたもののように、文字情報なしのコンテンツを表現しているとも思えないジャケット・デザインが登場するわけですね。「牛のジャケットのレコード」に牛の曲は入ってません。
ヒプノシスのストーム・ソーガソンのデザインがどれほど音楽業界に貢献しているかは、文字通りはかり知れませんが、プログレッシヴなデザインは魅力的なものばかりでした。ヒプノシスのコレクターがいるのも頷けます。以前に3時間もののトーク・イベントで、2回に分けてジャケット・トークをやったことがあるんです。1回は有名デザイナーや写真家、面白いジャケットのものを集めた回で、もう1回がヒプノシス特集というものでした。段ボール何箱も持ち込んでタイヘンでしたが、非常に面白かったですし、評判もよかったものでした。
さて、ヘッダー写真のジャケ本は60年代のアルバム・ジャケを集めただけですが、なかなかに侮れないものです。如何せん編者がストーム・ソーガソンです。そして巻頭になんとシド・バレットに捧げる文言が掲載されていたりします。そう、ピンク・フロイドの輝けるダイヤモンドです。
本当にいろいろ考えさせられる一冊です。でも考えても分からない部分が多々あります。だって、ストーム・ソーガソンですから…。ヒプノシスのデザインが理解できるわけないですしね…。考えないようにしながら眺めるものなのかもしれません。いや、そんなことすら考えない方がいいのかな…。
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