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続・下町音楽夜話 0326「映画音楽の楽しみ方」

映画音楽に関する講義の準備を進めていくなかで、あれこれと聴きながらチェックをしていたのだが、急に不安になってしまった。そもそも、それほど映画を多く観る人間ではないので、映画音楽に関して詳しいと言い切る自信はない。それでも、古いものなら少しは語れるかと思い直すが、古い映画のサントラ盤はそれなりに持っているといっても、これらはジャケットが目当てで買い集めたものだ。1960年代ごろまでの映画のサントラは、何とも魅力的なイラスト・ジャケットが多く、好きで集めていた時期があるのだ。

そもそも、映像がまずあって、それに付加価値を提供するサウンドトラックなのだから、映像をしっかり語るべきなのだろうか?サントラはその映画に対して、よほどの強い思い入れがないと買わないようなスタンスだった。曲が好きで買った盤もないわけではないが、リアルタイムで買ったものではない。金銭的な余裕が出て後々買ったものがほとんどだ。リアルタイムで購入した最初はヴァンゲリスの大名盤「炎のランナー」である。これは忘れられない名作だし、サントラも名盤だ。しかも絶頂期のヴァンゲリスの佳曲がフルフルに使われており、ヴァンゲリスのアルバムの中でもベストだろう。

1980年代のサントラの多くは、単なるロック・オムニバス・アルバム的になってしまい、映画そのもののアイデンティティが薄い。何等かの理由で寄せ集められた曲の集合体であって、その理由がたまたまある映画で使われた曲だったというだけのように感じてしまうのだ。「フットルース」や「トップガン」「ヴィジョン・クエスト」など、名曲揃いの大ヒット・サントラもあるが、果たして1950年代、60年代のサントラほど愛着が持てるだろうか?

ただし、古い映画のサントラ盤は曲だけではないところが、また難しいところだ。ジャケットが大好きで、展示イベントがないときは、フレームに入れて店の入り口わきに飾ってある「おかしな二人」のサントラは、セリフが多く収録されている。名場面かもしれないが、曲だけで構成されているサントラ盤ほど聴く機会は多くない。セリフも「稲村ジェーン」のサントラのように、曲間に少しずつ入っているようなものは問題ないが、結構長いと苦痛になる。英語圏の人間ではないということも影響しているだろうが、その辺はサントラ盤が敬遠される理由として、昔はよく耳にしたように思う。

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イラスト・ジャケットのコレクターは、実は世界中にいるようだ。「THE ALBUM COVER ART OF SOUND TRACKS」という大判の書籍は、状態のよいものだとびっくりするほどの高値で取引きされているが、やはり自分にとってもバイブルである。巻頭に工業デザイナーのソール・バスによる文章が掲載されているのも大変貴重なのだ。彼の手による「黄金の腕」のサントラ盤のジャケットは、この世界では誰もが認める名作である。また彼がCIを手掛けた日本の企業も数多く存在することは、意外に知られていない。京王百貨店、コーセー化粧品、紀文食品など、かなりの数にのぼる。いろいろ深掘りすると果てしなく楽しい世界が広がっているのである。

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本来なら、映画監督による分類も必要だろうし、音の方でいろいろ分類し、ご紹介すべきものかもしれないが、自分の場合、監督の個性はよくわからないし、多く聴き過ぎたか、これと言って好きな作曲家がいるわけではない。サントラの世界では、ジョン・ウィリアムズを筆頭に、ジェリー・ゴールドスミス、アンドレ・プレヴィン、ジョン・バリー、ラロ・シフリン、ヘンリー・マンシーニ、クインシー・ジョーンズといった大御所がいっぱいいらっしゃるので、目移りしていけない。また、一般的なポピュラー・ミュージックとも違った独特の世界が、実は自分の好みではない。そんなわけで、ジャケットだけを楽しむ偏狭な趣味に行きついてしまったのである。

さて、ジャケットなら何がすきだろうか?「ワイルドサイドを歩け」の猫も好きだが、「マイ・フェア・レディ」の、もうアートの域に達しているポスターと同じ絵柄のサントラ盤も予備を買ってあるほどに好きなデザインだ。「シンシナチ・キッド」「グランプリ」「アパートの鍵貸します」といったあたりも、大好きなイラスト・ジャケットだ。いずれも甲乙つけがたい。

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さて音楽では何がオススメだろうか。「風とともに去りぬ」「第三の男」「大脱走」「2001年宇宙の旅」あたりは、年代にかかわらず好きな曲だ。また「タクシードライバー」や「愛と青春の旅立ち」など、少し後の時代のものが曲としては好きだったりする。映画は好きではないが、「エクソシスト」で使われた「チューブラー・ベルズ」も個人的には避けて通れない一曲だ。「イージー・ライダー」「明日に向かって撃て」あたりは、時代とともに語りたい。…さて、どうしたものか。砂町文化センターの講座「レコードの魅力(洋楽編)」は毎月第4月曜日開催、…まだ少し時間はある。悩ましい選曲となるが、思い切り悩むしかあるまい。


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