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現代高校生が犬を拾ったら犬娘になりました


前話です↓


【1話:チョコ】

 雨の降っている日に衰弱した犬をうちに連れて帰ってきた。
「……そんな感じで、犬を拾ったわけなんだが、うちで飼うのはいいか?」
 俺、秋田薫はそんなことを両親に伝えた。
 俺の両親はどちらとも中老〜高老の年齢でかなり歳を食っている。
 なので、かなり心は広い方だろう。
「んー……、薫は犬の世話は知ってるのか?」
 一番の問題はそこだ。
 俺が犬の世話の方法を知らないことだ。
 ちなみに、母は不在中。
「私としては別に構わないのだけど、薫が犬の世話を知らずにただでさえ衰弱している犬に余計なものを食べさせて死なせたくはないだろう。だから、わからないなら勉強するか、保健所に預けるかしかないんじゃないかな」
 最もなセリフだ。
 だが、初めて生き物を拾って、何故だか少し手放したくないという感情が浮いている。
「……たしかに、犬の世話はわからないし、たぶんしんどいものだと思う。だけど、俺はこの犬を拾っていなかったら、この子は今頃雨に打たれて低体温症で死んでしまってただろうから、何とか頑張ってみせる。死なさせはしない」
 すると、親父が背中を押してきた。
「よく言った。それでこそ私の息子だ。私たちも協力するからその犬と一緒に暮らしてみようか」
「……おう!」
 そんな感じで犬の引き取りが決定した。
 まずはこの子はかなり濡れているのでタオルに包んで体を拭いてあげる。
 親父は犬用のご飯等を買いに行った。
 優しく、なるべく脅かさないように拭いてあげると、尻尾が少し上がった。
 だが、すぐに下がってしまう。
 きっと、辛い思いをしているので人間が信用できないのだろう。
「……大丈夫だよ、君を不安になんてさせないから」
 そんな感じで声をかけつつ濡れた体を拭き取り終わるとこの時期は冬なのでストーブに連れて行ってあげる。
「大丈夫だよ、触らなければ暖かいだけの器具だから」
 手を喉あたりから触れ、頭を撫でてやる。
 できるだけタオルは取らないようにして。
 俺がストーブに座ると、隣に犬も座ってくれた。
 少しだけ、距離が縮んだ気がした。
「色々買ってきたぞー」
 親父が帰ってきた。
 手には大きなレジ袋が三つほど。
 エサやトイレ、ブラシなどが入ってるように見えた。
「そういや、この子の犬種は?」
「わからんけど、たぶん秋田犬と芝犬のミックス犬」
「そして肝心な病院に連れて行ってないが、大丈夫なのか?」
「一応連れて行きたいんだけど、どうやって連れて行けばいいのかわからん」
「リード買ってきたし、繋げておけば平気では」
「確かに」
 そんなわけなので、ご飯と水をあげたら病院に連れて行くことになりました。
 ご飯は少しためらったが、ちゃんと食べてくれた。
 水やトイレも言われなくても問題はなさそう。
 結構賢い子なんだな。
「一回病院に行こうか。一応衰弱してて体のどこか調子悪かったらまずいし」
 リードを繋げて頭を撫でてやる。
 尻尾はまだ少し下がっている。
「名前まだ考えてないんだな」
「いろいろあってまだ考えれてない」
「そうか。じゃあ行くぞ」
 この子を連れて病院に行く。
 動物病院は車で約一時間のところにある。
 ここはうちの町で一番大きい動物病院で、犬、猫、ネズミ、ウサギなど、多種多様な動物がいる。
 問診票を書き終り、待っていると順番がきた。
 病院を察知したのか、尻尾は下がってビクビクしている。
「大丈夫だよ、嫌なことはたぶんしないから」
 そうやって声をかけてやる。
 怖がって震えている。
 震えて俺にくっついている。
「だ、大丈夫ですよね……?」
 つい不安になって聞いてしまう。
 すると、お医者さんはニコッと微笑み、こういう。
「大丈夫だよ。たしかに衰弱はしているものの、栄養を与えて看病してあげれば回復するよ」
「……よかった。ありがとうございます!」
「お大事に」
 そう言って診察は終わった。
 栄養価のある食品をもらい、帰宅。
 家に着くと、母親が帰宅していた。
 母親曰く、母は犬アレルギーなので飼えないとのことだ。
「ごめんね、飼ってあげたいのは山々なんだけど……」
 父は言った。
「しょうがないが、保健所に預けるしか……」
「嘘だろ……」
 衝撃の事実。
 ここまできてお別れなんて早すぎるし嫌すぎる。
「…………」
 犬が不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
 吠えも鳴きもせず、ただ静かに見ている。
「すまない、親が飼えないと言っているから。君はうちにいられない、きっとここよりも良い飼い主が見つかるから。その飼い主に——」
 言葉を言っている最中に犬が光り、人の形になった。
「あるじと離れるのいや! わこ、あるじとずっと一緒にいる!」
「「「…………」」」
 家族全員で目を見張る。
「え? なに? 何が起こったの?」という表情。
 ただの犬が人になりうるなんて小説や漫画じゃあるまいし、などと俯瞰していたが、頬をつねり、痛みを感じたので現実だと確信した。
「わこ、あるじの元にいる! ずっと付いてく!」
「…………」
 突然の出来事すぎて処理が追いつかない。
 茶髪に小柄な体、ハムスターボイスを思わせるような可愛い声。
 それに耳と尻尾。
 ケモっ娘と称しても違和感がないこの子はさっきの犬なのか?
「おーい? あるじー? 生きてるー?」
「……えっと、君は俺が拾ってきた犬?」
「そうなのだ! わこはあるじに拾われたのだ!」
「マジか……」
「わこ、あるじに拾われて嬉しかったのだ! 五回明るい時と暗い時が回っても誰もきてくれなかった。でも雨の日、あるじはそばに来てくれた。拾ってくれた。温めてくれた。だから、わこがあるじについていく!」
「「……本当なの?」」
「……一応拾った感じはそれで合ってる。しかし五日も放置されてたのは知らなかった。頼む! この子と暮らさせてくれ! この子は俺が命かけても世話してみせるから!」
 すると、熱意が伝わったのか、両親はこう言った。
「言質とったからね。この子を捨てたりしたらただじゃおっかないよ。それでも育てる覚悟があるならいいよ」
「……おう! もちろんだ!」
「その前に、名前をつけてあげなきゃ。なんか案ない?」
「うーん……。『チョコ』とかは? 全体的に茶色系の毛並みだったし、人の姿でも髪の毛は茶色だから」
「チョコ……。わこ、気に入った! 今日からチョコ! よろしくね、あるじ!」
 とても気に入ってくれたようで、覚えるように復唱する。
「あるじじゃなくて薫ね。あるじでもいいけど」
「うん! あるじ、すき!」
「わっ」
 チョコが飛びついてきた。
 女の子に慣れてない自分からしたら少し気恥ずかしかった。
 ちなみに服は母親が着替えさせてました。
 ゆったりした服にスカートのラフで着替えやすい格好。
「微笑ましいな」
「そうね」
 これから俺とチョコの生活が始まる。
 

 【2話:チョコのルーティン】

 先日捨て犬だったチョコを拾いました。
 犬からなぜか擬人化し、かわいい女の子になりました。
 ケモ耳とケモ尻尾のついた子です。
 あらすじは以上です。
「ずいっ」
 近いです。
「ど、どうした?」
 とても近いです。
 距離およそ5センチ。
 目の前に可憐な顔がありドキドキしてます。
「あるじ、誰に説明してるの?」
「いや、みんなにって言ってもわからないか」
「みんなってだぁれ? この家にはわことあるじとあるじの両親さんしかいないよ?」
「いや、なんでもない……忘れてくれ」
「? 不思議なあるじ」
 そんな感じで怪しまれたり不思議に思われたり。
「あるじあるじ、わこ、おさんぽ行きたい」
「散歩か。いいね。どこのルートがいいんだろ」
「わこ、この辺よくわからないからあるじにお任せで」
「了解。疲れたりしたら言うんだぞ」
「はぁい!」
 そんな感じで急に散歩に行ったり。
 チョコは本当に犬だったんだなと思えて面白い。
「あるじ、お腹すいた」
「散歩の途中って腹減るもんなのか」
「わこ、朝ごはん食べ忘れた」
「そりゃ腹減るわな。これでいいか?」
 朝ご飯を食べ忘れるチョコ。
 チョコは一応人間の姿なので、人間と同じ食べ物を食べても問題ないらしい。
 そこで出したのは一本満○バー
 一本で満足できない詐欺商品と謳われているが、そこは置いておいて。
「わぁい! あるじの食べ物不思議なもの多いけど美味しいからうれしい」
 ふにゃりと笑う姿がとても可愛らしい。
 こんな感じで様々な感情変化が見られて面白い。
 まだ拾って三日目。
 それでもいつも尻尾は上がってるし笑顔が止まらないのはなぜだろうか。
「ぎゅ〜」
「ど、どした?」
「あるじ、また『考え事』してたの? もしかしてわこと付き合いたいとか?」
「ばっ! ち、ちげーし! でも、考え事してたのはその通り。よくわかったね」
「ふふん。わこにかかれば朝飯前なのです」
 ドヤ、と膨らみのいい胸を惜しげもなく突き出してドヤ顔をするチョコ。
 てか、朝飯前とかどこで覚えた。
 休憩兼朝ごはんをとり、散歩を再開する。
 朝ごはんを食べてる時はチョコは美味しそうに食べてました。
 耳をピョコピョコ、尻尾をパタパタ。
「あるじはいつもこの時間は何やってるの?」
「うーん、いつもは学校に行ってるけど、今は長期休みだから、のんびりできてる」
「がっこう? 楽しい?」
「人による。ともだちっていうのが多い人は楽しいだろうし、楽しいの基準は人によるね」
「なるほど……わこもあるじと同じ『がっこう』行ってみたい!」
「学校に行くには勉強ってもんが必要でね、簡単に言えば頭が良くないといけないんだけど、大丈夫?」
「勉強……あるじと同じ学校に行けるならわこはどこまでも頑張れる! あるじ! 『べんきょう』教えて!」
「わかった。まずは小学校の勉強からやろうか」
「はぁい!」
 そんな感じで、最近はのんびり話しながら町の周りを一緒に歩いている。
 そして帰宅時間がお昼すぎになったところで。
「あるじ、今日のおひるはなーに?」
「んー、チャーハンにでもしようかな」
「ちゃーはん?」
「米を卵と野菜でフライパンの中で焼いたもの。中国っていう国発祥のご飯だよ」
「なるほどー! あるじのちゃーはんたのしみ!」
 早速チャーハンの料理に取り掛かる。
 ベーコンや野菜を炒め、米を入れ、溶き卵を混ぜる。
 好みで塩コショウをかけて完成。
 シンプルなチャーハンだ。
「おぉ、あるじ! ご飯が黄色!」
「それは卵の色だよ」
「いただきまーす!」
 チョコがもぐもぐしてる姿はなぜか和んでとても心地の良い空間となる。
「あるじ! 料理上手! |美味≪おい≫しい!!!」
「そこまでじゃないよ。照れるし」
「あるじが照れるのかわいい」
「そ、そんなことないし」
「でも顔真っ赤」
「う……」
 そんな感じで仲が良い俺とチョコ。
 はじめは親も「仲良くできるの?」などと不安になっていたが、その心配はもういらなそうだ。
「あるじ、そろそろあるじの勉強知りたい」
「そうだな、そろそろ教えるとするか」
 そういって食べ終わった食器を下げ、小学生用のドリルを出す。
「け、けいさん、ドリル?」
「そう。よく読めたね」
「わこにかかればこの程度朝飯前なのだ!!」
 ドヤ、とふくらみの良い胸を強調する。
 うん。ちゃんとかわいいね。
 推すしかないね。
 さてと……。
「じゃあ、『勉強』始めようか。とりあえず簡単な計算からね」
「はぁい!!」
 威勢の良い返事が返ってくる。
 元気そうなのがとても良い。
「……だから、ここの面積の(12/5)-(37/5)は-(25/5)になるから約分して-5になるね」
「なるほどお!! あるじ、天才!!」
「実際に考えたのは僕じゃなくてもっとすごい人だけどね」
 すごいな、犬の理解速度って。
 人間の比にならないくらい早い。
 3時間ほど前に小学生の学習を始めたのにもう中学生の範囲まで進んでいる。
 実はやはり天才なんじゃ……。
「じゃあ、少し問題を出してみるから、頑張って解いてみてね」
「はあい!」
 少し難問を課してみたので少しは苦戦してくれるかな、なんて思っていたら。
「できた!!」
「早っ!」
 とんでもない速度で解き終わっていてびっくりしかしなくなってしまった。
 しかも。
「す、すごい……。全部あってる」
「ほんと? やったあ!」
 なんという天才性。
「じゃあ、もう一個難易度上げたやつ出してみるから、やってみようか」
「はあい!!!」
俺のとっては楽しくない勉強でさえ、チョコは楽しそうにやっているからよかった。
 内心
「勉強つまんない!!! やだ!!!」
 などと言って暴れだすものかと思っていたがそれは思い違いらしい。
 これからも勉強を楽しんでほしいと思うのであった。

#創作大賞2023

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