見出し画像

続・下町音楽夜話 0301「時短要請に応じるレコード屋」

新年早々の緊急事態宣言を受けて、営業時間の短縮に踏み切った、…などと言えば苦渋の決断の結果、売上高への影響をやむなしとする行動のようだが、それは飲食店でも居酒屋やディナーが中心のレスランの話であって、ランチ中心のカフェめし屋はさほど影響がない。もちろん客数がかなり減っているので、影響が無いわけはないのだが、それは時短による影響ではない。これまでの頻度でランチに出られなくなったビジネスマン連中の減少などが主な原因だろう。

たまの出勤日に顔を出してくれ、「リモートになってしまってね、申し訳ない」とおっしゃる方もいらっしゃれば、「テレワークで調理する機会が増えて、ジンジャーのような店の有り難さが身に染みる」などとおっしゃる方もいらっしゃる。確かに売り上げが減って困ってはいるが、お客様とこういった会話を交わす機会を与えられたことは、不幸中の幸いと考えるべきだろう。これまで話したこともなかった方から、ご挨拶を頂けるだけでも嬉しいではないか。お互い非常事態だからこその気付きでもあり、人の繋がりの有り難さまで再認識させられている。

それにしても中途半端な時短要請などどれだけ効果があるのだろうか。18時までなどと言われれば、ディナー・タイムの営業を諦める気にもなるが、20時までというのであれば、一応やることになる。やったところで、お客様に「アルコールは早めにオーダーして」とか言うことになる。そもそも急かされて食べる食事が美味しいわけがない。また前回のように営業自粛となれば休業手当も支払うが、時短だとアルバイト・スタッフは給料が減るだけなので、余計に困ったことになるではないか。まったく生活者目線での施策ではない部分が腹立たしい。

さて、飲食店でもあるがレコード・ショップでもあり本屋でもあるウチは、物販なのに時短要請に従わなければいけないという捻じれが生ずるレア・ケースでもある。当然そんな部分の補償など念頭になかろう国や都に何を言っても始まらない。ウェブ通販の拡大強化しかできる作業がないというのが現状だ。もともとテイクアウトはやる気がない。デリバリー中の衛生面の不安もあれば、アレルゲンや賞味期限の表記などもきちんとできる環境がない。営業許可の形態も違うので違法だ。そもそも冷めて脂が固まったポークジンジャーが美味しいわけがない。電子レンジで再加熱したものをウチの味だと思われたくもない。いい音が鳴っている空間で、熱々をハフハフ食すから美味いのだ。

このタイミングで、CHILL OUT Coffee & RecordsのM氏が委託販売の中身をごっそり入れ替えてくれた。実に嬉しい。彼のセレクションは、ブラック・ミュージック全般、かなり多岐にわたる。ロバータ・フラックやマーヴィン・ゲイなどの自分でも興味があるクラシカルなものから、名前すら聞いたこともない最近のヒップホップものまで、いろいろな盤が小宇宙を形成している。結構コアなジャズも混じっているから、最近の若者の柔軟さを如実に物語っている箱なのである。段ボール3箱とはいえ、この3箱があることで、売りレコードのコーナーがやたらと充実したものになっている。実にいい箱なのである。

こちらも7インチ盤の内容をもっと充実させたくなってきた。ここにきて、ブリティッシュ・ロックの非売品も密かに放出している。ザ・フーや初期ロッド・スチュワート、70年代のエリック・クラプトン等、それなりに希少価値のありそうなブツをドンと出してみた。12月の販売数がかなり多かったこともあって、販売ボックスの中がスカスカになっていたのだが、ある程度のところまで戻すことができた。新規に買い付けをしてというわけには行かない状況下、出せるものがあるだけラッキーと思うべきだろう。

ついでに絶対に手放せないような盤まで出してしまった。あまりスペースに余裕があると盤が傷むので仕方がない。これまで最高値の値札は30,000円だったのだが、とうとう98,000円が数枚登場した。先日某音楽情報誌の取材を受けた際に「これは売ってはいけない」と言われたものも含め、とにかく「非売品」を無くす作業に取り組んでいる。

蔵出し作業をやりながら気になる盤はターンテーブルに載せることになる。久々に聴いた盤の中に、明らかに記憶とは違う鳴りのものがある。店を始めてから一度も聴いていなかった盤は、システムが違うので当然だとは思うが、「それにしても、こんなにいい音だったっけ?」と首を傾げたくなるものがいくつか出てきた。前回も書いた、自宅に仕舞い込まれていたスリーヴなしの輸入盤である。オリジナル盤とか初回プレス盤などというヤツなのだろうか。同曲の国内盤が端正で大人しい鳴りを聴かせるのとは明らかに違う。ボリュームのレベルがあまりにも違い、慌ててアンプに駆け戻ること数度、…ひょっとして、しばらく聴き比べが必要ということか?意外なところで、新しい遊びを見つけてしまった感が沸き上がっている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?