見出し画像

虚妄の成果主義

どうも、犬井です。

今回紹介する本は、高橋伸夫先生の著作「虚妄の成果主義」(2004)です。本書が書かれた当時は、「日本的経営」を批判する声が大きく、他国のように「成果主義」を導入しようとする風潮がありました。そんな世論に警鐘を鳴らす本です。では、以下で本の内容を書き綴っていこうと思います。

年功序列ではなく年功制

「日本型経営」を指すものとして、「年功序列」という言葉がしばしば使われる。確かに、日本の賃金は「年齢別生活保障型」の賃金カーブが基準にして、年を経ることに給与が上がっていく。また、最初の昇進時には、ほぼ同時期に一斉に昇進するため、20歳代くらいでは昇進・昇格・昇給に差がつかない。

しかし「係長」と言っても、エリート係長とそうでない係長のポストでは職位・給与は同じでも仕事内容がまるで違った

日本型の人事システムの本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕事で報いるシステムである。仕事の内容がそのまま動機づけにつながって機能していた。

そして、40歳代ともなると、仕事内容に遅れをとりながらも、明らかに昇進・昇格・昇給で差がついてくる。

以上のように、日本ではまず仕事内容で差がつくことが先行し、給料の差は後からついてくる。賃金は従業員の生活を守ること基準にして、従業員の働きに対しては仕事内容と面白さで報いる雇用システムが「日本型年功制」の真実なのである。

終身雇用が未来を保証する

日本では入社してから、定年退職するまで雇用を保証する「終身雇用」が採用されている。また、前述の通り、年を経ることに給与が上がっていくことも保証されている。その結果、将来の見通しが立ちやすく、住宅ローンや自動車ローンを安心して組むことができる。

また、終身雇用は日々の仕事を消化するだけになることを防止することを容易にする。上司は部下に対し、日々の仕事の意味や意義を教えるだけでよい。というのは、「今の仕事は多少はつまらないかもしれないが、将来こんな形できっと生きることがある」と日々の仕事の意味・意義を諭すことができるからである。逆に言えば、終身雇用のないところでは、意味や意義を見いだすのが難しくなる。

人は金のみにて働くにあらず

本書では、人は金銭的報酬で逆にやる気を失うということを心理学実験を根拠に主張する。その実験では、人は仕事の動機づけとして「金銭的報酬」よりも「仕事の面白さ」を優先することが示されている。

つまり、個人は外的報酬とは無関係に、高いパフォーマンスからは満足を引き出し、低いパフォーマンスからは不満足を引き出すのだ。

以上のように、元来、「職務遂行」と「職務満足」は一体のものであるが、「金銭的報酬」が二つの間に割り込んで、「職務遂行→金銭的報酬→職務満足」と一体であるものを分離させてしまう。

その結果、金銭的報酬が与えられなくなれば、職務満足が得ることができなくなるり、さらには次の職務も遂行されなくなってしまう。

このことは決して、職務に対して金銭が払われるべきでないと、主張するものではない。ここで言いたいのは、金銭は有能さに関する情報として使うべきものであって、稼いだ額に見合った報酬としては使うべきでないということだ。

日本的経営に対する評価

1950年代以降の約半世紀、日本企業の経営形態は大きく変わることはなかった。しかし、日本という国と日本の経済に対する国際社会での評価によって、日本的経営に対する国内の評価は浮沈を繰り返し、右往左往してきた。

その原因の一つは、日本の内外を問わず、研究者が評価する際に、その尺度を常に外的基準に求めてきたことにある。

日本企業と欧米企業のパフォーマンスの違いが、これまでそのままシステムの評価につながっていた。それは一見すると、「理論的」かもしれないが、所詮は後付けに過ぎなかった。

日本国内での評価が、ただ海外での評価を追随しているだけだったのだ。

あとがき

日本的経営を批判する声が今なお大きく、私の大学でも外資企業に就職する方が年々増えています。そうした傾向の良し悪しを言うつもりはありませんが、日本的経営について、いい面も、悪い面も今一度考える必要があるのではないかと考えています。その際の判断価値基準は外的基準に頼るのではなく、「日本の制度」や「政府の働き」、「資本主義の変容」などを包摂した独自の尺度に基づき、真っ当な評価を下す必要があると思っています。

では。

#読書 #推薦図書 #虚妄の成果主義 #成果主義 #高橋伸夫

この記事が参加している募集

#推薦図書

42,581件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?