現代高校生が犬を拾ったら犬娘になりました

前話です↓


【3話:チョコの感情】

 あるじに拾ってもらって約3か月。
 わこはこう思っていた。
(あるじは否定するけど、あるじってモテそうな感じがするなあ……)
 そう思うと同時に、胸がチクりと痛む。
 この感情は何だろう。
 あるじにいろいろ教えてもらったけど、まだこの感情の正体はわからない。
 わこの朝は5時から始まる。
 5時に起きて身支度をしてからあるじのご飯を作り始める。
 パパとママはこの時間からいないことが多いから、ご飯はわこが作ることが多い。
 あるじもご飯は作れないことはないけど、複雑なものになると炭になることが多いから基本的にご飯はわこがつくることになっている。
「おはよー……」
 あるじが起きてきた。
 ちょうど味噌汁みそしるを作っていたからその匂いにつられて起きたのだろう。
「今日もチョコの作るご飯はおいしそうだな」
「えへへ、ありがとお、あるじ」
 そう言ってほめてくれるあるじ。
 うれしくてついふにゃりと笑ってしまう。
 今日はあるじの高校の文化祭らしいので、ついていくことにした。
 文化祭は10時から。
 あるじは学校のほうで集合があるから早めに行く、と言ってご飯を食べてからすぐに行ってしまった。
 文化祭開始まであと2時間ほどある。
 あるじはいつも学校で忙しくしていて、帰ってきてすぐに寝てしまう、なんてしょっちゅうある話だ。
 あるじがいなくても、かまってくれなくても大丈夫と思っていたけど、正直なところ、もっとかまってほしいし遊んでほしい。
 あるじに高校の過去問を解かされ、「この点数なら合格できる」と言っていたけど、本当なのだろうか。
 今わこが生きて居られているのはあるじのおかげ。
 あるじが拾ってくれなかったら今頃わこは野垂れ死んでいただろう。
 だから、というべきか、あるじには感謝しているし、あるじが望むことはなんでもしたいと思う。
 逆に言えば、あるじがいないと悲しくて寂しくてつらい気持ちになる。
 あるじが居ればいつだって楽しくて元気になる。
 そのくらい単純で依存していることぐらい自覚している。
 それでも、あるじの元にいたいと思うようになってしまった。
 もしかしたら内心でめんどくさがられてるかもしれない。
 いつの日か捨てられてしまうかもしれない。
 そんな恐怖と闘いながら生きている。
 そんなことを思っていたら10時になりそうなので高校に向かう。
 今は文化祭を楽しむことが最優先だ。


【4話:文化祭】


 家から徒歩で数分の圏内に高校がある。
 校門は派手に装飾されていかにも「祭り」ということを強調している。 受付でパンフレットをもらって中に入る。
 あるじからお小遣いで三千円をもらったのでとりあえず自分の好きなところに行こうと思う。
 お化け屋敷や展示、劇などを見て回り、お昼過ぎになったところで、あるじから連絡が来た。
『チョコ今どの辺?』
 あるじからのメッセージが送られてきてにやけてしまう。
『学校の中庭! あるじはどの辺なのー?』
 秒速で既読が付き、返事が返ってくる。
『今校庭の屋台トラックのところ。すぐ向かうね』
 そうメッセージが届き、ベンチに座っていると、あるじが走ってきた。
「おまたせー。まった?」
「ううん。数分しか待ってないから平気」
「よかった。じゃあ、お昼食べた後に一緒に回ろうか」
「うん!」
 わこはあるじと一緒にいれることがうれしくなって自然と笑顔になる。
 それから、わことあるじは学校を散策していくことになった。
 最初に回るところはさっきも行ったお化け屋敷。
 わこは楽しかったけどあるじは少し怖がってる。
 いつもと違うあるじがかわいいと思う。
「ほ、ほんとにここに行くのか? かなり怖いらしいけど……」
「もちろん! さっきも行ったけど楽しかった!」
「さっきも行ったのか……。すごいな、チョコは」
「えへへ。あるじはわこが守ってあげるから大丈夫なのだ!」
「じゃ、じゃあ行くか……」
 そうぐだりながらもお化け屋敷内に入る。
 中はかなりのクオリティで人間なら怖くて逃げ出したくなるらしい。
 でもわこは犬なので戦闘本能が強め! あるじを襲い掛かる敵には対抗することができる!
 ……まあ、そんなことしちゃダメなんだけどね。
 そして何事もなくお化け屋敷が終了。
 あるじはかなりびくびくしてたところがかわいいと思いました。
 そのあとも食べたりいろいろなところを回ったり文化祭を楽しんだ。
 しばらくすると。
「薫くーん!」
「ん?」
 ふと見るとクラスメートの女子が話しかけてきた。
 名前は確か……。かんなぎといったか。
「どうした?」
「クラスの出し物のここなんだけど……」
 そんな感じで会話が始まる。
 何の変哲もないただのアドバイス。
 ……の、はずなのに。
「…………」
 チョコがこちらを殺しそうな目で見ている。
 冷汗が止まらなかった。

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「…………」
 わこは思っていた。
 これはただのクラスメートとの会話だと。

 なのに。

 こんなに胸が苦しくなるのはなぜだろうか。
 その女子が悪いわけじゃないのに、なぜか今すぐ消えてほしいと考えてしまう。
 どうしちゃったんだろう、わこは……。
 頭がおかしくでもなったのか?

 それとも―― 

「この感情は、恋……」
 そう、誰にも聞こえない声で言った。
 心臓がさっきからわずらわしいほど鳴っている。
 あるじに聞こえないかが心配なほどに。
 でも、もう少しだけ、この感情を見ておくことにした。


【5話:告白】


 あるじに甘い感情を抱いてから数時間。
 おもいは強くなるばかり。
 あるじと誰か女子が話してたらつらくなる一方で、嬉しさがなくなってくる。
 そしてこの感情の正体は「恋」だと完全に理解し、その後どうするかを考えていた。
 いっそ告白をしてしまおう。
 それであるじに断られてもわこはあるじについていく。
 あるじはわこの主人様なんだから。
 告白できる時間は文化祭の後とこの後にある『熱き想い だれでも参加歓迎』というものだ。
 熱き想いはおそらく告白なのだろうと思っている。
 その時までは、存分に文化祭を楽しもう。
 とにかく笑顔で楽しむことが大事だ。
 と思っていたのに。
 その時間は恐ろしいほど早く回ってきた。
「早川さん!! 部活で同じになった時から好きでした! 付き合ってください!!!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
 会場は大喧騒けんそうしていた。
 心臓の高鳴りがやまない。
 今にも破裂しそうなほどに。
 大丈夫かな……。わこならできるよね……。
 そう自信をつけても、安心できる素材なんて何もなかった。
 告白が成功する確率は直観でも五分五分。
 安心ができそうでできない。
「次の子で最後だよー」
 生徒会長らしき人がそういうと周りは「えー」や「もっと見たいー」などの声が聞こえる。
「おそらくここの会場ならだれにも負けないかわいさを持っている子だから安心してねー」
 すると、男子が「どんな子だべ?」「絶対かわいいんだろうな」など声を荒げる。
「じゃあどうぞ! 薫君のところのお嬢様、チョコちゃんだよ!」
 そして、順番が回ってきた。
 かつてないほどに心臓が高鳴る。
 今すぐにでも帰りたい気分になった。

 だけど。

 わこは決めたんだ。
 この告白を成功させると。
 荒ぶる心臓の音をなだめながら、ステージに向かっていく。
 すると「かわいい……」や「ケモミミだ!!」などの黄色い歓声が上がる。
「チョコちゃんの相手は誰かな?」
「あるじ……かおる君です」
 あるじは動揺どうようもせずにステージに上がってきた。
 そしてマイクが渡される。
 初めてマイクを持った。
 想像以上に重くて。持ちづらい。
 緊張で顔がこわばる。
 のどがかれそうになって声が出そうにない。
 だけど、ここまで来たならやり遂げないと。
 わこは一気に息を吸い込んでこういった。


「わこは、主のことが好き」


 つたないたった一言。
 でも、言いたいことを簡潔にまとめた。
「わこがあるじの何を知ってる、て感じだけど、わこはあるじが世界一好き。わこのすべてをささげたいぐらい」
 一度声にしたら止まらなかった。
 会場は静寂せいじゃくに話を聞いている。
「わこと出会ってからまだ数日しかたってないけど、わこにたいするあるじの優しさに、温かさに、すべてに惚れた。わこを拾ってくれて、しかも家族にもしてくれた。さらに勉強まで教えてくれた。致せり尽くせりな環境に、温かい『家族』にわこは心を打たれてしまった」
 閑寂とはこのことなんだな。
 静かすぎる。
 あるじも真剣な顔で話を聞いている。
「わこは生まれてからずっとひとりぼっちだった。誰にも助けを呼べなくして捨てられてた場所に置き去りにされた。だけど、あるじが来てくれた。抱きしめてくれた。人間の温かさを教えてくれた。だから、わこは好きになった。だから――」
 最後に全力で息を吸って、大切なことを言う。


「わこと付き合ってください」


 そう、言い終わった。
 なんか、いろんな感情がまぜこぜになっている。
 だけど。
 なぜかすっきりしている。
 これでいいんだ。
 良くも悪くもこれで――


「いいよ」


 ……?
 今、「いいよ」って聞こえた……?
「い、いま……いいよって?」
「うん。いったよ」
「な、なんで?」
「なんで? そんなの単純じゃないか」



「僕もチョコのことが大好きだからだよ」




#創作大賞2023


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