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さらまわしネタ帳077 - 漠々たる不安に関する不安

昨日までの高温快晴とはうって変わって雨雲が低く垂れこめる木曜日、「こんな日はお客さん少ないだろうな」などと考えながらのんびり歩いていたら、目の前でバスに行かれてしまいました。次のバスまで20分近く、全く無駄な時間と知りつつ待っていたわけですが、見える景色は鬱々とした気分に輪をかけるようなもので、気分が思い切り下がってしまいました。

少しは厚着してきたのですが、冷え冷えとした空気が這い上がってくるようで、どんどん体調まで悪くなっていくのが分かるようでした。「低気圧がきているときはこんなものかな」とやり過ごすようにしてはいましたが、さすがに機嫌は悪くなってしまいました。

意外に早くこの7インチ・シングルの出番がくることになりました

ラジオ番組の準備で、ここのところ村上春樹ばかり読んでいるのですが、不思議なもので、読み返すたびに新しい発見があります。今回は特に音楽に関しての記述を拾って読んでいますから、これまでとは全く違ったアクセスなので仕方ありません。以前はデータベースまで作って読破を目指していたのですが、インタビュー記事などの数も非常に多く、2010年頃で止めてしまいました。翻訳ものも含め、ウェブ上に掲載されている複数のデータベースも統合して頑張っていたんですけどね。

それに、村上春樹という人は一度刊行した文章を結構しっかりアップデートしてしまいます。文庫化や新たな短編集編纂などのタイミングで加筆修正するので、エンドレスといった気分になります。「やれやれ」といった諦観は村上春樹の通奏低音ですが、大きな加筆修正に気づいたとき、倍加して「やれやれ」を投げつけられた気分になります。

今回は村上春樹をテーマに、ラジオ番組1時間×2回、ポップス/ロック編とジャズ編で構成するわけですが、クラシックは諦めました。アナログ縛りの番組で、クラシック編はそそられません。村上春樹の研究本も結構読んでいますから、選曲を楽しんでいるところですが、状態のいいアナログで聴けるものとなると、それなりに制約も出てきます。意外にデジタル音源でしか持っていないものが多いことに「やれやれ」となっているわけです。

それでも、ラジオ番組の選曲は常に楽しいものです。何を語るかを考え始めるときは気分が塞ぐこともありますが、原則的に楽しい作業です。以前読書会の常連さんだったJさんから、「村上ファンは細かいから」と脅されるようなことを言われ、慎重になっておりますが、主だった作品は読破し、ものによっては20回以上も繰り返し読んでいるうえに、登場する音楽もほぼ耳にしている自分がビビることはまずありません。

唯一制約となりそうなのが、「これまでかけた曲はかけない」という自主規制でして、「あれ、これ、かけちゃったな」というものがいくつかありまして、残念ながら直感的に構成した内容に手直しを加えなければいけない部分がいくつか見つかっております。「…そんなわけで曲はかけませんが…」という言い訳を並べていくのもありですが、話が長くなりそうでいけません。まあ、一連の作業の中で、最も楽しい部分かもしれません。

とにかく時代の空気感を曲で演出することに関しては天才的な人です。それに対して「これ、無理がないか」という部分を見つけ出してつつくもよし、時代背景とどうリンクするかを解説しながら曲を楽しむもよし、非常に面白い作業になっています。

※※※

一人でバスに乗るときは大抵一番後ろのシートに腰かけています。今朝のバスの中で、ピアスの落ちもんがあり、「お尻に刺さったら痛そうだな」と思いつつ、見入ってしまいました。当のピアスにしてみれば、予想だにしない事態で自分の生涯が閉じようとしているわけで、なんだか気の毒な気分になってしまいました。

村上春樹の文章って、直截的に「戦争反対」とかは決して言わないんですよ。いろいろなメタファーを駆使して、ある日突然奪われるかもしれない日常、自分の力では全くどうしようもない部分で薄氷の上に成り立っている安心安全みたいなものに対する不安を上手く描出して、「戦争は嫌だな」的な気分にさせるようなところが多々あるんです。

(ヘッダー写真のような)全く満足しているとは思えない日常でも、いつ失われてもおかしくないという国際情勢に鑑みたとき、漠々たる不安を持たざるを得ないわけですが、さらにそのことに対する不安がこみ上げてきてしまいます。あらためて考えてしまうのですが、やはり平和ボケですかね?無欲の度が過ぎると、自分の立っている場所さえ失うかもしれない状況に、気づいても気づかないふりをしてしまいそうで、さらに不安になってしまいました。

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