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続・下町音楽夜話 0277「令和のブルース・イベント」

ブルースのイベントが近いので「少しブルースを聴いてみるか」と思い立つが、何をかけるか一向にそそられるものがない。最近ブルースはとんとご無沙汰だ。せいぜいでジョニー・ウィンターやマディ・ウォーターズ辺りの、普通にロックやポピュラー・ミュージックと同じ耳で聴けるものなら時々ランチタイムにも流している。ジョン・リー・フッカーやバディ・ガイあたりもまだロックしか知らない耳でも聴けるものだろう。

さて、ロバート・ジョンソンやサン・ハウスといったあたりになるとどうなのだろうか?今でこそ「ブルース聴かせて」と言われれば、その辺がまず出てくるが、しっかり勉強してある程度コンピレーション盤などを聴いた上でのセレクションだ。また自分とブルースの接点は1970年代中盤まで遡ることになるが、思い切りハマったのは80年代後半からである。キッカケは山川健一著「ブルースマンの恋」を読んだことと、ロン・ウッドがボ・ディッドリーと一緒にやったライヴ盤あたりに触発されてということになろうか。もう少し前にハウンド・ドッグ・テイラーやプロフェッサー・ロングヘアーあたりでルーツ探求の面白さに目覚めているが、ハマるのはやはり1990年頃である。実際そのころは情報も多く流れていたし、廉価盤CDがドッとリリースされたのである。

ただしそれはメジャーなブルースマン…というと矛盾しているようだが、ビッグネームとでも言うべき一部の有名なブルースマンに限った話でもある。2004年頃に下町音楽夜話第127曲「この猟犬スライドに憑き」で愚痴めいた書き方をしているが、今回かける予定のタンパ・レッドやリロイ・カー、メンフィス・スリムといったアーティストの音源もなかなか聴けなかったのである。今でこそAmazonで検索すれば何でも出てくるような時代になったが、ダウンロード販売や定額制配信サービスにもこういった音源が含まれているのだから驚かされる。

さて、令和の時代にやるブルース・イベントで何を流すべきか。そのラインナップは昭和や平成の時代と何か違っているべきなのだろうか。1903年に発見されたとされるブルースの生誕100年を記念してマーティン・スコセッシが総指揮を執った「ブルース・ムーヴィー・プロジェクト」はエポックメイキングな動きだった。かなり貴重な戦前ブルースの映像も含まれているため、資料的価値も高いとされたが、それまで全容すら曖昧模糊としていたブルースという音楽を、その時点の目線で整理し尽くしてくれたのだ。DVDのボックスセットはすぐに売り切れ、一時は6万円以上の値札が付けられていたが、2011年に再発され、2万円前後の価格に落ち着いている。このプロジェクトの前と後では、少々ブルースに対する見方が変わってしまった方も多いのではなかろうか。少なくとも自分は大きく変わってしまった。

あらためて言われなくとも、ロックやリズム&ブルース、ヒップホップといった音楽のルーツにブルースがあることは認める。その影響の発出の仕方はいろいろだが、単純に曲をカヴァーし、個性を上塗りして現代風というかその当時の同時代観を織り込んでいるものは実に多い。一方で歌詞やフレーズを引用したり、ブルースマンを題材にした歌詞の曲も意外なほどある。またロバート・ジョンソンのクロスロード伝説を素材に旅をするような映像も多く存在するので、ネタは限りなく存在する。

令和時代のブルース・イベントに欠かせないものは何だろうか?やはりマーティン・スコセッシがせっかく整理してくれたのだから、その流儀に則って分かりやすく説明するのが理想だろう。地理的な分類も面白いとは思っていたが、ピアノ・ブルースとして括ってみたときに見えてくるものの面白さは侮れない。このプロジェクトの中でクリント・イーストウッドが監督を務める一編「ピアノ・ブルース」は、結局劇場公開は見送られたが、素晴らしいドキュメンタリーである。ジャズ・ピアニストも多く紹介されており、ジャンルの垣根の低さが嬉しい。

また英国のブルース・ロックがアメリカのブルースマンの再評価に繋がったという視点から見て行くと、ルーツ探求の面白さもある。ただしこの視点を重視するとオリジナル・ブルースと影響を受けた最近のヒット曲的な組み合わせで紹介することになるだろうから、曲数がうんと限られてしまう。ぜひともやってはみたいが、せいぜいで2~3曲だろうか。さて、今回も選曲には困難を極めることになりそうだ。一人一曲の原則はここでは無意味だろうから柔軟にいきたい。

令和の今だからこそ、ネットを活用して、最大限の情報を詰め込むというのは、ここしばらくの自分のイベントの方向性として通底するものだが、今回はそのギアを一段上げて情報量としてはこの上ないものにするつもりではある。結局のところ、かけたい曲が山ほどあり、どう時間をやりくりするか、自分の好きなブルースマンをどこまで織り込めるか、というあたりで頭を悩まし続けるのだろう…。結局同じか…。


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