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資料分析の方法を教えるときに役立つテキスト

 縁あって、「文書をネットやアーカイブで探してきて質的に分析する方法」のゲスト講義をする機会を頂きました。
 近年は、この種の方法を教えるのに役立つテキストが多数刊行されています。ありがたいことです。
 この記事は、その中から講義準備で有用だったテキスト(これまで読んだことがあるもの+新たに教えて頂いたもの)の覚え書きです。今後、同種の授業をされる方の参考になれば幸いです。
 講義での進行に沿って記載しています。


1 なぜ歴史をみるのか

基礎からわかる社会学研究法

 「第Ⅱ部 文書資料を読む」>「第5章 歴史資料に社会を見出す」(本多真隆)は、歴史研究の基本的な考え方や特徴から言語化してくれていて助かります。「なぜ歴史をみるのか」は5章1節のタイトルをお借りしました。
 第Ⅱ部の他の章も(後述)、具体的な研究例&平易な表現で歴史研究の方法をガイドしてくれていてとてもよいです。

2 資料を探す

2.1 資料を選ぶ

基礎からわかる社会学研究法

 前掲の「第Ⅱ部 文書資料を読む」>「第6章 新聞・雑誌記事から社会を読み解く」(野田 潤)、「第7章 公的な文書資料から社会規範を読み解く」(元橋利恵)が参考になります。
 これらは特定の媒体の「定点観測」をするパターンの研究で、「定点観測すること」自体についても解説しており目配りがきいています。
 研究をする上では、資料選択の理由づけを説明する必要がある。媒体の特徴(性質、読者層、編集方針など)を掴むことは、分析の限界を把握するだけでなく、積極的・戦略的な資料選択の根拠づけとしても使える。
 言われてみれば当たり前のことで、私たちは普段やっているんですが、改めて学生に伝えるにはちょっと工夫が必要ですよね。平易なテキストの形で、しかも具体例を通じて解説してくれているのはありがたいです。

2.2 インターネットで探す

国立国会図書館リサーチ・ナビ

 人に教えるときに、やはりまとまっていて役立つのは国立国会図書館サーチ リサーチ・ナビですね。
 卒論あたりで最も使うのは「新聞」「雑誌記事索引」でしょうか。
 私は「地方の新聞を調べるには」を見つけたとき、「これを院生のときに読んでおきたかった!!!」とかなりショックを受けました。

 新聞・雑誌については、『調べる技術――国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』の「第6講 明治期からの新聞記事を「合理的に」ざっと調べる方法」、「第7講 その調べ物に最適の雑誌記事索引を選ぶには」も参考になります。豊富な画像付きで解説してくれているため、具体的な検索手順がイメージしやすいのもよい点です。

『調べる技術』

2.3 所蔵機関を探して訪ねる

『日本・近現代史研究入門』

 この本はなぜ私が院生の時になかったんでしょうか(泣)、と思うくらい良い本です。
 特に「第Ⅰ部 研究を始めよう 論文を書き終えるまで」(松沢裕作・高嶋修一)は、初学者向けに歴史研究のプロセスを平易に解説してくれていて「これさえあれば大丈夫」感があります。
 その中で「5 所蔵機関を探して訪ねる」は、史料館や図書館等での資料収集のプロセスをわかりやすく言語化してくれています。
 「開館日と開館時間を確認することは必須」「できれば午前中の早い時間から」など、一見何気なく見えても実は非常に重要なことを書き出してくれています。「そうそう!」と思う箇所の多い、かゆいところに手が届く章です。

3 資料を読む

『日本近・現代史研究入門』

 「第Ⅰ部 研究を始めよう 論文を書き終えるまで」(松沢裕作・高嶋修一)>「6 史料を読む」は、史料の読み取りについて具体例をまじえて解説してくれています。
 私は本章を読んで初めて、自分がこれまでやってきた「資料の文字起こし」に「筆耕」という名前があることを知りました(笑)。
 また「史料批判」についてはもちろんですが、「書いてあることと、実際に起きたことが一致しているかどうか、疑わしい場合」の史料の使い方(p. 93)の解説などもあり、目配りが行き届いた章になっていてとてもよいです。

4 資料を分析する

『最強の社会調査入門』

 「第Ⅳ部 読んでみる」>「14 「ほとんど全部」を読む――メディア資料を「ちゃんと」選び、分析する」(牧野智和)は、具体的な研究例をもとに資料分析のプロセスを説明してくれています。
 コーディングのやり方なども提示されていて、具体的作業としての「分析」のイメージがつきやすいのがよい点です。

『基礎からわかる社会学研究法』

 「第Ⅱ部 文書資料を読む」>「第5章 歴史資料に社会を見出す」(本多真隆)は、「資料をつなげる線を引く」という分析の基本的目標を提示した上で、社会学における歴史資料を用いた分析の「パターン」を紹介してくれています(理論を適用する/生成過程を追う/変遷をたどる)。
 私たちはよく研究の「ストーリー」という言葉を使いますが、これを見出すことを学生に(というか、他者に)教えることは非常に難しいと感じます。本章の解説はその難しい部分を教える上でとても役立つ記述になっています。

おわりに

 私自身は、自分があまり体系的な歴史研究のトレーニングを受けてこなかったこともあり、方法を言語化して人に教えるのがとても難しいと感じています。

 教えるのが得意な人はともかく、そうでない私のような人は、既にこれらの作業を言語化してくれているテキストの力を借りつつ、自分なりの研究の経験や反省を加えることでよりよいレクチャーができるのではないかと思います。

 今後も色々なテキストが刊行されると思いますので、適宜本記事に加筆して残していきたいと思います。良書の情報などありましたら教えて頂けたら嬉しいです。