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続・下町音楽夜話 0293「珠玉のカヴァーソングス」

次回のラジオ番組のお題が「The Covers~珠玉のカヴァーソング特集~」ということで、気になるいろいろなカヴァーソングを引っ張り出してきて聴いている。番組では当然ながら時間の制約があるので、全てかけられるわけではないし、一応アナログに拘っているので、手元にアナログ盤があるということを前提に選曲することになる。大好きな曲がカヴァーだったりするとご紹介したくもなるが、オリジナル曲が無名のアーティストでヒットもしていないと面白みが薄い気もする。「へぇ、これ、カヴァーだったのか」という意外性はあっても、オリジナルの説明に時間がかかるのは憚られる。

また超有名曲を何処の誰だかわからんミュージシャンがカヴァーしている場合も難しい。よほどいい演奏や、オリジナルを上回るほどのインパクトがない限り、番組でご紹介する面白みがない。どうしてもご紹介しておきたい新人アーティストだったりすれば話は別だが、そんな御贔屓はいない。新規性に富んだドラスティックな解釈や、「このドラムス凄いね」みたいな、ネタになるような部分があるケースは少ないように思う。ただ「このオリジナル曲が好きなんだね」ということが伝わってくるような愛が溢れるカヴァーであれば好ましいが、これも意外に難しい。

オリジナルとカヴァー、両方がそれなりの知名度を持っていると話はスムーズだ。偉大なアーティストの名曲を別の偉大なアーティストかカヴァーして、「こんな解釈はどうだ」などとやっているものが自分としては望ましいが、これも時と場合によるような気がしている。例えばイベントの最後に、ビートルズの有名曲を有名ミュージシャンがステージに並んでカヴァーしているケースは多いが、あれで感動したことはあまりないし、オリジナルに忠実なカヴァーが大半で面白味に欠ける。

プリンスが「ホワイ・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」を何人かのギタリストに交じって演奏している動画がYouTubeで観られる。あれは伝説的名演なのかもしれないが、そういったごく一部の例外はあっても、ラジオでかけるものではないし、アナログ・レコードに拘ると、意外に選択肢は限られてくる。

確かに、レコードの購入動機として「カヴァー曲が収録されていること」を意識するケースはほぼ無い。好きなアーティストのレコードを買って聴いていて、「あれ、この曲何だっけ?」的な出会いからクレジットをチェックして、「おや、面白い解釈だな」「おお、いいな」となる場合がほとんどだろう。たまに店でお客様とこういった瞬間を共有することがある。顔を見合わせて、「あれ、これ何でしたっけ?」などと言いながら、「ああ、〇〇の曲だ」などとなり、「いいな、これ、買おう」「オリジナルをちゃんと聴いてみよう」などという流れになる。意外なところで感謝されたりする。

続・下町音楽夜話0278「頭から離れない曲」で、2曲のカヴァーソングをご紹介している。一つはバディ・ホリーの「イット・ダズント・マター・エニーモア」、もう一つはサンダークラップ・ニューマンの「サムシング・イン・ジ・エア」という曲で、「イット・ダズント・マター・エニーモア」はダニー・ガットンのカヴァー、「サムシング・イン・ジ・エア」はトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのカヴァーをしばらく聴きまくっていた。最近でこそ少し落ち着いたが、店ではいまだにしょっちゅう聴いている。

この2曲、今回のラジオ番組でかける曲として、真っ先に候補として思い浮かんだ。しかし残念なことに、ダニー・ガットンの当該曲が収録されているアルバム「クルージン・デューセズ」は1993年のリリースで、アナログ盤はない。トム・ペティはベスト盤のみに収録されており所有しているが、こちらはサンダークラップ・ニューマンの音源がない。あえなく候補から外れることとなった。いずれもアーティストが自身の個性を見事に織り込んだ名カヴァーであり、ラジオでご紹介できないことが残念でならない。

さて、どうしたものか。ブルースだとロバート・ジョンソンの名カヴァーでもこの際は面白味に欠ける気がする。ジャズ・ミュージシャンが上手くジャジーにカヴァーしたものは1~2曲ご紹介したい気もする。本来ならカントリー・フレイヴァーを上手く混ぜ込んだカヴァーなどもあるといいなと思っていたが、なかなか好みのものが見つからず、選曲を難しくしてくれた。やはりビートルズやローリング・ストーンズ、エルトン・ジョンあたりの名曲にオリジナリティを織り込んだカヴァーが好ましい気もする。たかがカヴァー、されどアーティストの好みや個性などが見え隠れする意外に面白いものだったりする。なかなか侮れないお題なのである。せいぜい可能な限り悩みぬいてこのお題を楽しむこととしよう。…そうそう、デヴィッド・ボウイのカヴァー・アルバム「ピンナップス」とか、いいテイクがいくつもあるし、トリビュート盤も全部聴き直してみるかな。…キリないな。

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