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ジャズはアルバムで聴くものか?ージャズ7インチ考

ジャズと言っても、1950年代から60年代に全盛だったハードバップあたりにを中心に語ると、ほぼアルバムで聴くものというイメージが定着している。時代的にはブルーノートの5000盤台、10インチ盤時代の次にやってきた時代の音源である。自分はジャズを聴き始めたのが1990年前後なので、当然ながらリアルタイムでの出来事として知っているわけではない。しかしロックと同様にジャズもアルバムで聴くという固定観念があった。

ところが、7インチ盤を専門に扱うレコード屋を始めるにあたり、過去に買い集めていたものなどをチェックしていると、一定枚数ジャズの音源があったりする。勿論古い映画でジャズが使われていたことは多いので、サントラ盤7インチでは珍しくもない。少々古いが「五つの銅貨」などが好例か。

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また、ゲッツ/ジルベルトの名曲「イパネマの娘」に関しては、面白い盤がある。「クレイジー・ジャンボリー」という映画にスタン・ゲッツとアストラッド・ジルベルトが出演もして歌と演奏を披露しているという。権利関係がややこしいのか、この映画はDVD化もされていないが、デイヴ・クラーク・ファイヴやアニマルズも出演しているというので、是非とも観てみたいとは思うが、未だ叶わない。ただし7インチ盤は手元にある。

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そいったものではなくて、ズバリ、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、バド・パウエル、クリフォード・ブラウン、アート・ブレイキーあたりの7インチ盤というものが存在するのだ。かなりしっかり聴きこんできたヴェテランのジャズ・ファンでも「見た事ないぞ」とおっしゃったりもする。例えばこんなところだ。

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これが、キャノンボール・アダレイやデイヴ・クラーク・ファイヴとなると、さほどレアと思われないのか、リアクションは薄くなる。実は他にウェス・モンゴメリーの7インチを見たことがないので、このキャノンボール盤、個人的には大事にしている。

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これらの盤をお見せすると、「へぇ」というリアクションの方が多いのだが、これがことマイルス・デイヴィスとなると違ってくる。いきなり目の色が変わる方も多かった。「スイング・ジャーナルを何十年も読んできたが、見たことも聞いたこともない」とおっしゃった方もいらした。こういうことからも、マイルス・デイヴィスはやはり別格かということになるのだ。事実、「ソー・ホワット」と「バグス・グルーヴ」は猛烈な値札を付けていたにもかかわらず、さっさと売れてしまった。オタク市場/マニア市場というものは、一般の消費経済の指標では測れない、独特のものらしい。

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結構レアだということは誰もが認めていただけるとは思うが、その一方で「たかが7インチではないか」とおっしゃる方も少なからずいらっしゃるだろう。そう、7インチ盤専門店をやっている自分でも、ことジャズの7インチに関しては価値が分からないのである。しかし、いずれも状態は極上、経年劣化を考えると、それなりの価値はあるだろう。ここまでレアだと相場もあったものではないのだが、いかがなものだろうか。

その一方で、個人的な思い入れという価値を加味すると、相場とは別の価値観が生まれてくるからややこしい。例えば日本にボサノヴァを紹介したのは渡辺貞夫ということになる。その当時の7インチ盤の価値はいかほどのものなのだろうか?

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所詮リアルタイムに経験した時代のものではないので、書物の中の出来事の証左に価値を見出しているだけだが、自分にとってはもっと価値があるもののように思えてならない。

さらに言えば、同時代的に夢中になったものはもっと思い入れが強いので、自分にとって最も価値があるジャズの7インチとなると、渡辺香津美の「ユニコーン」だったりする。7インチ盤の世界は、単に聴くための道具としての価値観、すなわち音質や盤のクオリティ、相場などという単純な物差しだけでは語れない、LPと比較しても主観が入り込み易いものなのである。

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