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さらまわしネタ帳046 - 理解が及ばぬ

ジェリー・マリガン、ウェストコースト・ジャズの中心的な人物です。バリトン・サックスとピアノという普通は両方やらない楽器を演奏するわけですが、どうも両方とも自分には絶対にできないし、やろうとも思わない楽器なので、理解が及びません。それでも彼の代表作「ナイト・ライツ」は大好きですし、ライヴ音源の独特のノリも好きです。

自分はジャズを聴き始めたのが遅いので、多くの名盤はCDで聴いています。ジェリー・マリガンの「ナイト・ライツ」もCDをまず購入しました。本格的にジャズをディグし始めた最初の年だったと思います。この盤の静謐な音が好きで、一時はかなりのめり込んでおりました。そうすると、やはりアナログ好きなもので、LPを探しまして、まあかなり苦労して状態のいいブツを手に入れました。10年近く粘ったと思います。

そして思い切りコケました。一番好きな曲が入ってないんです。ジェリー・マリガンがピアノも弾くということは理解しておりましたが、この「ナイト・ライツ」のCD、タイトル曲が2パターン収録されておりまして、まずピアノ・ヴァージョンから始まるんです。そしてサックス・ヴァージョンで終わるんです。この始めと終わりにタイプの違うタイトル曲があってこそ、このアルバムが好きだったのですが、終わりに入っているサックス・ヴァージョンはなんとCDのみの追加収録だったんです。このサックス・ヴァージョンがないLPが許せないわけではないのですが、そんな事情から、どうしても途中で終わったような気がしてならないんです。

そもそも、この人、ウェストコースト・ジャズの祖と言われておりまして、1952年頃にチェット・ベイカーと一緒にやったカルテットで、ピアノレスの編成を採ったわけです。ピアノも弾く人なのにピアノレスを始めた、と。彼がピアノレスの編成をメジャーにしたと言われるんですよね。それがウェストコースト・ジャズの一つの典型的なスタイルになったわけですね。…まあ、他人のやらないことをやる人なんでしょうな。この人、マイルス・デイヴィスの「クールの誕生」にも参加しているんですよね。大所帯とはいえ、というか大所帯であっても、バリトン・サックスでブホーーーッとやっているわけですよね。…あの歴史的名盤で。さすがです。

1954年の「パリー・コンサート」というアルバムがありまして、パシフィック・ジャズですけど、パリと。「パリー・プレイエル・ホールに於けるコンサートの実況録音」と書かれておりまして、第3回パリー・ジャズ祭というヤツですね。一応自分は違和感を覚えつつも、「そうか、そうか」と有り難く聴いておりました。

そしてヘンなものを見つけてしまいまして、このアルバムからのシングル・カットがあるんです。まさかシングル・ヒットを狙ってというわけでもないでしょうに、シングル・カットですよ。要らんかもと思いつつ、一応7インチ盤専門店ですからねぇ、狙っていたら、何かポロっとお安い値段で入手してしまいました。しかもえらく状態のいい極上美麗盤です。ここしばらく、この7インチ盤をレコード・ラックに面だしするように飾って眺めておりました。何だかカワイイんです。小さいですからね。しかも妙にコジャレているんです。…おフランスですよ。

そして、この盤の裏ジャケで、愕然とするような福田一郎氏の解説を読んでしまったんです。バリトン・サックス、トロンボーン、ベース、ドラムスという、ただでさえよく分からないというか音を想像し難い編成の盤なんですけど、理解が及ばないどころか、斜め上の解説に遭遇し、完全に理解不能になってしまったんですけどね…。

ここでの氏の解説によりますと、「昔のジャズ・バンドが高価で、しかも嵩張るピアノの使用を許さなかったので、ピアノレスということは決して目新しいものではない。」と書いておきながら、そのすぐ次のセンテンスで、「若し、多くの場合のように、グループにピアノが使用されたと仮定すると、必然的にピアノが支配的な役割を持って、ベースも、独奏楽器も、ピアノの叩き出すコードに対して従属して、制約を受けることになる。」と書かれているんです。そもそも矛盾しているし、スウィングの時代でも、「支配的」って、そんなことってありますかね?

しかも、「マリガン・カルテットの音楽は相当に高度のものである。が、しかし、容易に理解され易い。ここに此のモダン・コンボの成功の秘密がある。」と書かれておりますが、…そうですかねぇ、結構難解なんですけど…。さらには「フランスのジャズ関係者達は或る種の危惧を抱いた。…(中略)黒人楽団が与えたジャズの醍醐味を、少数のこの白人グループが再び与えることが可能であるだろうか?」とか書かれてますけど、なんでそんなことわかるん?白人の楽団でもいいのいっぱいあったやん…。もう無茶苦茶。自分としては「なかなかに難解だなあ」と思いつつ聴いているのに、こうも難解な解説をつけられると理解が及びません。お手上げですな…。

ああ、でもいいんですよ、この「Love Me Or Leave Me」。盤の表記は「ラヴ・ミ・オア・リーヴ・ミ」で笑ってしまうんですけど、何だか凄いんです。ボブ・ブルックマイヤーのトロンボーンも上手いです。バリトン・サックスに実に巧妙に絡んできます。ピアノもトランペットもおりませんけど、結構楽しくスウィングできまっせ、みたいなノリがね…。レッド・ミッチェルのベースも、いい感じのソロで盛り上げてますしね。「来るぞ、来るぞ!」って感じで終わるのが好きだなあ…。

編成が編成ですから、低音寄りのずっしりしたスウィングとでも申しましょうか、「面白れぇ~」ってなところです。パリの聴衆は十分分かってますね。歓声や拍手を聞けばそれはわかりますよ。聴いて楽しけりゃそれでいいんじゃないのかなぁ…。解説とかって読むもんじゃないですね…。


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